招致エンブレムを大会エンブレムとして使うことは本当にできないのか?
招致エンブレムを新五輪エンブレムに流用せよという意見、別に私だけではなく、多くの国民の意見だと思います。ちょっと前に書いたように商標調査・登録が無事完了している点でもメリットがあります。
しかし、規則により、招致エンブレムは大会エンブレムとしては使えないというのが、組織委の回答でした。具体的にどの規則に基づいて駄目なのかがはっきりしていませんでしたが、朝日新聞の記事に具体的な回答が載っていました。
IOC憲章(Olympic Charter)が根拠のようです。では、当該箇所を検証してみましょう。
その前に、そもそもこの文脈における「エンブレム」とはどういう意味なのでしょうか?五輪憲章には以下のように書いてあります。
つまり、「五輪マークと他の識別力のある要素を組み合わせた統合デザイン」ということです。
気を付けて頂きたいのは、おなじみの桜の花輪マークとTOKYO 2020を組みあわせた図形はそれだけではエンブレムではないということです。このような「識別力のある要素」と五輪マークを組み合わせて初めてエンブレムになります。ちなみに、招致エンブレムは、識別力のある要素とCANDIATE CITYの表記と五輪マークの組み合わせです(出典:Rules of Conduct Applicable to All Cities Wishing to Organise the Olympic Games(2022年以降版しか見つかりませんでしたが今回にも適用されると思います))。
では、大会エンブレムの作成に関する記載ですが、五輪憲章の当該部分は以下だと思います(後半のデザインに関する規定は関係ないので省略しました)。
確かに、JOCまたは組織委がオリンピックエンブレムを作ることができる(招致委は作ることができない)と書いてあります。しかし、JOCまたは組織委が桜のマーク(つまり「識別性のある要素」)と五輪マークを組み合わせてオリンピックエンブレムを作ることを禁止する規定はないように思えます。「識別性のある要素」を一から作らなければならないとはどこにも書いてありません。唯一、4.2の「他のオリンピックエンブレム」の中に招致エンブレムが含まれるのではという点が気になりますが、IOCの解釈次第ではと思います。
【追記】「1964年東京オリンピックの日の丸エンブレムを使えばいいんじゃないか」と思いつきで言う人がいたりしますが、この4.2の規定により困難だと思います。
ポイントは「招致エンブレムを大会エンブレムとして使う」のではなく、「招致エンブレムで使用されているマーク(識別性のある要素)を再利用して大会エンブレムを作る」ということです。
ちなみに、桜のマークの現在の商標権者は組織委ですし、マーク制作者の美大生の著作権も応募時点で(招致委を経て)組織委に譲渡されていると推定されますので、権利上の問題もないでしょう。前も書きましたが桜マークの商標登録はCANDIDATE CITYの表記なしで行なわれていますので、オリンピックエンブレムでも流用可能です。
招致エンブレムのマークを再利用するのは前代未聞だと思いますが、そもそも一度決まった大会エンブレムを取り下げること自体が前代未聞なので、ルールは柔軟に解釈すればよいのではと思います。
調査漏れがあるかもしれませんが、時間の許す限り検討してみました。
【追記】招致エンブレムは商用ライセンスできないから駄目なんじゃないかという意見もあります。確かに、上記のRules of Conduct Applicable to All Cities Wishing to Organise the Olympic Gamesにはその旨の規定があります。しかし、ここで問題にしているのは招致エンブレムではなく、招致エンブレムで使われていた「識別性のある要素」を流用したオリンピックエンブレム(大会エンブレム)なのでその規定は関係ないと解釈できるように思えます。