3季ぶりタイトルを目指すINAC神戸。バンディエラが語る変化、下馬評覆した強さの理由
3季ぶりの王座奪還なるか。WEリーグは、INAC神戸レオネッサが10試合負けなしで単独首位をキープしている。
今季、神戸がこれだけ安定した強さを見せると予想した人はどれだけいただろうか。
ジョルディ・フェロン監督1年目の昨季は2位でフィニッシュ。しかし、シーズン後には主力の田中美南、山下杏也加、北川ひかるの代表組に加え、成長著しい若手の天野紗、竹重杏歌里も含めた5人が海外挑戦を表明。戦力低下は免れず、下馬評は厳しいものとなった。だがふたを開けてみれば、新加入の外国人選手たちが即戦力として活躍。チームの新たな幹となった。
田中から背番号9を引き継いだカルロタ・スアレス(←グラナダ)は175cmの大型FW。最前線で相手2人を背負っても動じない強さがあり、10試合で6ゴールと決定力も発揮している。2列目ではカルラ・モレラがスーパーサブとして存在感を放ち、ボランチには守備範囲が広く、球際に強いパオラ・ソルデビラ(←ビジャレアル)が定着。最終ラインでは、ジャマイカ代表の大型DFヴィアン・サンプソン(←千葉)が対人の強さを見せる。
フクダ電子アリーナで11月24日に行われた第10節の千葉戦は、新チームの勝負強さを象徴するような試合だった。千葉の堅守速攻に苦しみ先制を許したものの、最後まで攻め抜き、モレラのゴールとスアレスのPKで劇的な逆転勝利を飾ったのだ。
フェロン監督は、あえて昨季のチームと比較した。
「去年は能力の優れた選手がいました。今シーズンは去年とは違って、努力するスピリットを強く持ったチームです。ベンチメンバーも戦力が揃っています。たとえケガ人や不調の選手が出たとしても、すぐに選手交代をしてレベルを下げることなく戦うことができています」
“リーグ3強”において、育成組織から優秀な選手が台頭してくる浦和や東京NBとは違い、神戸は外部のチームや海外からの助っ人選手を中心に「個の強さ」を押し出してきた。だが、多国籍のエッセンスが融合した今季は、“個に頼らないメンタリティ”がチームの根底にあるようだ。
神戸のこれまでの歴史を考えれば、その変化は決して小さくない。その実感を詳細に言語化できるのは、16年目の高瀬愛実をおいて他にいない。
「ジョルディ監督は選手の特徴を生かすスタイルで、その点では昨シーズンも今シーズンも、やっていることはそこまで変わらないと思います。ただ、去年は(田中)美南やヤマ(山下杏也加)など、できることが多い選手を中心にチーム作りをしていたので、頼ってしまう部分はあって、ボールを持つとみんながまず(最前線の)美南のことを見ていました。今季はそういう選手が抜けた中で、ピッチの中でいろんな選手と目が合うようになりました。その意味では、各々が持っているストロングを生かし合う意識は強くなったかもしれません」
【バンディエラが語るチームの変化と現在地】
高瀬が生粋のFWとして、高校卒業後にデビューを飾ったのは18歳の時。
2011年、なでしこ旋風を巻き起こしたワールドカップ優勝メンバーにも名を連ね、リーグ3連覇、皇后杯4連覇を決めた神戸の黄金期を経験した。その後は長くリーグタイトルから遠ざかったが、30歳で迎えたWEリーグ発足元年の2021年、高瀬は開幕戦で"WEリーグ第1号ゴール”を決め、リーグ初代タイトルに貢献した。
監督やチームメートが目まぐるしく変わる中でもピッチでは柔軟にプレーし、黒子に徹することも多くなったが、その硬派な背中で勝者のメンタリティを伝えてきた。
今は途中出場が多いが、ここぞという場面では決定的な働きをし、ゴールを決める――。 ゴールへの嗅覚は錆び付くどころか、限られた時間の中でむしろ研ぎ澄まされている。そのイメージが相手を恐れさせ、チームに流れを呼び込む。
このままいけば、来季は過去に10人程度しか達成していない国内リーグ通算300試合出場も視野に入る。
千葉戦後の取材エリア。高瀬は久しぶりに訪れた先発の機会を生かしきれなかった自分自身のプレーに納得していなかったが、言葉を選びつつチームの成長を語る口調は、自然と熱を帯びていった。
「これまで『個々が強いチーム』と言われてきました。今年も個は強いですけど、ちゃんと1+1をしている感じがあります」
しっかりボールを握り、チャンスを創出して複数ゴールを奪う。チームとしての理想はあるが、勝つためにはそれに固執しない。「怖さを出すならシンプルな攻撃だし、90分通して考えるならしっかり保持したい。どちらもできるのが一番いい」。そのために、周囲を生かすプレーや、ゲームコントロールのスキルも磨いてきた。
一方で、高瀬自身は今も、勝負への“熱さ”やルーキーの時と変わらない成長への飢餓感を持ち続けている。
「長くプレーしてきた中で、ベテランと言われる年齢になり、自分の強みを生かしてもらっている意識はありますが、いち選手として『チャレンジしてもっと上手くなりたい』と思う自分もいます。収めることを求められていても、裏にタイミングよくアクションできるならしたいし、前向きで仕掛けられる選手を使いたいけど、自分が前を向いて強引に振り向いて打ちたいと思う時もあります。ただ、求められているものに確実に応えようと思うと、チャレンジするという選択肢が減ってしまって、そのバランスには葛藤もあります。でも、『チャレンジしたい』という気持ちがなくなっちゃったら寂しいですから」
与えられた役割を全力でまっとうしつつも、ストライカーとしての原点を忘れるつもりはない。二律背反する想いを吐露したが、最後に「でも、そんな今を楽しんでいますよ」と、爽やかに締めくくった。
上位争いは拮抗しているが、C大阪のホームに乗り込む12月1日の第11節で勝ち点3を積み上げることができれば、首位でウインターブレイクを迎えることができる。WEリーグカップは準決勝に進出しており、12月から参戦する皇后杯と合わせて、今季は3冠の可能性を残している。
まず、目指すは2024年を締めくくるリーグカップのタイトル。重要な場面で幾度となくチームを救ってきた背番号11のプレーを追えば、そこにもう一つのドラマが見えてくるかもしれない。