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「恐竜」も新型コロナのような「呼吸器感染症」にかかっていた

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 我々人類は現在、新型コロナウイルス感染症という新たな呼吸器感染症に苦しめられているが、恐竜もまた呼吸器感染症にかかっていたのでは、という研究論文が出た。

感染症に苦しんでいた恐竜

 恐竜と鳥類には多くの関連が示唆され、一部の恐竜は白亜紀末期の大絶滅を生き延び、現在の鳥類へ進化したと考えられている。また、現在の鳥類の呼吸器系は、約2億年前のワニの祖先にも同様の構造がみられ(※1)、大型草食性恐竜や大型肉食性恐竜でも現在の鳥類のような呼吸器系がみられるという(※2)。

 そのため、鳥類がかかる感染症は、恐竜をも苦しめていたようだ。ハヤブサ類への感染が報告されるトリコモナス型のウイルス感染症にかかっていたのではないか、というティラノザウルスの化石の研究もある(※3)。

 また、恐竜の感染症の集団感染の事例も報告されていて(※4)、恐竜も新型コロナに苦しんでいる我々人類と同じように感染症に苦しめられていたことがわかる。高病原性鳥インフルエンザなどの新興感染症が鳥類にかかり、やがてヒトへの感染力を獲得して新型インフルエンザになるような、人獣共通感染症ならぬ、恐竜他生物共通感染症もあったかもしれない。

 今回、米国モンタナ州立大学保続ロッキー博物館の研究グループが発表したのは、首の長い大型草食性恐竜ディプロドクスの化石に残る感染症の痕跡で、そこからこの恐竜が現在の鳥類がかかるような呼吸器感染症にかかっていたのではないかという論文だ(※5)。現在の鳥類には気嚢というフイゴのような呼吸器官があるが、この恐竜の気嚢の化石にも呼吸器感染症の痕跡がうかがえたという。

 このディプロドクスはジュラ紀後期(約1億5000万年前)の個体であると推測されている。ちなみに、ロッキー博物館は映画『ジュラシック・パーク』のテクニカルアドバイザーで主役のモデルになったジャック・ホーナー(Jack Horner)がかつて在籍していた機関で、日本の御船町恐竜博物館、阿蘇火山博物館、福井県立恐竜博物館と姉妹博物館になっている。

 鳥類の気嚢や呼吸器に感染する細菌やウイルスには、アスペルギルス(Aspergillus)症を引き起こす真菌(カビの一種)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、マイコプラズマ・シノビエ(Mycoplasma synoviae)などのマイコプラズマといったものがある。また、真菌や黄色ブドウ球菌、マイコプラズマは鳥類、爬虫類、哺乳類、ヒトもかかり、肺などの呼吸器の感染症となることも多く、クラミジアによる敗血症(オウム病)も鳥類とヒトの人獣共通感染症だ。

 同研究グループによれば、大型草食性恐竜の化石から解剖学的に考察したところ、このディプロドクスには長い首を貫通する気嚢に病変がみられ、おそらく化石には残っていない肺にも感染が広がっていたと考えられるという。では、どんな病原性微生物が呼吸器感染症を引き起こしたのだろうか。

 同研究グループは、骨髄炎をともなう気嚢の炎症、おそらくアスペルギルス症かクラミジア症なのではないかという。そして、この発見は現在の鳥類以外、恐竜で始めての呼吸器感染症の症例とのことだ。

※1:Richard J. Butler, et al., "Reassessment of the Evidence for Postcranial Skeletal Pneumaticity in Triassic Archosaurs, and the Early Evolution of the Avian Respiratory System" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0034094, 28, March, 2012

※2:Patrick M. O'Conner, Leon P. A. Claessens, "Basic avian pulmonary design and flow-through ventilation in non-avian theropod dinosaurs" nature, Vol.436, 253-256, 14, July, 2005

※3:Ewan D. S. Wolff, et al., "Common Avian Infection Plagued the Tyrant Dinosaurs" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0007288, 30, September, 2009

※4:Phoebe L. Mclnerney, et al., "Multiple occurrences of pathologies suggesting a common and severe bone infection in a population of the Australian Pleistocene giant, Genyornis newtoni (Aves, Dromornithidae)" Papers in Palaentology, Vol.8, Issue1, 15, December, 2021

※5:D Cary Woodruff, et al., "The first occurrence of an avian-style respiratory infection in a non-avian dinosaur" scientific reports, 12, 1954, 10, February, 2022

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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