教えて「おむすび」制作統括さん なぜ福岡県西方沖地震について描かなかった?
なかったことにしたわけではないが、あえて描かない選択をした
朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)は1995年の阪神・淡路大震災について丁寧に取材をして描いている。主人公の結(橋本環奈)とその家族は神戸で被災し、その後、福岡の糸島に引っ越した。そして2007年まで糸島で暮らす。だが、05年に起きた福岡県西方沖地震についてはドラマでは描かなかった。
07年、結たちは再び神戸に引っ越し、12年前の震災について改めて向き合うことになる。第10週も、避難所の食事情について描くなど、阪神・淡路大震災に向き合って来たドラマが、なぜ結の住む糸島にも関わりのある福岡の地震について触れなかったのか、制作統括・宇佐川隆史チーフプロデューサーに聞いた。
「私は福岡出身で、当時地震があったと聞いてすぐに実家に戻り、その際に余震を経験しました。実家は震度5強を観測した場所にあり、全ての食器が割れるなどの被害を受けましたので、当時、福岡がどのくらいの被害があったか、目で見た体験として知っていました。福ビルという、代表的な福岡のビルの窓ガラスが割れたというニュースもよく覚えています。『おむすび』の舞台を糸島にするにあたり、天神・博多界隈、そして糸島市(旧糸島郡・旧前原市)の西方沖地震の被害についても取材をしました。その結果、今回は、西方沖地震について、このドラマのなかでは、その時期を描かない選択をしました。もちろんなかったことにしたわけではありません」
阪神・淡路大震災で被害に遭った方々もひとりひとり、違った体験や想いがあると語っていた宇佐川さん。
「震災の記憶、受けた傷は、人によってさまざまであることを多くの方への取材によって学びました。米田家の結、歩、聖人もそれぞれ抱える傷は異なり、受け止め方も異なり、それぞれに傷を抱きながらも一歩一歩生きています。震災とは無関係の人だって、誰しもさまざまな傷を抱えています。そのことを周囲の人は知らずに生活しているものです。
第10週の放送で、キムラ緑子さんが演じる美佐江さんが、実は親族を震災で亡くしていたことが初めて語られる場面でハッとすること。それが生活者の日常だったりします。『おむすび』では、登場人物たちを『かわいそうなひと』として、抱える悲しみを前面に押し出すドラマにはしたくないとさまざまな議論の中で制作してきました。
米田家が暮らした糸島での生活の中で、2005年には地震も経験しているでしょう。きっと、地震の揺れから、さまざまな記憶がフラッシュバックして、結も大いに戸惑ったに違いありません。そのことを物語の前半で強調することが、私たちのドラマのメッセージとなるのか、本当に伝えたいことが伝わらないと考えました。
だから『おむすび』は、『悲しみを抱えた主人公、家族』というレッテルから物語を始めたくはなかったのです。主人公や家族が、どういう場面で初めて心を開放できるか、心の傷をいやし、前に進むことができるか、そこを半年を通して伝えることを第一に制作しております。
一歩一歩、日常を前向きに生きる人間の生命力、逞しさをきっちりと届けるために、あえて描かないこと選択しました」
「ドラマとしては、結が今度は“復興のために、そして人々のために何かできないか”と考えるターンに、一気に入りたいと思います」
「おむすび」はドキュメンタリーではなく、ドラマなので、そういう選択もあっていいだろう。
「おむすび」の描かないアプローチも興味深いと思うか、とはいえ、やっぱりもう少し誰もが見て、わかったり納得できたりするように描いてほしいと思うか。宇佐川さんの回答を読んだ皆さんはどう思いますか?
連続テレビ小説「おむすび」
毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります
/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K)
【作】 根本ノンジ
【主題歌】 B’z 「イルミネーション」
【語り】 リリー・フランキー
【音楽】 堤博明
【出演】 橋本環奈 仲里依紗 佐野勇斗 麻生久美子 宮崎美子 北村有起哉 松平健 ほか