ANA、完全個室型の新型ビジネスクラスが凄い。1986年からのビジネスクラス変貌の歴史を振り返る
ANA(全日本空輸)は、8月2日より羽田~ロンドン線に新しいビジネスクラス「THE Room」を導入した(ボーイング777-300ER型機)。国内航空会社としては初となるビジネスクラスで全室ドア付き個室型シートを採用。スペースを効率的に使う為に、一部座席(約半分の座席)は進行方向とは逆向きの席としたことが話題になっている。
全室ドア付きの個室型で横幅が従来機の2倍、ベッド時には1.3倍の新シート
筆者は、就航直後の8月4日にロンドンから羽田まで新しいビジネスクラス「THE Room」を利用した。まず、全室ドア付きの個室型シートに驚かされたが、同時に衝撃的だったのが横幅の広さだ。現行のシートと比べて、横幅は約2倍となったのだが、実際に座ってみると家のソファに座っている感覚で、大人二人が座れるくらいのスペースだ。更に驚いたのが完全フルフラットシートのベッド状態にしたときだった。ANAによると、フルフラットにした場合のベッドスペースの広さは従来機の1.3倍の広さになっているとのことだが、横幅が広くなったことで寝返りが打てるようになり、加えて扉が閉められるようになったことで、完全プライベート空間を実現し、寝具などもこだわったことで、より眠りが深くなった。
あぐらをかけることで機内での過ごし方が大きく変わった
加えて、起きている時もフルフラット状態のままで過ごした。あぐらをかいたり、足を伸ばしたりするなど、好きな姿勢で4K・HD対応24インチの大型モニターで映画やドラマを楽しんだり、ノートパソコンで仕事をしたり、軽食メニューを食べたりしたが、通常ポジションに戻す必要性がなく、1食目の食事後はずっとフルフラット状態のまま機内で過ごした。特に機内であぐらをかけることで、機内での過ごし方を大きく変えたと言っていいだろう。ソファベッドとは異なるが、ベッドとソファが一体化しているという感じで、実際に利用した感想としては、本当に自分のパーソナルな時間を過ごせた。今回、ANAがこだわった「世界最大級の居住空間の実現」という言葉通りのシートに仕上がっていることを実感した。
約半分のシートは逆向き。フライト中は全く気にならなかった
今回、各シートのスペースを確保するために約半分のシートは進行方向の逆向きシートになっており、今回筆者は逆向きのシートを利用した。離陸の際に約1分ほど、若干前のめりになるのが通常のフライトと異なった点だったが、フライト中や着陸時、地上走行中は、逆向きであることは気にならず、特にフライト中は全くと言っていいほど逆向きであることを忘れるくらいであった。
ANAの国際線長距離ビジネスクラスのスタートは1986年。2-2-2の配列が話題に
ビジネスクラスの完成形に近いと言われている「THE Room」であるが、これまでのANA長距離国際線のシート変貌についてまとめてみた。
ANAが国際線に進出したのは1986年3月3日に就航した成田~グアム線。同じ年の7月に、成田~ワシントンDC線と成田~ロサンゼルス線で長距離国際線にデビューした。就航当時のアメリカ路線は、ボーイング747-200B型機(ジャンボ機)で運航していた。この時代の長距離路線におけるジャンボ機のビジネスクラスは2-3-2の座席配列が標準だったが、ジャンボ機で2-2-2の横6列にしたことはテレビCMでも話題になったほどだ。残念ながら当時のシートの写真を見つけられなかったが、当時としては画期的なシート配列で、ANAが長距離国際線に進出したことを多くの日本国民に印象づけた。
1991年にANAビジネスクラスで長年愛された「CLUB ANA」サービスが開始
そして5年後の1991年3月に次の新しいシートが導入され「CLUB ANA」サービスが開始された。その後、長年にわたりANAのビジネスクラスの名称として愛された。シート配列は2-3-2となったが、当時、日本に就航する航空会社で初めて全席に5インチのTVモニターを設置し、機内でTVゲーム(野球や麻雀ゲームなど6種類)を楽しめるようになった。映画などのチャンネルも4チャンネルのみで、当時はまだ決まった時間に大型スクリーン(スカイビジョン)で映画が上映された時代だ。その頃に筆者も初めてANAのビジネスクラスを利用したが、今に比べるとTVモニターのサイズが小さく、リクライニングも手動であったが、機内でゲームが出来ることは画期的であり、加えてフライトマップ(地図)が大型スクリーンでリアルタイムに飛行位置を確認できることが衝撃的だったことを思い出した。
その後、1996年にテレビCMで話題となったがシートピッチ(シートの前後間隔)を50インチ(約127センチ)にした際には、当時としては足を伸ばしても前のシートに届かないことに驚かされた。リクライニングの角度も徐々に深くなってきたが、当時の記憶だと130度くらいだったと思う。
当時画期的だったシカゴ専用サービス「ANA's Chicago Style」
筆者もANAのビジネスクラスを利用している中で一番の衝撃だったといってもいいのが、1999年に成田~シカゴ線に投入された「ANA's Chicago Style」だ。ジャンボ機(ボーイング747-400型機)の2階席後方にビジネスコーナーが設置されたのだが、ビジネスクラス利用者を対象に2ブースの席が用意され、電源が利用できるほか、機内FAXも搭載されたことが話題となった。今ほどはノートパソコンを機内に持参するビジネスマンも多くなかったが、わざわざノートパソコンを持参してパソコンでの作業をした記憶があるが、当時はシートが2席掛けもしくは3席掛けになっていたこともあり、隣の人に気にせずに仕事ができるメリットもあった。また1階部分にはバーカウンターが設置され、好きなときにお酒を飲みながら、乗客同士や客室乗務員などと会話することも多かったのもこの時代だ。
ライフラットシートを導入した2002年の「NewStyle,CLUB ANA」
その後、2002年に国際線長距離路線向けの新しいビジネスクラス「NewStyle,CLUB ANA」が導入されたが、このシートの導入で機内での睡眠がより深くなり、筆者自身も睡眠時間が長くなったことを記憶している。リクライニングの角度がより深くなり、斜めに傾斜する形の「電動ライフラットシート」を採用した。日本では初となるイージースリーパーシートの導入となった。シートピッチも一気に最大65インチ(約165センチ)に拡大し、1991年には5インチだったTVモニターのサイズも9インチになり、初めてビジネスクラスシートで電源が装備され、いつでも電子機器の充電ができるようになった。
現在主力の「ANA BUSINESS STAGGERD」は2010年にデビュー
そして、現在ANAのビジネスクラスの主流となっている「ANA BUSINESS STAGGERD(ANAビジネススタッガード)」は2010年に導入され、完全フルフラットシートが実現した。長距離路線の主力機もジャンボ機からボーイング777-300ER型機に変わった。スタッガードとは、たがい違いに配列することで従来よりも居住スペースは約150%となった。このシートの導入により、初めて全席通路側アクセスになり、隣の人を一切に気にせずに機内で過ごせるようになった。ベッドの幅は約25.3インチ(約64センチ)、フルフラットベッドにした際の長さは約74.5インチ(約189センチ)となり、更にタッチパネル式の液晶ワイドスクリーンの大きさは17インチとなった。現在、ボーイング777-300ER型機に加えて、ボーイング787型機などにも投入されているほか、成田~ホノルル線のエアバスA380型機「FLYING HONU」もスタッガード仕様のビジネスクラスが投入されている。
現在、羽田~ロンドン線で「THE Room」に乗れる。今後はニューヨーク線にも導入予定
今回、羽田~ロンドン線に導入された新ビジネスクラス「THE Room」は、8月2日に導入し、就航直後は隔日運航となっていたが、8月10日からは羽田~ロンドン線に毎日投入されるようになった。今後、羽田~ニューヨーク線にも導入予定となっている。改めて、この33年でANAのビジネスクラスが大きく変貌したことを実感したが、世界中のフルサービスキャリアも続々と新シートを開発しており、将来的にもっと利用者を驚かせてくれるビジネスクラスが出てくることを楽しみにしたい。