菅田将暉、クドカンのユーモアが包む3.11とコロナ禍…働き方や移住を描く「サンセット・サンライズ」
映画『サンセット・サンライズ』が1月17日から全国で公開される。菅田将暉さん主演、宮藤官九郎さんの脚本による移住エンターテインメントと聞き、試写会に足を運んだ。東日本大震災とコロナ禍、過疎化の課題から、移住や新しい働き方、三陸のおいしいものと人情が描かれ、笑ってしんみりしながら139分があっという間だった。菅田将暉さん、井上真央さん、中村雅俊さんらキャストの魅力と三陸の風景により、ユーモアにあふれた再生の物語になっている。
【ストーリー】新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた 2020 年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃 6 万円の神物件に一目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた⁈
傷を抱え立ち上がるレジリエンス
筆者にとっても、東日本大震災、コロナ禍、地方創生は、取材・研究してきたテーマだ。新聞記者時代、福島市に赴任して生活した。東日本大震災が起きた後は、東京から少しずつ東北に足を運び、お付き合いさせていただいた。
頑張ろうとしていた矢先のコロナ禍に、自粛だgo toだと振り回された老舗旅館。支え合うフラガールの街の女将たち。セカンドキャリアや地域おこしを探るサッカーチーム。障害のある人が働くワイナリー。原発に近い街で、産後ケアや子育て支援をする助産院。全壊して再建した役所内のお店。震災の次は水害にあった酒蔵…。出会った方々に共通するのは、傷を抱えながらもしなやかに立ち上がるレジリエンスだった。
ユーモアに包んで伝えることの力
宮藤官九郎さんは宮城出身であり、これまでのドラマでも、東日本大震災やコロナ禍のレジリエンス、地方の課題、生と死を描いてきた。
時間が経つと、報道では、そうした問題は過ぎたことになり、他に大変な災害や事件が起きるし、流れていってしまう。しかし、10年以上たった今、東北の方たちから、復興はまだです、という声を聞く。
最近、コロナ禍前に取材した石巻のこども新聞の記者たちに、改めて話を聞いている。成長して、勉強や仕事に邁進している彼らと、近況をおしゃべりする中で、被災した当時のことや、進学の悩みを話してくれる。夢があり、前向きだけれど、何らかの傷を抱えているのを感じる。
伝えたいけれど、震災のことを描くのは、難しい。コロナ禍も同じだ。筆者は、福島に住んでいた記者として、またコロナ禍の子どもの暮らしのルポを出版した経験からも、無力さを感じてきた。だからこそ、宮藤官九郎さんやキャストの力量で、ユーモアに包まれたこの物語に心動かされるし、たくさんの人に伝える方法があるんだと嬉しくなる。
新しい働き方の誕生と普及
今回の作品で、菅田将暉さん演じる主人公は、明るいノリでリモートワークをするために、三陸に移り住んでくる。2週間の自粛期間も、こっそり釣りに出かけてしまう。自然に、近所の人ともつながりが生まれる。
マスクに、自粛に、オンライン会議に、ソーシャルディスタンス。当時のピリピリ感は、振り返ると滑稽さもある。けれど、オンライン会議やリモートワークという新しい働き方が生まれて、普及した。現実を忘れないことも、大事だと思う。物語の中では、過疎地の空き家をリモートワークに活用するビジネスになり、新たな地方創生の仕組みができる。
井上真央さん演じる大家で、地域の「マドンナ」であるモモちゃんには、地元の男性たちの親衛隊がいる。家を貸すには、理由があるのだが。
取り巻きの一人を演じる三宅健さんも、印象に残る。元V6のアイドルで、今はソロで活動する三宅さん。この作品では人のいいヤンキーお兄ちゃんになりきり、方言もなじんでいる。歌って踊ってキラキラのファンサービスを続けながら、俳優としての実力も見せてくれて、キャリアの積み方を考えさせられる。
アジをさばきながら語る思い
筆者は、石巻のこども記者を経験した大学生に会ったとき、この作品をおすすめした。彼女も被災していて、当時のことを覚えている。その場でスマホ検索して、「ブクマしました!」。そして「私も、ホヤをさばけますよ」とニコニコと言う。
スクリーンの菅田将暉さんがふっくらした?と思ったが、後で撮影中に7キロ太ったと話していた。菅田さんがおいしそうに食べるハモニカ焼き、どんこ汁、モウカノホシなど、三陸のお料理も見どころ。なめろうにするアジをおろしながら、心のうちを語る井上真央さんも素晴らしい。包丁さばきをかなり練習したという。
「楽しいことも辛いこともある」
最後に、菅田さんのコメントが、この作品を的確に表現しているので紹介したい。
「笑顔に向かっていくお話ですけど、めでたしめでたしでは終わらないところが好きなんです。生きていれば楽しいことも悲しいこともあって、その中で生まれるあらゆる気持ちを無視しないで、今もこれからも笑えたらいいよねと。人は常に一つの感情で動いているわけではなくて複合的ですし、その人生と生活が描かれている作品なので、ジャンルとしてはライフという感じがします」
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)楡周平/講談社 (c)2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
脚本:宮藤官九郎 監督:岸善幸
音楽:網守将平 歌唱:青葉市子