1964年東京五輪のエンブレムが新五輪エンブレムとして使えない理由
先日の記事にも追記しましたが、大事なことなので改めて書きます。
新五輪エンブレムの案として、招致エンブレム再利用案に次いで国民の人気が高い案が亀倉雄策氏デザインによる1964年東京オリンピックの日の丸エンブレム再利用案だと思います(たとえば「東京五輪のエンブレムを使えばいい 椎名林檎、やくみつるが「再登板」を求める」)。
しかし、この案は現実的には困難だと思います。
第一に、オリンピック憲章には、オリンピックエンブレムは他のオリンピックエンブレムと明確に区別できなければならないと明記されています。過去のエンブレムと同じデザインをもう一度使うとこの規定に違反します。オリンピック憲章の改正はIOC総会で3分の2以上の可決が必要なのでそう簡単ではありません。
まあ、書き方としては、IOCが「明確に区別できると判断した場合には」となっているので、IOCが「明確に区別できるよ、TOKYO 1964とTOKYO 2020が違うから」と無理な解釈を言えば話は別かもしれません。
もうひとつの重要な問題点として商標登録があります。日の丸マークとTOKYO 2020の文字を組み合わせて商標登録することは可能です。TOKYO 2020の部分が識別力ありとされるからです。そもそも、TOKYO 2020単独の文字商標は既に組織委を権利者として登録されています(通常は「地名+年号」の商標は識別力なしということで登録されませんが、これについては組織委がオリンピック関連で使用すれば識別力を発揮するだろうという理由で登録されています)。しかし、日の丸マーク単独での商標登録出願は一部商品に類似先登録(たとえば、サントリーが権利者である赤玉スイートワイン(旧名称:赤玉ポートワイン)の商標登録(47815号)(明治44年(1911年)の登録です))があるので困難です。ひょっとすると国旗と類似するという理由で登録できないかもしれません(商標法4条1項1号)。ついでに言うと、佐野エンブレムは五輪マークありバージョン(商願2015-70542)となしバージョン(商願2015-70541)の両方が出願されています。
五輪マークとTOKYO 2020を付けた状態で商標登録したとしても、五輪のマークもTOKYO 2020もつけず日の丸マークだけを使ったまぎらわしい非公式グッズの販売は防げません(日の丸部分の識別性が弱いからです、これに対して招致エンブレムは花輪部分の識別性が強いので五輪マークやTOKYO2020なしの商標に対しても権利行使できる可能性が高いです)。加えて長期的に使われてきた赤丸を使った商標(たとえば、日の丸交通のタクシーや前述の赤玉スイートワイン)と区別しにくいという問題もあります。
つまり、1964年東京五輪エンブレムとしてはデザインとしては素晴らしいもののシンプルすぎるがゆえに商標登録してライセンスするには向いていないのです。こういう状況をスポンサーが許容するかという点が問題です。なお、オリンピック憲章でもエンブレムを登録により保護することが求められています。
1964年の五輪はアマチュアリズムの祭典でした。エンブレムを商標登録してスポンサーにライセンスして収益化するという今日の五輪の世界とは全然環境が違います。当時のエンブレムをそのまま現在も使うというのはそもそも無理筋なのです。