Yahoo!ニュース

要注目バンド・嘘とカメレオン ドラマ主題歌で放つ、眩いばかりの才能「変わらないために変わり続ける」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード
配信シングル「ルイユの螺旋」
配信シングル「ルイユの螺旋」

土曜深夜、視聴者を恐怖のどん底に突き落とす、話題の心理サスペンスドラマ『絶対正義』(主演:山口紗弥加、監督:西浦正記/東海テレビ・フジテレビ系)の主題歌「ルイユの螺旋」(配信シングル)を歌う、5人組バンド・嘘とカメレオン(以下、嘘カメ)が注目を集めている。2016年に公開した「されど奇術師は賽を振る」のMUSIC VIDEOが、それまでノンプロモーションながら瞬く間に180万回再生、1年で300万再生を突破し(現在は460万再生を超えている)、話題を注目を集めた。Voチャム(.△)、G菅野悠太、G&Cho渡辺壮亮、B渋江アサヒ、Dr青山拓心の多種多様なバックボーンを持つ5人の感性が融合し、放たれるロックは破壊力抜群。中毒性のあるそのサウンドとチャム(.△)のボーカルは、一度聴くと確実に耳と心に残る。そんな5人が、初のドラマ主題歌書き下ろしに挑んだ。ボーカル、作詞担当のチャム(.△)と、強力なビートを作りあげるリズム隊・B渋江アサヒにインタビューし、嘘カメそして、「ルイユの螺旋」という曲について話を聞いた。

「正義という多角的側面をもっているものを、螺旋階段になぞらえて表現したいと思った」(チャム(.△))

“オトナの土ドラ”『絶対正義』第5話(3月2日23時40分~)より(写真提供/東海テレビ)
“オトナの土ドラ”『絶対正義』第5話(3月2日23時40分~)より(写真提供/東海テレビ)

「歌詞は『絶対正義』というタイトルと、台本を読んで、正義ってやっぱり答えがないもので、すごく多角的な側面を持っているなって思って。答えがないからこそ、時代を経て今も正解が導き出せないものじゃないですか。それは、それぞれの中にそれぞれが思う正義があるからで、それをどう表現しようか考えました。ドラマにどれくらい寄るのか、自分たちをどれくらい出すか、その少しの枠組の中で、自分たちを120%出すということを初めてやったのですが、その駆け引きが本当に楽しかったです。結果的に、堂々めぐりの同じような議論を続けている人間を、螺旋階段になぞらえて表現したいと思いました。それもエッシャーのだまし絵に出てきそうな螺旋階段のイメージです。螺旋階段って一番下にいる人と真ん中にいる人、一番上にいる人、それぞれの視点からしか見ることができないじゃないですか。全体像が絶対に見えない感じが、正義というものと相通ずるものがあると思いました。曲は主に渡辺(壮亮)が書いたのですが、彼も台本を読んで、正義とか正しいというものに対する不確定さを、曲でも表現したかったと言っていて。彼は曲の中で、一見シンプルに聴こえるところで、実はその裏でバンドのアンサンブルがすごく複雑な絡み方をしていたり、逆に複雑で、すごく難しく聴こえるところでは、実はやっていることは簡単という感じで構成したとも言っていて、まさにだまし絵みたいだなって思って」(チャム(.△))。

「「ルイユの螺旋」は、何か心を掻きむしられるような新しい感覚だった」(ドラマ『絶対正義』監督・西浦正記氏)

画像

このドラマの西浦正記監督に、嘘カメの音楽と、今回彼らにどんな曲を求めていたのかを聞くと、「最初に彼らの音楽を聴いて思ったのは、身体が熱くなるロックではなく心が熱くなるロックだということでした。今回主題歌をお願いするにあたっては、正義を問い、人間の心情の機微を描き、恐怖も視聴者に体感させるドラマの中でそのどのシーンにも違和感なく馴染める楽曲を!と無茶ぶりをしました。そしてあがってきたのが「ルイユの螺旋」で、衝撃でした!メロディーとアレンジのドライブ感が凄くて、歌詞の世界観が無国籍ノージャンルを加速させていて、何か心を掻きむしられるような新しい感覚でした」と、絶賛している。

嘘カメの大きな武器はなんといってもボーカル・チャム(.△)のキュートな中にも毒を感じる声と、多彩な表現力を誇るボーカルパワーだ。

「いつもは自分の思う世界観を、そのまま声とか歌い方に落とし込みますが、今回は、ドラマにインスピレーションを受けて書いた曲なので、少しドラマに寄り添って歌いたいなって思いました。だからAメロで、これまでにないくらい優しい歌い方をして、そこからどんどんサビにかけてヒステリックな声色にしていくところで、主人公の高規範子の二面性のようなもの、人間そのものの二面性を出せていけたらと思いました」(チャム(.△))。

その言葉通り、ドラマが生み出す“恐怖と共感”を、「ルイユの螺旋」という曲、チャム(.△)の声が、さらに説得力を持たせ、視聴者に届ける。「「ルイユ~」のサビに展開が変わっていったときに声が相まって、めちゃくちゃ怖いですっていう意見をすごくいただいて、ドラマがよりスリリングなものになっていたらすごく嬉しいなって」(チャム(.△))。

5人バラバラの音楽的バックボーンが、ジャンルレスの、他の何ものでもない音楽を作り出す

左から渋江アサヒ(B)、菅野悠太(G)、チャム(.△)(Vo)、渡辺壮亮(G&cho)、青山拓心(Dr)
左から渋江アサヒ(B)、菅野悠太(G)、チャム(.△)(Vo)、渡辺壮亮(G&cho)、青山拓心(Dr)

嘘カメの曲とアレンジを手がけるのはG&Choの渡辺壮亮。そして高い演奏力を誇るメンバーが、それぞれの感性のベースになっている音楽を演奏に乗せ、それがひとつになって、まさにジャンルレスな音楽を作り上げる。B渋江は「ラウドやメタルばかり聴いていました」といい、G菅野はロックやポップス、Dr青山は時流に沿ってオールジャンル幅広く聴き、チャム(.△)は「マイケル・ジャクソンとジャクソン5しか聴いてこなかった」といい、そして渡辺はフュージョンとthe band apartと、誰も音楽的なバックボーンが被っていないからこそ、嘘カメならでは、他の何ものでもない音楽が構築できている。

「どうしても毒っ気を求めてしまう。ちょっとダークであざ笑ってる感を失くさないよう、自分達の音楽を世の中に広めたい」(渋江)

画像

「当然それぞれの意見は出てきますが、それについての否定はなく、混ざり合ってうちの音楽になると思っています。基本的に渡辺と僕は、曲に対して口出しすることが多いんですけど、二人ともひねくれ者なんですよ(笑)。どうしても毒っ気を求めてしまうというか、それが声の質感ともハマるなという気がしていて。ちょっとダークというか、毒っぽさというか、あざ笑ってる感というか、そういうのをなくさないようにして、それで世の中にもっと知れ渡ったらいいなと思っています」(渋江)と、自分達で化学変化を楽しんでいる。「私は自分達の音楽を、いつもナスカの地上絵みたいだなって思っていて。そこに立って見ると何の絵なのか全くわからないんですけど、上から見たときに、『なるほど、こういうことになっていたんだ』って気づくという。彼(渡辺)もそういう作り方をしているし、それが私達の音楽のいいところだと思っています」(チャム(.△))。

「聴き手に自由に感じて欲しい。だから、想像の余白を残した、風景的な歌詞を書きたい」(チャム(.△))

歌詞はチャム(.△)が全て書いている。その歌詞と声が、ジャンルレスの音楽にしっかりひとつの世界観を作り出している。

「例えば、夕暮れの土手で見る景色って、一人ひとり感じ方が違うと思います。ほっとする人、せつなさ、懐かしさを感じる人、それぞれだと思う。私はそういう景色を歌詞として書きたいなって思っていて。私も他の人の歌詞を読んで、押し付けられる感覚があると『いや、私の感じ方は違うし』って思うので、聴き手に自由に感じて欲しい。だから、想像の余白を残した、風景的な歌詞を書きたいんです」(チャム(.△))。

デビュー直前の交通事故を乗り越え、復活。「ファンの熱い想いに支えられた」(チャム(.△))

画像

嘘カメは2018年9月にアルバム『ヲトシアナ』でデビューしたが、困難を乗り越えてのメジャーデビューだった。2018年3月、東京から機材車で移動途中の高速道路のサービスエリアで、運転ミスによりガードレールに衝突。メンバーが大ケガを負い、ライヴそしてメジャーデビュー、全てが延期となった。チャム(.△)はたまたま同乗していなかったが、バンドの復帰までに4か月を要した。注目度が高まり、ライヴの動員も右肩上がりで、いよいよメジャーデビューという大切な時期に、悔しい思いを抱えながら、メンバーは病院のベッドの上で過ごしていた。

「同じレベルで戦っていたバンドの活躍、いい情報が耳に入ってきて、そういうのをただ眺めていたのが一番きつかったです。初のワンマンライヴを発表して、メジャーにいくぞって勢いよく走っていたタイミングだったので、ある意味出鼻を挫かれたというか」(渋江)。「(渋江)アサヒは周りのことを気にしていましたが、私はとにかく5人が生きていたらいいということしか考えられませんでした」(チャム(.△))。

4か月後、奇跡の復活を遂げ、再び5人で音を出した時の感覚は忘れられないという。

「めちゃくちゃ嬉しかったです。これからの人生、色々なことがあると思いますが、絶対にこれ以上の奇跡はないだろうなって思います。活動ができない間も、ファンの方が毎日嘘カメのことをTwitterで呟いてくれました。私たちが出られなくなったイベントにも、嘘カメのラバーバンドを付けて行って、『嘘カメの気持ちだけでも連れていきました』って呟いてくれたり、その気持ちにすごく支えられてきました」(チャム(.△))。「人生で一回あるかないかの事故だと思うので、それを経験して、本当になんでも乗り越えていけると思いました」(渋江)。

「どんなジャンルの音も、この5人でやったら嘘カメの音になる」(渋江)

「変わらないために変わり続ける」(チャム(.△))

画像

最後にバンドとして大切にしていることを教えてもらった。「どんなジャンルの音楽もこの5人でやったら、嘘カメの音になるという自信があるので、とにかく色々と面白がって、なんでも試してみたい」(渋江)、「私は、変わらないために変わり続けるということを大切にしていて、自分たちが変わらないために、その瞬間瞬間で面白いと思ったこととか、みんなでかっこいいと思ったことをちゃんと曲にしていくことができれば、本質は変わらず、でも変わり続けるバンドでいられると思う」(チャム(.△))。

他に代わりがきかない5人で、他のなにものでもない音楽を作り続ける嘘カメとその音楽から、これからも目が離せない。

嘘とカメレオン オフィシャルサイト

『絶対正義』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事