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ブラピ×ジョージの共演作 劇場公開の突然中止は日本だけ? 内容が問題なのではない明らかな別の理由

斉藤博昭映画ジャーナリスト
「ウルフズ」撮影中のジョージ・クルーニーとブラッド・ピット(写真:Splash/アフロ)

ブラッド・ピットとジョージ・クルーニーがW主演を務める、2024年の話題作のひとつ『ウルフズ』は、9月20日に日本でも劇場公開が決まっていたが、突然8月8日に公開中止がアナウンスされた。

配給のソニー・ピクチャーズは中止の理由は説明していない。すでに前売りチケットを購入していた人には適切な対応が行われる。

これだけの大作が、公開の41日前に中止が決まるのは異例。「日本で公開できないヤバい部分があるのか?」(『オッペンハイマー』の記憶が脳裏をよぎる)、「とんでもない駄作なのか?」、「何かスキャンダルが絡んだのか?」など憶測も見受けられるが、それらの可能性はゼロと言える。結局のところ、「予算を使って劇場公開するよりも……」とシンプルに判断されたのではないか。

ブラッド・ピットとジョージ・クルーニーの共演作といえば、「オーシャンズ」シリーズは日本でも大ヒットを記録した(1作目は日本で興収70億円!)。同シリーズは他のスターも出ていたが、メインはブラピとジョージだった。そのゴールデンコンビが復活した新作『ウルフズ』なので、日本でも映画ファンの間では注目されていた。

『オーシャンズ11』のジョージとブラピ、なつかしい2ショット
『オーシャンズ11』のジョージとブラピ、なつかしい2ショット写真:Shutterstock/アフロ

『ウルフズ』は、単独で犯罪を片付ける“フィクサー”の2人が、同じ現場で遭遇したことから手を組まざるをえなくなるクライム・アクション。「オーシャンズ」と重なるノリも期待できるし、監督が『スパイダーマン』の直近3作を手がけたジョン・ワッツ。どう転んでも、つまらないはずはない。

実際に一般観客も集めた試写会では高評価を得たというニュースがあったし、8月末からのヴェネチア国際映画祭ではワールドプレミアされる。さらに早くも、主演2人と監督が続投する第2作の製作まで発表された。そんな「傑作確定」の楽しみな一作が……。

では日本以外ではどうなのかと言えば、たとえばアメリカでは9月20日から1週間限定で劇場公開され、27日からApple TV+で配信(劇場の公開規模・期間とも縮小された)。他の多くの国もこのパターン。製作のApple Original Filmsの判断だ。当初『ウルフズ』は、劇場公開の45日後に配信プラットフォームでプレミアムのレンタル購入可とし、11月頃にApple TV+で配信という流れを計画していたという。その後、劇場公開1週間限定に変更され、逆にApple TV+の加入者はイチ早く自宅などで観られることになった。日本では『ウルフズ』の配信日が正式にアナウンスされていないが、今回の流れでおそらく9月27日からApple TV+で観られるのではないか。

Apple Original Filmsはこのところ、『ARGYLLE/アーガイル』、『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』などを劇場公開してきたが、どれも興行収入は芳しくなかった。とくに7月公開の『フライ・ミー〜』は、スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタムというスター共演の上質なエンタメ作品ながら、全米でも最初の週末に興収1000万ドルで5位。日本でも残念な数字だった。その結果が『ウルフズ』の最終判断になったと考えられる。世界的な劇場公開の縮小、中でも日本では「やっても意味がなさそう」と苦渋の決断だったのかも。

「オーシャンズ」の時代=2000年代には、日本でまだ大きなポテンシャルを持っていたハリウッドスターの威力がどんどん縮小し、『ウルフズ』の劇場公開中止をもたらしたと言ってもいいかも。ただ映画ファンには残念な結果でもある。

Apple Original Filmsは、昨年は『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』や『ナポレオン』のように賞レースに絡む大作は劇場公開してきた。ただ『ナポレオン』のように日本などで期待の数字を残せなかった例もあり、劇場公開にかける予算を減らすという戦略は商売としては正しいのだろう。たとえば今後は、ブラッド・ピットがレーサーを演じる『F1』などが2025年の劇場公開が決まっているが、『ウルフズ』の判断を見る限り、今後はその枠がさらに厳選されていきそうな気配も。

Netflixやディズニープラスにしても、トップスターが出演する作品で、劇場公開されないものも数多い。ただ『ウルフズ』のように日本だけ「限定公開すらされなくなった」という現実を突きつけられると、ちょっと寂しいのも事実なのである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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