帝の飲み残しの薬を飲んだ宣孝(佐々木蔵之介)、薬を最期まで飲まなかった詮子(吉田羊)「光る君へ」
宣孝の死は悲しいけれど、彼の株はぐっと上がった
大河ドラマ「光る君へ」は折り返しに来て、想像の翼をぐんぐん広げているように感じる。第27回では、石山寺でまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)が再会し久しぶりに身体を重ねる。その結果、まひろは道長の子供を身ごもった。第1話、まひろの母が殺されたオリジナルエピソードに継ぐ大胆なオリジナル展開といえるだろう。
記録では紫式部と藤原宣孝(佐々木蔵之介)の子供とされている賢子は、「光る君へ」ではまひろと道長の子になった。
前作「どうする家康」もかなり自由に想像の翼を広げて描いていたが、「光る君へ」は、もしも紫式部と藤原道長が深い関係だったら、という「もしも」エンタメのようになっている。紫式部の記録がすくないため自由度は高いとはいえ、さすがにこれに同意する人とできない人と大きく分かれるのではないだろうか。石山寺は男女の逢瀬を行う場ではないと、冗談めかしてSNSで発言していたが、それも含めて大胆な創作ということになる。
とはいえ、賢子が道長の子となったことで、宣孝の株がぐーんっと上がった。
身ごもった時期はちょうど疎遠な頃だったから、なにかおかしいと宣孝は気づいているようで、でも黙っていた。それにまひろが耐えきれず、ひとりで育てると暗に離縁をほのめかすと宣孝は「そなたの子は誰の子でもわしの子じゃ」「わしのおまえへの思いはそのようなことで揺るぎはせぬ」などと寛大な心を見せる。結婚したとき、お互い「不実」と納得ずくだったではないかと。
宣孝がまひろを大事にしているのは、愛情も当然あるだろうが、道長の覚えもよくなるという出世欲でもある。いろいろなものを抱えて懐が大きい人物だ。SNSでは宣孝を絶賛する声で溢れた。
宣孝は、不実のすえに生まれた子に「賢子」というちょっと風変わりな名前をつける。名付け親かつ育ての親になったのだ。
道長に子供ができたことを報告したとき、はじめての女の子だと語る宣孝。それまで男の子ばかりだったなかで女の子というのもいろいろな意味で特別感がある。
そして、第29回。賢子に変顔を2連発し、
まひろ「いまの新しいですわね」
宣孝「え」
まひろ「もう一度お見せくださいませ」
などと愉快なやりとりをしたり、親子3人で美しい月を見たりした矢先――。
宣孝の北の方様から使者が遣わされ、俄な病で、宣孝は4月25日に身罷られ、弔いの儀も済ませたとまひろに淡々と伝える。第27回で宣孝は睡眠時無呼吸症候群の兆候を見せていたため視聴者を心配させた。が、北の方様は「豪放で快活であったとのさまのお姿だけをお心をお残しいただきたい」とだけ。使いの者も最期の様子を知らない。まひろは呆然となる。
正妻が、宣孝のお気に入りのまひろを避けたのか、それとも穢に触れないように気遣ってくれたのか。
道長が倒れて危篤状態になったとき、まひろが「逝かないで」「戻ってきて」と念じて、息を吹き返したこと(第28回)とは大違いである。
この年の正月、御薬の儀(番組公式サイトによると”御薬の儀は、正月に天皇へお屠蘇(※注1)などの薬を献じて、一年の無病息災を祈る儀式です。天皇の健康を祈り、病気から守るために行われる行事の一つになります。”とある)で宣孝は、天皇が飲みきれなかった薬を飲み干すひじょうに名誉な役割を担ったこともあり、ますます張り切っていたので、もっと長生きしてほしかった。
NHKの公式サイトの「君かたり」で佐々木蔵之介は「天寿を、まっとうしたと思っている」「彼女(まひろ)といると未来が見える」「本当に好きだった。惚れきっていたと思う」等、とても前向きに宣孝のことを語っている。おそらく、生命力があってばりばりと働いて、若くて聡明なまひろに刺激をもらって、かつ左大臣の覚えもよくなり、晩年、もう一花咲かせることができ、まだまだ先に行けると希望に満ちたまま逝ったのだろう。史実として残っている宣孝の最期よりもぐっと魅力的に描かれて、宣孝さん当人もお喜びではないだろうか。
「私は、薬は飲まないの」ーー詮子の死
第29回では、もうひとり、前半から活躍してきた人物が亡くなった。詮子(吉田羊)である。
父、兼家によって円融帝に入内させられ、帝の子(一条天皇〈塩野瑛久〉)を生んだものの、帝の寵愛を受けることなくさみしい人生を送った詮子。道長にだけ本音を話せ、彼の支えになって来た。最期に、一条天皇と定子の子・敦康親王を人質にして、中宮・彰子(見上愛)に養育させるように進言した。
「薬は要らぬ」「私は、薬は飲まないの」と最期まで薬を拒否した詮子に、道長が「あ」という顔をするのが印象的。この時代、食べ物や薬に毒を盛るのは常であり、彼女は昔から警戒していた。第3話では兼家(段田安則)が道兼(玉置玲央)に命じて薬を円融天皇の食事に仕込んでいたからだ。
詮子が薬を拒否する場面で、この回の前半、宣孝が薬を飲む役をもらっていたことを思い出し、まさか……という疑念が筆者には浮かんでしまった。いやいや、まさか、それは深読みだと思いたい。
亡くなるときの詮子は、なにを語っているかわからないくらいの小声がリアルで、あんなにキビキビ、ハキハキと意見を述べてきた毅然とした人物が最期にはこんなに弱ってしまうのだと、悲しみがいっそう増した。愛されることを知らないさみしい人生だったのだろう。道長も涙が鼻を伝って流れ、姉への哀惜を感じさせた。
定子、宣孝、詮子とメインだった登場人物が亡くなって、まひろや道長の子供の世代になっていく。そして、ききょう(ファーストサマーウイカ)は定子を想って「枕草子」を書き、まひろもついに物語を書きはじめる。
折り返しに来て「枕草子」対「源氏物語」がはじまりそう。輝かしい光だけ書きたいききょうと、人間の光と影を書きたいまひろ。ふたりの文学が政治にも関わっていくと思うとわくわくするが、ききょうとまひろの関係性が気まずくなっていくのは気にかかる。
ききょうは定子の死を道長のせいと思っていて、道長は信用できないと言う。それを聞くまひろの心境はさぞや複雑であろう。
関連記事:「光る君へ」の清少納言と紫式部の関係は今後どうなる? ファーストサマーウイカに聞いた。
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか