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「花子とアン」のもうひとりの主人公、蓮子の夫と中国との意外な関係とは!?

中島恵ジャーナリスト
蓮子と龍一が愛を確かめ合うシーン(「花子とアン」より)

NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」。番組開始以来、常に20%台の高視聴率をキープするなど快進撃を続けている。今週は花子の“腹心の友”である蓮子(れんこ)がいよいよ恋人である宮本龍一と駆け落ちし、夫である嘉納伝助に絶縁状を送りつけ、大騒ぎになるという大きな山場を迎えた――。

清楚な花子とは対照的に、艶っぽい蓮子の恋愛でストーリーは俄然盛り上がり、とても朝ドラとは思えない濃厚なシーンにドキドキしている視聴者も多いことだろう。しかも、蓮子の駆け落ちはフィクションではなく、実際に大正時代を震撼させた大事件(白蓮事件)であったということは、林真理子著「白蓮れんれん」などでも描かれている通り、今や多くの人の知るところとなり、ますます脚光を集めている。

「こんな女性が実在したなんて!」「早く来週の放送が見たい!」と思っている人も多く、まさに「蓮さま」は主役を食うほどの勢いである。

そんな蓮子の恋人、龍一は花子の夫、村岡英治とともにイケメン俳優が演じているということでも話題沸騰だ。ネット上でも2人は「カッコいい!」とすこぶる評判がよいのだが、ドラマの中の龍一は社会運動家でもあり、来週以降、何やら不穏なことに巻き込まれていきそうな気配である。

宮崎龍介の父は孫文の支援者・宮崎滔天

龍一のモデルとなっているのは実在した宮崎龍介という人物。(蓮子のモデルとなっているのはあき(火偏に華)子(あきこ)。柳原白蓮はペンネーム)。実はこの宮崎龍介、中国とも非常に縁の深い人物なのである。「花子とアン」と「中国」とは頭の中でどうにも結びつかないが、今後のドラマの展開をより楽しむために、史実のごく一部を少しだけご紹介したい。

宮崎龍介は1892年(明治25年)、熊本県で生まれた。父の名は宮崎滔天(とうてん)。近代史に詳しい人なら耳にしたことがある名前だろう。アジア革命に傾倒した人物で、梅屋庄吉らとともに中国革命の父といわれた孫文を支援していたことで知られる。家庭を顧みることはほとんどなく、龍介は母親の手で育てられた。滔天が革命運動に身を投じていたため、龍介の母は田畑を売り払って貧しい生活していたという。

しかし、東京帝国大学に進学した後は、父・滔天の友人である孫文や、孫文と同じ革命家の黄興らとも交流があったとされ、龍介もまた中国との関係を深めていく。ときにはスパイとして狙われる孫文が逃げる際、龍介がつき添ったこともあったという。また、父が死去した後、龍介は黄興が住んでいた住居の管理を任されるが、その住居は龍介が吉野作造らとともに立ち上げた学生運動団体「新人会」の合宿所として使われていたという、歴史的な場所だ。

この「新人会」の流れで「黎明会」という言論団体ができたが、龍介はそこの雑誌を編集しているときに出版の打ち合わせで九州を訪れ、あき子と初めて出会うのである。

蓮子の夫は中国で蒋介石と会談した経験も

龍介はその後弁護士となり、社会運動も続けていくが、中国を訪れ、蒋介石らと会談もしているというから驚きだ。その際は日中の和平工作に失敗するものの、戦後も孫文の活動を顕彰する会に関わるなど、一貫して中国との交流は継続した。いわば、龍介は父・滔天とともに親中派だったのである。戦後、1956年(昭和31年)には、孫文の生誕記念の祝典に妻とともに中国に招待されたという記録も残っている。

さて、ドラマの中で蓮子が嘉納伝助(実在の人物は伊藤伝右衛門)に突きつけた絶縁状は、その後、どれほどの波紋を広げていくのだろうか? 今まさに「もうひとりの主人公」のドラマがクライマックスを迎えるといった様相だ。

花子の生き方とは対照的だが、蓮子の情熱的な生き方に共鳴する女性も多いことだろう。

龍介が1967年(昭和42年)に「文藝春秋」に書いた手記によると、父・滔天が新聞に掲載された絶縁状を見て非常に驚き、「いいのか、お前、こんなことをして……」とつぶやいたそうだが、果たして一体!? 

今後も思わずテレビに向かって「てっ!」と叫んでしまいそうなおもしろい展開となりそうだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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