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緒形直人の名演技。新納慎也の紙芝居。地元の人95人参加。みんなで作り上げた「おむすび」子ども防災訓練

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「おむすび」第50回より 写真提供:NHK

神戸市の消防局や灘消防団の方たちも参加

朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)第10週は子ども防災訓練を行うことになり、その準備を経て、第50回で開催された。

制作統括の宇佐川隆史チーフプロデューサーは第10週をこう総括している。

「阪神・淡路大震災から12年経った2007年の登場人物たちの姿を通して、神戸では復興のためにどういったことを行ってきたのかを描きました。震災後、どういう心構えであったか、そして復興活動を通して人々の心はどう変わっていったのか、あるいは変わらないものはあるのか、ということをしっかりと見せる週になったかなと思っています」

それを象徴するのが子ども防災訓練だ。描くにあたり、演出担当の小野見知さんはこの週のために取材を重ねた。

「神戸市の消防団の方や、実際に子どもさんたち向けの防災訓練をやっている自治体に、実際どういうことをしているのか、何に気をつけているのかというのを伺ったうえで、食や栄養の指導で入っていただいている専門家にもご相談しました。災害の現場で栄養素が不足した場合、どういったものなら非常時にも手に入れやすく、調理しやすいか伺って、最終的にわかめで食物繊維、サバ缶とツナ缶でたんぱく質やカルシウムを摂るというようなメニューを根本さんと作りあげました」

すぐに役立つ具体的なノウハウは視聴者の参考にもなる。

阪神・淡路大震災に対しての思い入れが人一倍ある新納さん

第50回、防災訓練の撮影は、実際に防災訓練を行っている場所である灘区の都賀川を使用。ドラマで結(橋本環奈)が調理をしている橋の上でも、ふだんは防災訓練を行っているそうだ。

老若男女幅広く、地元の方は95人が参加した。出演者14人と合わせて計109人の大所帯の撮影となった。糸島フェスの回も演出し、大規模の場面の演出づいている小野さんがここでも大人数をみごとに演出している。

「この番組が大切にしているある種のリアルさっていうものも、大切にしたいなと思って、助監督チームとあと脚本担当のリサーチャーさん含め、いろんな方に幅広く協力してもらいました。神戸市の消防局や灘消防団の方たちに当日もご参加いただいて、普段やっているようなことをロケでも実際にお子さんたちに向けてやっていただきました」

震災体験を描いた紙芝居を読んだのは神戸市職員・若林役の新納慎也さん。役所の人設定だからというのもあるだろうが、新納さんが神戸出身だからであろうか。

「阪神・淡路大震災に対しての思い入れが人一倍ある新納さんだからこそ、今回『おむすび』への出演をお願いしたところもあったので、紙芝居を読んでもらうのは新納さんしかいないと思いましたし、新納さんの出演されている舞台を私はずっと拝見していたので、その場にいるたくさんの方々の心を掴み、情報を明確に伝えることに長けていると思うので、お願いしました。現場では、お子さんたちが紙芝居をめちゃくちゃ真剣に聞いてくださって。私も撮っていて感動しました。誰もふざけたり茶化したりすることなく、何も言わずともものすごく真剣に聞いてくれたので、それはきっと新納さんももちろん、なっちゃん役の田畑志真さんがとても真剣に演じてくださったからだと思っています」

「おむすび」第50回より 写真提供:NHK
「おむすび」第50回より 写真提供:NHK

生きていくということを、おむすびと共に、彼自身が飲み込む瞬間の演技には鳥肌

防災訓練の最中、これまで頑なに心を閉ざしていた渡辺孝雄(緒形直人)が顔を出し、わかめおむすびを食べる。その場面も印象的だった。

小野さんも「現場で見て本当に胸が苦しくなりました」と言う。

「生きていくということを、おむすびと共に、彼自身が飲み込む瞬間の演技には鳥肌が立ちました。あの日は本当に暑かったのですけど、それを全部忘れるくらいでした。孝雄は、いつ死んだっていい、本当に死ねるなら死にたいと思いながら、ずっと生きてきたかただと思うので、亡くなった娘・真紀に対してごめんねと思いながら、ひと口を食べるようにも見えました。このシーンで私は、橋の上にいる商店街メンバーの視線に気づいて目が行くのはどうですかと提案したのですが、緒形さんはそこまではしないほうがいいと思うとおっしゃって。じゃあ、見ない形で一度やってみましょうと、リハーサルをやったら、確かに見ないまま終わるほうがいいと感じました。これは孝雄の前進ではあるけれど、これで彼の人生が全部前向きになるかって言ったらそんなに簡単ではなく、小さな一歩でしかない、それを緒方さんの芝居から強く感じ、ご本人とも、この加減で本番にいきましょうということになりました」

「おむすび」第50回より 写真提供:NHK
「おむすび」第50回より 写真提供:NHK

スタンスの違うふたりをつないだのが結

緒形直人さんの役の理解の深さ。つらいことを抱えながら生きていくしかない、それもまたつらい。それでも生きていくしかないことを考えさせられた第10週を小野さんは真摯に振り返る。

「震災から12年経ってもなお癒やされない心の傷にどう向き合っていくか考える週でした。時が止まってしまっていた孝雄さんと、必死に前を向こうと頑張ってきた美佐江(キムラ緑子)。スタンスの違うふたりをつないだのが結だという、この物語の大きな軸の部分を根本ノンジさんが丁寧に書いてくれたので、それを大切に画にしようと思いました。あれからさらに時を経た2024年のいまだからこそ客観性を持って描けるドラマなのかなと思っています」


連続テレビ小説「おむすび」
毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります

/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K)

【作】 根本ノンジ

【主題歌】 B’z 「イルミネーション」

【語り】 リリー・フランキー

【音楽】 堤博明

【出演】 橋本環奈 仲里依紗 佐野勇斗 麻生久美子 宮崎美子 北村有起哉 松平健 ほか


フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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