『鬼滅』や『呪術廻戦』も上映! 新潟で国際アニメ映画祭開催 その意義とは
3月17日(金)から22日(水)にかけて、新潟市中心部で「新潟国際アニメーション映画祭」が開催されます。世界初の40分以上の長編アニメーションだけを対象とした商業作品コンペとなっています。
本映画祭では、日本映画史上最高興収となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や、2021年12月に公開され、137億円のヒットとなった『劇場版 呪術廻戦0』、22年12月に公開され、100億円以上のヒットとなっている『THE FIRST SLAM DUNK』などのエンタメ作品も上映されるのが特徴です。
通常、こうしたエンタメ的な商業アニメ作品は、映画祭では上映や批評の対象とならないことも多く、この点でも画期的な取り組みと言えます。
映画祭では、出展作品を審査員が審査し、各賞を決定する「長編コンペティション部門」、審査委員長を務める押井守監督をはじめ、映画祭サイドが選んだ知られざる名作を上映する「世界の潮流部門」、既に対象作品が決まっており、授賞式と上映会が行われる第1回「大川=蕗谷(ふきや)賞」の3つに大きく分かれています。
このほか、漫画家・映画監督の大友克洋さんの作品の上映会や、その他の映画の上映会とトークイベント、アニメ産業に関する研究発表やシンポジウムも開催されます。
初の発表済商業長編が審査対象
また、アニメだけを扱う国際映画祭としては、地方都市で開かれているものは隔年で開かれていた「広島国際アニメーションフェスティバル」や「新千歳空港国際アニメーション映画祭」などがありますが、いずれも短編映画が中心で、かつ芸術志向が高いのが特徴でした。
東京では、池袋で開かれる「東京アニメアワードフェスティバル」がありますが、作品賞はファン投票で受賞作が決まるため、大半が日本のアニメ作品というものでした。
こうした課題点をクリアするべく新しく創設されたのが、新潟国際アニメーション映画祭です。第1回となる今回は、「長編コンペティション部門」にWIT STUDIO制作の劇場版『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』が選ばれています。
意外に思われるかもしれませんが、日本の商業アニメ作品がこうした映画祭で審査員の批評を受ける空間というのは、日本では実はこれまでほとんどなかったのです。
押井守監督「新潟をアニメ批評の場に」
映画祭の審査委員長は、『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』『イノセンス』などの代表作で知られる押井守監督が務めます。
押井監督も昨年5月に開かれた会見で、「日本のアニメ業界は人の作品に口を出すのがタブー視されてきた風潮がある。そういうことを避ける特殊な社会だった。この新潟国際アニメーション映画祭で、こういった風潮を変えるきっかけにしたい」と話しています。
そのため、映画祭にノミネートされている作品にも、ある重視したポイントがあるといいます。映画祭でプログラム・ディレクターを務める、ジャーナリストの数土直志さんがこう説明します。
「これまでの映画祭では、アニメの技術や技法などそっちを評価するものもありましたが、この映画祭では実写の映画祭と同様、ストーリーテリングを最も重視しています。また、アニメでもSFや日常モノ、テーマ性が高いものなど様々なジャンルがありますが、こうしたジャンルの越境も映画祭のテーマにしています。アーティスティック、エンタメ作品を問わず、世界中のアニメ作品を侃々諤々と議論できる映画祭にしていきたいですね」
新潟市で開催される経緯と意義
新たなアニメ映画祭の必要性はともかく、「なぜ新潟なのか?」と思うでしょう。この経緯は、2020年に新潟市に設立されたばかりの「開志専門職大学」が中心になっている部分があります。この開志専門職大学にはアニメ・マンガ学部があるのが特徴で、ここでは多くのアニメ業界志望の学生が全国から集まっています。他にも、新潟市にはアニメ・ゲーム関係の専門学校が複数あるのが特徴です。
映画祭の実行委員長は開志専門職大学アニメ・マンガ学部教授で映画プロデューサーの堀越謙三さんが務めており、アカデミズムや、映画祭を通じた人材発掘や育成といった地方創生の面も大きく備わっています。
他にも、新潟市には元々漫画家の赤塚不二夫や高橋留美子など多くの漫画家とゆかりがある関係から、「新潟市マンガ・アニメ情報館」や「新潟市マンガの家」といった文化施設があります。こうした施設が複数ある自治体はあまり例がありません。
このように新潟にはマンガやアニメで盛り上げようとする土壌が元々ある関係から、映画祭には新潟市、新潟県商工会議所連合会、燕商工会議所や新潟日報が特別協力に入っており、地域をあげて映画祭を応援する態勢ができています。
映画祭のほうでも新潟にちなんだ取り組みがあり、例えば映画祭で新設された「大川=蕗谷賞」は、日本初の本格的なアニメ制作会社「東映動画スタジオ(現・東映アニメーション)」を立ち上げた大川博と蕗谷虹児(ふきやこうじ)が新潟出身であることから名付けられました。
70回以上にわたり映画上映
映画祭は、市内の映画館での映画上映が中心となっています。その回数は6日間で70回以上となっており、単に映画が上映されるだけでなく、その多くが映画のスタッフのトークショーも交えたものとなっているのが特徴です。
上映される有名タイトルには「大川=蕗谷賞」の受賞が決定している『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や、『劇場版 呪術廻戦0』、『THE FIRST SLAM DUNK』のほか、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』、『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』、『花の詩女 ゴティックメード』などがあります。
他にも新海誠監督作品の『雲のむこう、約束の場所』、『秒速5センチメートル』、『星を追う子ども』の一挙上映も実施されます。
上映会場は、「新潟市民プラザ」、「クロスパル新潟」、「シネ・ウインド」、「T・ジョイ新潟万代」など市内の複数の映画館にわたっています。
映画の鑑賞は有料となっており、その価格は1回の上映で大人1500円、学生1000円、高校生以下500円が基本料金となっています。
このほか映画祭では、企画展示や、古町ルフル広場などでのイベントや出店など、一般の通りすがりの人でも楽しめる取り組みもあります。
プログラム・ディレクターの数土直志さんもこう胸を張ります。
「映画祭には有名作品だけでなく、まだ無名ですがとても面白い作品が世界中から集まっています。アニメや映画ファンの方を中心に、是非観に来てもらいたいですね」
新潟国際アニメーション映画祭の会期は3月17日(金)から22日(水)まで。6日間にわたって開催されます。
(写真は筆者撮影。画像は新潟国際アニメーション映画祭実行委員会提供)