甲府・前橋などで歴史的積雪 なぜ「大雪特別警報」は出されなかったのか
■ 甲府114センチ、前橋73センチ……歴史的な大雪に
関東甲信地方で14日夜明け前から降り出した雪は次第に降り方が強まり、14日夜遅くから15日未明頃をピークにして、降り積もりました。
関東甲信地方や東北地方では、気温が低いまま推移した内陸部を中心に大雪となり、14日から15日にかけての最深積雪(一番積もっていた時の雪の深さ)は、主な所で、
山梨県 甲府 114センチ 河口湖 143センチ
長野県 飯田 81センチ
群馬県 前橋 73センチ
埼玉県 熊谷 62センチ 秩父 98センチ
宮城県 白石 57センチ
などとなりました(2月15日23時現在)。
上記の地点では、観測史上1位の積雪を大幅に塗り替えるほどの積雪となり、特に甲府・前橋・熊谷では過去120年ほど続く観測の歴史の中で最大の積雪に。「歴史的」と言っても良いほどの記録的な大雪になったのです。
しかもこの雪は、約1日程度で急速に降り積もりました。甲府では、14日未明には2センチだった積雪が15日明け方には1メートルを突破。わずか24時間ほどの間に1メートルもの雪が降ったわけです。これは、雪の多い北日本日本海側や北陸でもそう頻繁にある降雪ではありません。交通やそれに伴う物流など都市機能が麻痺してしまうレベルの大雪とも言えるでしょう。
■ 出されなかった「大雪特別警報」
甲府市では2月14日10時03分に、気象台から「大雪警報」が出されました。甲府市で大雪警報が発表される際の基準は、「予想される24時間降雪量が、盆地で20センチ以上・山地で40センチ以上」の場合です。今回はこれを軽く超えるほどの記録的な降雪になりました。
ところで、警報基準をはるかに上回るほどの現象による災害に対し、特段の警戒を呼びかける目的で昨年2013年の8月末から運用が始まったのが「特別警報」。すでに2013年9月には、台風第18号の大雨で、大雨特別警報が京都府など3府県に発表されたことがあります。
しかし、今回の降雪や積雪は記録的・歴史的とも言えるほどなのに、大雪特別警報が気象台から出されることはありませんでした。
また、1週間前の2月7日~8日にかけては、東京や千葉で記録的な大雪となりました。当時の最深積雪は、東京では27センチで45年ぶり(今回2月15日もそれに並ぶ積雪になりました)、千葉では33センチで30年ぶり、仙台では35センチで78年ぶりの記録的な積雪となり、首都圏や東北の交通などに大きな影響が出ましたが、この際にも大雪特別警報が出されることはなかったのです。
大雪特別警報は、具体的にはいったいどのような場合に出されるのでしょうか。
■ 大雪特別警報の発表基準とは
改めて、大雪特別警報の発表基準を見てみると、気象庁ホームページには「数十年に一度の降雪量となる大雪が予想される場合」と記載されています。
具体的な基準になる指標としては、
(1)府県程度の広がりをもって
(2)50年に一度の積雪深となり、
かつ、
(3)その後も警報級の降雪が 丸一日程度以上続く
と予想される場合に、大雪特別警報を発表する
とされています(1~3の番号は筆者による)。
また、太平洋側など「50年に一度の積雪深の値が小さな地域については、既往最深積雪の値なども用いて指標を設定する」との記載もあります。
今回はどうだったのでしょうか。
指標の(1)については、山梨県を中心に周辺の府県に記録的な大雪の領域が広がっていると判断して良さそうです。
(2)については、「50年に一度の積雪深」は甲府で41センチとされていますが、積雪深ゼロの年もあるためあくまで参考値とのこと。ただし、既往最深(これまでの1位)の値も49センチで、今回の積雪深はこれを大きく上回っています(前橋・熊谷なども同様です)。
つまり、(1)と(2)の指標については、特別警報の発表条件を十分にクリアしていたと言えるでしょう。問題は(3)なのです。(1)と(2)の条件のうえで、かつ、「その後も警報級の降雪が丸一日以上続く」という条件は、今回は満たしませんでした。
例えば、甲府で既往最深の積雪に実際に達したのは2月14日の夜で、その後の大雪の見通しとしては「15日明け方まで警戒」というもの。途中、大雪警戒期間の延長もありましたが、それでも最終的に大雪警報が解除されたのは15日11時05分で、既往最深積雪を更新してから続いた降雪は約半日だったというわけなのです。「警報級の大雪がさらに丸一日以上続く」という状況ではありませんでした。
■ なぜこうした基準なのか
大雪特別警報の対象となるような豪雪は、過去の事例だと「昭和38年1月豪雪(いわゆる「38豪雪」)」や「昭和56年豪雪(いわゆる「56豪雪」)」と例示されています。
いずれの例も、強い冬型の気圧配置が長期間にわたって続き、日本海側の積雪が多くなって起こされた雪害でした。いわば「長期緩慢型」の災害で、数か月間かけて積雪が記録的な状況に達していたわけなのです。こうした記録的な積雪の上に、さらに一時的に降雪の強まりが予想されれば非常に危険な状況になります。大雪特別警報はこうしたパターンの雪害をターゲットにしていると言っても良いのでしょう。
一方で、今回の大雪は「冬型の気圧配置」により引き起こされたものではありません。日本の南の海上を低気圧が発達しながら進んで、本州太平洋側の広域で降水となり、上空や地表付近の寒気も強かったために大雪になったという事例です。いわゆる「南岸低気圧」による大雪の事例になります。
南岸低気圧による降雪の場合は、太平洋側の地域で2日以上も雪が降り続くことは現実的には考えにくいのです。しかも「記録的な積雪になっているうえに」「その後、警報級の大雪がさらに丸一日」という条件となると、実際には極めて起こりにくい気象状況かと思います。
つまり、
大雪特別警報は、南岸低気圧のような太平洋側の大雪の場合には適用が困難
(長期にわたって続く冬型気圧配置による記録的な積雪と、
その状況下でさらに冬型気圧配置が強まって引き起こされる大雪がターゲット)
と感じるのです。
■ 大雪特別警報は現状のままで良いのか
今回の本州太平洋側の大雪が、特別警報の「命を守るために最善を尽くして」と呼びかけられるレベルの災害なのかという点には、確かに一考の余地があると思います。
太平洋側では50年に一度レベルの雪が降ったとしても、大雪による災害は、土砂崩れや河川氾濫など大雨による災害のように大規模に人命に関わる事例は必ずしも多くないのかもしれません。
しかし今回、決して少なくない地域で、過去の観測の歴史上「これまでに経験したことのないような大雪」になっていたことは事実です。普段は積雪の少ない地域ですから、一歩間違えば、老朽化した家屋の倒壊など大規模な災害に結び付いていたとしてもおかしくないと思います。
また、南岸低気圧による太平洋側の大雪は予想が難しく、ここまで記録的な積雪になることをどのくらい早い段階で察知できたのか、という点もなかなか難しい所です。現実的に、十分な猶予時間を確保しつつ太平洋側でも大雪特別警報を出せるのか、現状の基準で運用を続けるにしても予測技術の面からも簡単にはいかないのです。
運用が始まってまだ1年も経たない特別警報。
昨年2013年は伊豆大島の記録的豪雨の際に発表されず、「島嶼部(とうしょぶ)での適切な運用はどうするのか」という課題が露呈しました。「大雪」に関しても運用条件が本当にこれでいいのか、改めて内外から厳しく検証していく必要があるように感じてなりません。