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“完全支配”でクロフォードがウェルター級頂上戦を制し、PFPランキングの行方は?

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

7月29日 ラスベガス T-モバイルアリーナ

世界ウェルター級4団体統一戦

WBO王者

テレンス・クロフォード(アメリカ/35歳/40-0, 31KOs)

TKO9回

WBAスーパー、WBC、IBF王者

エロール・スペンス Jr.(アメリカ/33歳/28-1, 22KOs)

鍵になるパンチを序盤で封じたクロフォード

 「完全支配(Total Domination)」。9回に試合が終わった直後、そんな言葉が真っ先に頭に浮かんだのは筆者だけではなかっただろう。“50/50の対決”という呼び声も高かった現代のスーパーファイトは、蓋を開けてみればスピード、身体能力で大きく上回ったクロフォードの圧勝に終わった。

 序盤からより積極的に攻めたスペンスに対し、クロフォードのシャープなカウンターが冴え渡った。2回、ボディにジャブを伸ばしたスペンスに、逆ワンツーの形で放ったクロフォードのジャブで先制のダウン。「あれはフラッシュダウンだ」という試合後のクロフォードの言葉通り、フィジカルのダメージはそこまでではなかったのかもしれない。ただ、サイズで上回っていたはずのスペンスがジャブで刺し負け、心のダメージは大きかったはずだ。

 「スペンスは素晴らしい才能を持ち主で、すごいジャブを持っている。強打の基調になるパンチだから、警戒していた。主にジャブにフォーカスしていた。最高の武器を取り上げ、その先に起こったことはご存知の通りだ」

 そんなクロフォードの言葉は、鍵になるパンチを綺麗に封じたことの意味の大きさを物語る。

 3回以降、余裕を感じさせる試合運びでカウンターを合わせるようになったクロフォードは、7回に右アッパー、右フックで2度のダウンを追加。この時点で事実上、勝負付けは完了した。

キャリア最大のハイライトとなる勝利

 「今夜は彼の方が優れていた。私のタイミングはずれていた」

 スペンスは試合後の会見でそう語ったが、この日の3冠王者の状態は100%ではないように見えたのは事実ではある。

 バランスが悪く、前のめりでつんのめるようなパンチが目についた。大柄な身体でウェルター級の体重を作り続けたがゆえの減量苦か、交通事故、網膜剥離によるブランクの影響か。あるいは交通事故自体が徐々に響いているのか、スピーチの際、言葉がより不明瞭になっているのも気になるところではある。

 ただ、スペンスの名誉のために言っておくと、前王者となったサウスポーは言い訳らしきものはまったくしていない。あれだけ一方的に打たれながら、試合後の会見にも姿を見せてクロフォードと抱擁を交わした。そして、今戦に関しては、何よりも素直にクロフォードの驚異的な強さを称えるべきに違いない。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 もともとスロースターター気味で、序盤はポイントを取られることも多かったのがこれまでのクロフォード。それが多くの関係者が接戦になると予想した根拠だったが、この日のWBO王者は意気込み、切れ味が違った。

 前述通り、相手の得意なジャブをあっさりと上回ったという意味で、スティーブン・フルトン(アメリカ)戦での井上尚弥(大橋)を彷彿とさせる方向付けだった。この選手としては珍しく序盤ラウンドにダウンを奪うと、あとは一方的。完璧な勝利は、男子史上初の2階級で4団体統一という偉業を成し遂げたクロフォードのキャリアでも最大のハイライトとして記憶されていくはずだ。 

PFPでもクロフォードがトップ浮上か 

 実力的には紛れもなく全階級でもトップクラスと認識されながら、クロフォードはなかなかビッグファイトの機会に恵まれてこなかった。ウェルター級では手駒の少ないトップランクと長期契約していたことがその一因。トップランクと袂をわかってもしばらくは状況は変わらず、そのキャリアは迷走しているように見えた時期も長かった。

 しかしーーー。ここで最大の一戦を完全支配した上で印象的な勝ち星を手にし、その周囲には一気に眩い光が差し込んだ印象もある。

 「疑いもなく、この試合の勝者が(パウンド・フォー・パウンド(PFP)でも)No.1になるべき。トップ5に入る2人が戦ったんだから。もちろん俺がNo.1だ」

 試合後の会見でクロフォード自身が述べたそんな言葉に頷いたファンは多かったに違いない。

 25日、フルトン戦で井上が見せたパーフェクトボクシングは見事だっただけに、少なからずの関係者がこれで“モンスター”がPFPでもトップに返り咲くと考えたことだろう。

 「スペンス、クロフォードのどちらかが井上のようにとてつもない勝ち方をした場合のみ、トップ浮上の可能性は出てくるのかもしれません」

 リングマガジンのランキング選定委員を務める筆者も、同じく選考委員であるトム・グレイ氏のそういった意見にほぼ同意していた。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 ところが、ここでのクロフォードの圧勝劇は井上同様、いやそれ以上に衝撃的なものだった。そうなってくると、対戦相手の質、格が考慮されなければならない。まだリング誌のランキング会議は始まったばかりだが、クロフォードの言葉通り、“PFPトップ5対決”を制したことがより評価されることになる可能性は高い。

 「今夜、俺がどれだけ偉大かを示せたと信じている」

 そう勝ち誇ったクロフォードはあまりにも正しい。オマハのシャープシューターにはついに相応な舞台が与えられ、そこで最大の輝きを放った。結果として、35歳にして、クロフォードが世界ボクシング界のトップに立つ瞬間はもう間近に迫っているのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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