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【将棋】今年もドラマが生まれるのか?!-第81期順位戦B級1組~C級2組は最終戦-

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第81期名人戦・順位戦は、B級1組~C級2組の各クラスで最終戦を残すのみだ(延期分除く)。

 B級2組では藤井聡太竜王(20)のライバルと目される棋士達が昇級を決めるなど、3名の昇級者が全て決まった。

 一方でB級1組とC級1組は一人も昇級者が決まっていない。

 降級や降級点の行方も気になるところだ。

 順位戦は最終戦にドラマが起こる。

 各クラス最終戦を迎えての状況と注目ポイントをまとめた。

B級1組

可能性を残すのは表の3名のみ
可能性を残すのは表の3名のみ

 昇級者が一人も決まらず、高いレベルでの争いが続いている。

 2つの昇級枠を争うのは表の3名に絞られた。

 昇級の条件は下記となる。

中村七段・・・自身○or佐々木か澤田が●

佐々木七段・・・自身○or澤田が●

澤田七段・・・自身○and中村か佐々木が●

 中村七段(34)の最終戦の相手は羽生善治九段(52)。この大一番で数々の名勝負を繰り広げてきたレジェンドと初めて順位戦で対戦する。直近の対局は2019年のもので、この時は羽生九段が勝っている。

 佐々木(勇)七段(28)の最終戦の相手は屋敷伸之九段(51)。これまで5戦して一度も勝ったことがない相手だ。後手番でもあり、試練の一番といえよう。

 こうして対戦カードを見ていると、澤田七段(31)にも十分チャンスがありそうだ。

 果たしてどんな結末が待っているか。

 残留争いでは、丸山忠久九段(52)と郷田真隆九段(51)の降級が決定し、残りは1枠だ。

 久保利明九段(47)は負けると降級が決まる。久保九段が勝つと他の4勝者に可能性が出てくる状況だ。

 藤井竜王とタイトル戦で好勝負を演じている羽生九段も未だ4勝(12回戦は未消化で2月14日に行われる)で、僅かに降級の可能性が残っている。

B級2組

ここから下のクラスは昇級3名。B級2組は9回戦で昇級者が全員決まった
ここから下のクラスは昇級3名。B級2組は9回戦で昇級者が全員決まった

 このクラスは3つの昇級枠が全て決まった。

 大橋七段(30)は9回戦も快勝で飾り、順位戦での連勝を18に伸ばした。C級2組から3期連続の昇級は見事と言うよりない。

 増田(康)七段(25)も勝って昇級を決めた。北浜健介八段(47)との9回戦は、絶対に負けられないという気持ちのこもった指しまわしが印象的だった。

 両者とも昇級により七段昇段も決まった。藤井竜王のライバルと目されている二人が着実に後ろを追いかけている。

 3番手の木村九段(49)は、最終戦の不戦勝が確定している。それにより8勝2敗となり、木村九段を上回れる棋士はいない。

 この不戦勝は順位戦の対局当日(3月8日)につくため、事実上昇級が決まった状態だ。

 前期はやや不運な形でB級1組から降級したが、実力を証明する格好となった。

C級1組

昇級の行方は最終戦にもつれこんだ。可能性があるのは表の5名
昇級の行方は最終戦にもつれこんだ。可能性があるのは表の5名

 B級2組とは対照的に一人も昇級者が決まっていない。5名が絡む最激戦といえるクラスだ。

 全勝、1敗勢が白星を重ねた中、都成七段(33)が痛恨の黒星を喫して後退した。

 全勝を守った伊藤(匠)五段(20)は、角換わりから猛攻にあって大苦戦に陥ったが、一瞬の勝機をとらえて逆転した。

 1敗最上位の石井六段(30)は、どちらが勝つかわからない終盤を競り勝った。

 3番手の青嶋六段(27)は、苦戦の将棋を持将棋で引き分けに持ち込み、指し直し局も深夜2時をまわる大熱戦を制した。

 全員ギリギリのところで戦っていると思い知らされる内容だった。

 そして運命は最終戦に委ねられた。条件を整理しよう。

伊藤五段・・・自身○or石井か青嶋か渡辺が●

石井六段・・・自身○or青嶋か渡辺が●

青嶋六段・・・自身○

渡辺五段・・・自身○and伊藤か石井か青嶋が●

都成七段・・・自身○and青嶋が●

 順位と直接対決の関係で条件がややこしい。

 有利なのは首位の伊藤(匠)五段と2番手の石井六段で、負けても十分に可能性がある。

 一方、青嶋六段は自身が勝つより道はない。

 10回戦を見ていても、すんなりいくとは思えない。

 ドラマが起こる可能性も十分にある。

C級2組

最後の椅子は誰の手に
最後の椅子は誰の手に

 3つの昇級枠のうち、2つまで決まった。

 9回戦は上位陣が総崩れの大波乱となり、全勝と1敗のうち勝ったのは斎藤(明)五段(24)だけだった。

 その結果、全勝を守った斎藤(明)五段と、2番手の服部五段(23)の昇級が決まった。

 そして昇級のラインがやや落ちて、2敗勢にもチャンスが出てきた。

 最後の1枠の可能性があるのは4名だ。

 9回戦で初黒星を喫した古賀四段(22)が自力の権利を持っている。

 最終戦の相手である今泉健司五段(49)は9回戦に2敗目を喫して昇級の可能性がなくなった。

 とはいえ全力投球が持ち味の今泉五段であり、最近の公式戦では今泉五段が勝っている。古賀四段に大きな関門が待ち受けている。

 2敗勢の最上位は杉本(和)五段(31)。9回戦で服部五段に勝って生き残った。

 最終戦は佐々木(大)七段(27)との直接対決だ。いばらの道を突き進んだ後に歓喜が待つか。

 昇級の条件を整理しておく。

古賀四段・・・自身が○

杉本五段・・・自身○and古賀が●

梶浦七段・・・自身○and古賀と杉本が●

佐々木七段・・・自身○and古賀と梶浦が●

 2敗勢の3名の順位差はほんの僅か。しかしその僅かな差が明暗を分けるかもしれない。

 今期順位戦のトリを務めるこのクラス。前期も同様で、最後の最後に大きなドラマがあった。果たして。

スケジュール

 ここで各クラスの最終戦のスケジュールを見てみよう。

 全クラス一斉に対局が行われる。

(3月2日:A級)

3月7日:C級1組

3月8日:B級2組

3月9日:B級1組

3月14日:C級2組

 7~9日にクライマックスを迎える。今期順位戦の最大の山場といえる一週間だ。

 そして14日のC級2組をもって今期の全対局が終了となる。

 昇級争いはもちろんだが、残留争いにも注目が集まる。

 B級1組の最後の降級枠は誰になるのか。どの棋士が降級となっても重たい結果となるだろう。

 B級2組、C級1組ともに降級点を持っている棋士で不調者が少ないため、今期は降級者があまり出ないことが予想される。とはいえ当人にとって降級点は重たい現実であり、回避に向けて必死だ。

 一方、C級2組では降級点を持っている棋士に不調者が多い。

 C級2組は3回目の降級点でフリークラスへ降級となる。棋士にとって、フリークラスへの陥落は引退へのカウントダウンとなるため、C級2組での降級点争いには棋士人生をかけた戦いの側面があるのだ。

 最後に笑うのは誰か、泣くのは誰か。運命は3月に全て決まる。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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