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早咲誠和アマ(48)棋士編入試験・受験資格取得は持ち越し 朝日杯一次予選で高崎一生七段(35)に惜敗

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月4日。大阪・関西将棋会館において第16回朝日杯将棋オープン戦一次予選3回戦▲高崎一生七段(35歳)-△早咲誠和アマ(48歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 14時に始まった対局は16時28分に終局。結果は147手で高崎七段の勝ちとなりました。

 早咲さんは午前におこなわれた2回戦では豊川孝弘七段に勝利。本局でもし勝てば規定の成績に達し、棋士編入試験の受験資格を取得できる状況でした。しかし本局に敗れたため、持ち越しとなりました。

早咲アマ、敗れてなお強し

 2014年に制度化された棋士編入試験。その受験資格を得るには大変高いハードルが課せられています。過去に条件をクリアした5人(うち受験3人)は、里見香奈女流五冠も含め、いずれも奨励会に在籍した経験がありました。

 早咲さんは大分県在住で、職業は大学職員。棋士養成機関である奨励会に在籍したことはありません。史上最年少の18歳でアマチュア名人戦に優勝したあと、ずっとアマ棋界のトップクラスとして活躍を続けてきました。

 早咲さんはプロ公式戦でもコンスタントに実績を残してきました。しかし、あともう少しで棋士編入試験の受験を満たす成績に達すると気づいていた人は、業界関係者でもほとんどいなかったのではないでしょうか。恥ずかしながら筆者もそうで、少し前に早咲さんにその事実を聞かされて驚き、12年の長きにわたって作られていた目をあわてて確認したところでした。

 今回、早咲さんの前に立ちはだかったのは高崎七段。早咲さんと同じ九州で、隣りの宮崎県出身。小学生名人戦で優勝したあと、奨励会を経て棋士になりました。現在、順位戦ではB級2組に所属している実力派です。

 14時、高崎七段の先手で対局開始。振り飛車党の高崎七段は初手、三間飛車に振りました。

 早咲さんはオールラウンダーの戦略家。本局では居飛車から引き角の作戦を取りました。それを見て高崎七段は中央に飛車を移動。途中から観戦した人は、高崎七段が最初から中飛車にしたものと思ったかもしれません。

 高崎七段は中央に自分の銀を進め、拠点を築いて相手の銀をへこませます。手をこまねいていては完封のおそれがある早咲アマ。飛車を使ってなんとか戦いに持ち込もうとします。

 朝日杯は持ち時間40分。高崎七段は55手目、早咲さんは56手目の段階で時間を使い切って、あとは一手60秒未満で指す「一分将棋」の攻防が90手以上も続くことになりました。

 早咲さんは飛車を切ったあと、駒を取り合う激しい展開に持ち込みます。どちらかといえば高崎七段のペースと見られていたところから、早咲アマは辛抱強く指し進め、勝敗不明の終盤に持ち込みました。

 早咲アマは自玉から遠いところで遊んでいた金銀を、相手に追われながら中央に活用。気がつくと相手玉に迫る位置にまで進めます。早咲さんの粘り功を奏し、反撃に転じたあたりでは、有望になったのではないかとも思われました。

 高崎七段はいやな流れの中、崩れず的確に指し進めます。125手目、自陣一段目に打った桂が腰の入った一着でした。この桂は相手の進撃をいったん押さえ、のちに相手の歩を払いながら中段に跳ね出して、相手玉の死命を制する駒になりました。

 早咲さんは最後、高崎玉に迫って形を作ります。そこで高崎七段が早咲玉を即詰みに討ち取り、さしもの大熱戦も終局。高崎七段が一次予選決勝に勝ち上がりました。

 早咲さんのプロ公式戦成績はこれで12勝8敗(勝率0.600)です。

 一歩後退はしましたが、ここから最短3連勝で15勝8敗(勝率0.652)で条件をクリアします。またここから4勝3敗でも、直近で10勝5敗(勝率0.666)となります。

 アマチュア全国大会で上位に入り、プロ公式戦参加の資格を得るのもまた大変です。

 早咲さんは9月10日・11日、大分県代表として、アマチュア名人戦全国大会に出場します。早咲さんは過去4回の優勝を誇るレジェンドです。ただしアマチュアトップクラスの層は分厚く、これだけ強い早咲さんでも、いつも優勝できるとは限りません。

 今期朝日杯では、小山怜央アマも3回戦まで勝ち上がっています。次戦、小山さんは中川大輔八段に勝つと、奨励会在籍経験のない初めての棋士編入試験受験資格者となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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