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[訃報]淡麗なヒーリング・トランペットで一世を風靡したケニー・ホイラーさん逝去

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
Kenny Wheeler Quintet『1976』
Kenny Wheeler Quintet『1976』

抜群のテクニックに裏打ちされた流麗なプレイと淡麗辛口な音色によって、アフリカ系アメリカ人のルーツ・ミュージックを強く意識したジャズとは別のアプローチを確立し、スタイリッシュなジャズの先鞭をつけたトランペット奏者のケニー・ホイラーさんが亡くなった。享年84歳。

1930年にカナダのオンタリオ州トロントで生まれたケニー・ホイラーさんは、12歳でトランペットを始めた。トロント王立音楽院を卒業後、1952年にロンドンへ渡り、スウィング系のバンドで活動。1959年にはイギリス映画音楽の大御所と言われたジョン・ダンクワース楽団の一員としてニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに出場、この楽団に1964年まで在籍している。

1966年になると突如フリー・ジャズに感化され、70年代にかけて多くのフリー・ジャズ系ミュージシャンとのセッションを残した。

1975年にはドイツのECMレーベルと契約し、リーダー作第一弾となる『ヌー・ハイ』を発表。キース・ジャレット、ジャック・ディジョネット、デイヴ・ホランドというメンバーで制作され、インプロヴィゼーションの新たなスタイルを示したこのアルバムは、彼の代表作のひとつとなった。

1976年にジョン・テイラー、ノーマ・ウィンストンと結成した“アジマス”ではフォーキーなサウンドを打ち出して、ヒーリング・ミュージックと呼ばれる新たな感覚のサウンド・ジャンルを牽引。

1983年リリースの『Double, Double You』での共演以降、デイヴ・ホランド・グループの主要メンバーとしても活動。また、アンヴィエント音楽のトップ・ランナーとして知られるデヴィッド・シルヴィアンのアルバムにも参加するなど、その活動は旺盛にして幅広かった。

スウィングで培ったメロディアスな表現力と、インプロヴィゼーションで鍛えた瞬発力を調和させ、独自の音楽世界を描いてきた希有なスタイリストと言えるのがケニー・ホイラーさんだった。

ご冥福をお祈りします。

♪Kenny Wheeler-"Everybody's Song But My Own"- George Gruntz Big Band

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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