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韓国大統領選挙 野党候補「尹錫悦」当選の5つの勝因

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国の次期大統領・尹錫悦氏(同氏のHPから)

 韓国の大統領選挙は開票の結果、保守野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソッキョル)候補が与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補との大接戦を制して当選した。

 両候補の得票率は尹候補の48.56%(1639万4815票)対47.83%(1614万7738票)と予想されたよりも遥かに僅差だった。

 選挙結果を分析すると、尹候補の勝因は以下5つの理由が挙げられる。

 その1. 投票率が下がらなかったこと

 韓国のメディア、選挙通の間では投票率が低ければ国会の議席(300議席)のうち180議席を占める組織力のある李候補に有利と言われていたが、投票率(77.1%)は前回(77.2%)並みの高さだった。

 投票率の高さは尹候補の支持層と称される60歳以上の高齢者の多くが連日過去最多を記録しているコロナ感染拡大状況下でも投票所に駆け付けたこと、事前の世論調査では伯仲と言われていた30代で48.1%対46.3%と、李候補に1.8ポイントの差を付けたことにある。20代から30代の若年層が棄権せずに投票したことも投票率の高さに繋がった。約24万票差の薄氷の勝利だっただけに仮に投票率が1%でも低かったら李候補にひっくり返されたかもしれない。

 その2.首都ソウルと忠清道の大都市・大田で勝ったこと

 有権者が838万人もいる大票田の首都・ソウルで尹候補は50.56%の得票を得て、李候補の45.73%を約4.8ポイント引き離した。

 第15代大統領選挙(1997年)から直近の5回の選挙をみると、朴槿恵(パク・クネ)大統領が当選した第18代大統領選挙(2012年)以外は、いずれも当選者が首都を制していた。

 また、中道層の多い忠清道の大田市を制した候補が当選すると言われているが、尹候補は大田市では49.55%対46.44%と李候補を3.11%上回る得票を得ていた。

 ちなみに大田市での過去6回の投票結果をみると、第14代(1992年)は金泳三(キム・ヨンサム)候補が34.7%(2位の候補28.3%、3位の候補22.9%)、第15代(1997年)は金大中(キム・デジュン)候補が45.0%(2位の候補29.2%、3位の候補23.0%)、第16代(2002年)は盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補が55.0%(2位の候補39.8%)、第17代(2007)は李明博(イ・ミョンバク)候補が36.3%(2位の候補23.6%、3位の候補28.9%)、第18代は朴槿恵候補が49.9%(2位の候補49.7%)、前回の第19代は文在寅(ムン・ジェイン)候補が42.9%(2位の候補20.3%、3位の候補23.2%)を得て、大田を制していた。

 その3.光州及び全羅道で保守候補としては過去最多の得票を得たこと

 光州及び全羅南・北道は与党・進歩派の象徴である金大中元大統領の出身地であり、与党の地盤である。保守系の大統領候補は「湖南」と称されているこの地域は「不毛地」で票がほとんど取れなかった。

 例えば、全羅道の中心地・光州では2007年の選挙で当選した李明博大統領は8.5%しか取れず、また2012年に歴代大統領としては過去最高の得票率(51.6%)で当選した朴槿恵大統領ですら7.7%しか獲得できなかった。盧武鉉大統領が当選した2002年の選挙では保守の李会昌(イ・フェチャン)候補は僅か3.6%しか取れず、惜敗していた。

 今回、尹候補陣営は「湖南」で25%の得票を目標に掲げていたが、それには遠く及ばなかったものの尹候補は光州では12.72%、全羅南道では11.44%、全羅北道では14.42%の得票を得て、初めて二桁に乗せることができた。文在寅政権下で権力の中枢から外された、あるいは冷遇された金大中派の一部を取り込み、与党陣営に楔を打ち込んだことが功を奏したようだ。

 その4.国民の政権交代への熱望が政権継承を上回ったこと

 尹候補と李候補の世論調査の支持率の差はほんの僅かだが、政権交代に関しては常に6対4の割合で政権継承を上回っていた。そのことは文政権の不支持が支持を6対4の割で上回っていたこととも比例している。

 文大統領の支持率40~42%は任期最後の年としては歴代政権では過去最多であるが、不動産政策の失敗や高い失業率と若年層の慢性的な就職難、所得の格差、収賄、セクハラ、子弟の不正入学など側近らの相次ぐ不祥事に失望した若者を中心に国民の間では変化を求める声が多数を占めていた。その意味では尹陣営が「政権交代」を選挙争点にしたことが功を奏したと言える。

 その5.コロナ感染拡大と北朝鮮のミサイル発射、ロシアのウクライナ侵攻が追い風となったこと

 韓国の一日のコロナ感染者が3月に入って連日20万人台を記録している。期日前投票日(4~5日)は約24万~25万人、投票日前日は過去最多の約34万と、1か月前(約4万9千人)の約7倍である。尹陣営は国民の不満をバックに政府与党の責任を追及したことで李候補には逆風となった。

 また、北朝鮮がこの3か月間に9回もミサイルを発射するなど「北の脅威」が高まったことも安保を看板とする尹候補に有利に作用したと言える。ライバルの李候補はウクライナのような戦争状態に陥らないよう北朝鮮との対話が必要と訴えたが、尹候補は戦争にならないようにするためにも抑止力を高めることが緊要であると訴えていた。

 さらに、ロシアのウクライナ侵攻も国民の左派へのアレルギー反応を助長する結果となり、「滅共」で育った保守層を結集させる要因となった。実際に韓国の全土で唯一、北朝鮮と道を折半している江原道では尹候補は54.18%を得て、41.72%の李候補を圧倒していた。

 文在寅大統領の任期が5月9日まであるので尹錫悦次期大統領の正式就任は5月10日となる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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