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英国で来週から始まる、新型コロナのワクチン接種 配送や接種体制はどうなっている?

小林恭子ジャーナリスト
英政府は複数の新型コロナ感染症のワクチンを調達している(写真:ロイター/アフロ)

 英政府が2日、米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが開発した新型コロナウイルスのワクチンを医薬品・医療製品規制庁が承認し、来週から接種を開始すると発表した。

 コロナワクチンの承認は先進国では初めてとなり、ジョンソン首相や政府閣僚らは画期的な動きとして紹介した。すでに4000万回分(2000万人分)を注文しており、最初の1000万回分を近日中に入手する見込みだ。

 実際には、いつどのような形で接種が進むのか。

最初は80万回分が運ばれる

 まず、最初の配送分として80万回分がベルギーから英国に運び込まれる。

 接種を受ける人は年齢や感染リスクの程度によって9つのグループに分かれ、まずケア施設にいる高齢者やケア職員を最優先し、医療関係者がこれに続く。

 イングランド地方(人口の5分の4が住む地域)では50カ所に設けられた「ハブ(拠点)」で接種が開始される。国営の国民医療サービス(NHS)を利用する人を最初に診断する役目を持つ一般医(「GP」)が担当し、ワクチンのパッケージを安全に分けることができるようであれば、各ケア施設に分配する。ケア施設への配布は今月中には実現する見込みだ。

 今回のワクチンは1度目の接種の後、21日後に再度接種する仕組みとなる。

 ちなみに「9つのグループ」とは:

 

 (1)ケア施設にいる高齢者とそのケアをする職員

 (2)80歳以上及び医療分野・ソーシャルケア分野の前線で働く人

 (3)75歳以上

 (4)70歳以上及び医療上の理由からワクチンを接種した方が良い人

 (5)65歳以上

 (6)健康上の問題を抱える16-64歳の人

 (7)60歳以上

 (8)55歳以上

 (9)50歳以上

ワクチンを受けるまでの過程

 実際にワクチンを接種するまでの過程だが、まずNHSから連絡があり、ワクチン接種のための予約をするように言われる。

 イングランド地方では約1000の医療クリニック(一般医が常駐)が地域のワクチンセンターとして機能し、これ以外にスポーツの競技場やイベントセンターなどが拠点となる。

 スコットランド地方でも、来週ワクチン接種が開始される予定だ。

 ウェールズ地方は数日後には開始予定で、北アイルランド地方は12月14日から。

 全国各地でワクチン接種体制を実行するため、NHSは約3万人のボランティアを募っている。

 妊娠中の女性へのワクチンは2021年になってから提供される予定だ。ワクチンに危険性があるというわけではないが、今回の治験者の中に妊娠した女性が入っておらず、安全を期して接種対象にはなっていない。先の(1)から(9)のグループ分けを見ても、対象外になりそうだ。

 ワクチンの接種はNHSを通じてのものになるため、無料である。

裕福な人は先に接種してもらえる?

 社会的に影響力が大きい人や裕福な人は「自分を先にして、早くワクチンを打ってほしい」と主張するかもしれない。

 しかし、英国の話に限ると、今回のワクチンの場合、これは実現できそうにない。

 ファイザー社の英国マネージャー、ベン・オズボーン氏は「ここではっきりと、自信をもって言っておきたいが、当分の間、ワクチンを民間部門に提供するつもりはない」と語っている(フィナンシャル・タイムズ紙、12月3日付)。

 ワクチンをNHSにだけ提供することにしたのは、「公平性」を中心に据えたからだという。

 ファイザー社のサプライチェーンは非認可のワクチンが出回らないような仕組みになっているそうだ。

 英国の公衆衛生関係者によると、もしメーカー側が政府の注文を差し置いて民間の医療機関にワクチンを提供することになれば「供給契約を破ったことになる」。また、規制当局が民間への販売を止めるように動くだろう、という。

 ロンドンにある民間医療機関「プライベート・ハーリー・ストリート・クリニック」の創業者マーク・アリ氏は、フィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し、クリニックの顧客から連日、ワクチンにアクセスできないかという問い合わせを受けているという。

 「年明けには一部でも民間部門に入って来る」ことを望むアリ氏だが、「政府が民間の医療機関は扱ってはいけないというのであれば」、「これに従う」と述べている。

 筆者は、ワクチンについて「富裕度や住む国がどこかにかかわらず、公平に接種できるようにしてほしい」と願ってきた。

 英政府関係者がワクチン接種にゴーサインが出たことを喜んで語るたびに、「貧しい人はどうなるのか」、「貧しい国に住む人は十分に接種を受けられるか」が気になってきた。

 少なくとも英国については無料で接種できるようになり、ファイザーが現時点では民間には提供しないと言い切ったことで少しほっとしている。

 しかし、先進国以外の国に住む国民はいつ接種が受けられるのだろうか。貧しい国に住む人が締め出されてしまう可能性はないのか。懸念は消えない。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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