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【サッカー日韓戦】韓国は弱かった ソン・フンミン不在の影響、相手監督が知らなかった「日韓戦の鉄則」

韓国代表のパウロ・ベント監督(ポルトガル)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「ソン・フンミンがいたらどうなったの? 韓国はもっと前線でボールが収まったの?」

幾度か、記者席で聞かれた。25日に横浜で行われたキリンチャレンジカップ日韓戦の現場でだ。3-0で日本が勝利した。

「いえ」。そう答えた。筆者自身、5試合ほど韓国代表でプレーした彼の試合を取材したことがある。まあ「ボールが収まる」というのは完全な間違いではない。「全体の推進力がめちゃくちゃ増す、という感じですね」と答えた。

ソンがボールを持ったらドリブルで仕掛ける。チーム全体がそれを理解し、認めている印象だ。たとえ彼がミスしてもそれに備える。早くボールを回収しようと守備ラインが上がる。そういう存在なのだ。

一時日本でも流行った「攻撃のスイッチ」といったところ。しかし負傷のため昨日の横浜に彼はおらず、そして韓国は弱かった。

日本対策の失敗…パスワークが上回る

試合前日の会見で、パウロ・ベント監督は”日本対策”をこう明らかにしていた。

「強いプレスで(ボールを)奪って、逆襲を仕掛けていかなくてはならない」

まずは相手が持つボールを奪わなければ、攻撃も始まらない。御意。そりゃそうだ。日本風に言えば「ショートカウンター」という考え方だ。高い技術を持つ日本に対して、決して引かず、高い位置で奪って手数を少なくして攻める。

しかし、4-2-3-1のシステムで日本に挑んだチームは、これを実践できなかった。なんでそうなったと思う? 試合後、キャプテンのキム・ヨンクォン(金英権/ガンバ大阪)に韓国語で直接聞いてみた。

「もちろん、日本のパス中心の攻撃は予想していましたが…韓国の守備のギャップを次々と就いてくるパスワークを防ぎきれなかった。次々と間(あいだ)、間に入ってくるという感じで。FWのラインでも、MFでも、最終ラインでもそれを防ぎきれなかった。はっきり言って日本はいいチームだった。敗戦から学ばないといけない」

韓国がボールを奪いに行くが、日本がそれを剥がす。そんなシーンが多く見られた
韓国がボールを奪いに行くが、日本がそれを剥がす。そんなシーンが多く見られた写真:西村尚己/アフロスポーツ

日本からボールを奪えない時点で、もはや”思考が止まった”ような状態に見えた。

攻撃に転じるどころか、パウロ・ベント監督が「危険なエリアでボールを奪われる場面が多く、ピンチを招いた」という状況になった。前半中頃にはCBのキム・ヨンクォンからのボールの出しどころがなく、ボランチに短い縦パスを当てたものの、あっさり日本が奪うシーンがあった。また後半には韓国のサイドバックがルックアップしてパスコースを探している間に日本の選手が体を入れ、ボールを奪い返すシーンも。

日本は攻撃でのよい距離感が、守備の際にも生かされていたのだ。

韓国左サイドバックホン・チョルのボールキープに対し、日本の攻撃ラインの古橋亨梧がプレッシャーをかける。韓国に自由を許さなかった
韓国左サイドバックホン・チョルのボールキープに対し、日本の攻撃ラインの古橋亨梧がプレッシャーをかける。韓国に自由を許さなかった写真:西村尚己/アフロスポーツ

前線の配置ミス・迫力不足

また韓国は仮に前線にボールが届いたとしても、迫力不足だった。4-2-2-1のシステムのうち、攻撃ではイ・ガンイン(バレンシア)を1トップに据え、その後方にナム・テヒ(アル・サッド/カタール)を置いた。左右にはナ・サンホ(ソウル)、イ・ドンジュン(ウルサン)を配置したが…この戦略はダダッ滑りだった。試合後パウロ・ベント監督は「弁明の余地のない敗戦」としたうえで、先発メンバー選出の背景をこう明らかにした。

「戦術的な選択だった。相手の守備ラインをバランスを崩そうと考えた。相手がプレスを掛けてきた時にこそ、守備ラインを釣り出せると考え、2列めにいる3人がその背後を狙えると考えた。しかしそういった場面は作れなかった」

後半には最前線に186センチのCFタイプ、イ・ジョンヒョプ(キョンナム)を投入し、多少は試合展開が好転したが…結局90分を通じて枠内シュート1本という結果に終わった。

この日は左サイドに入ったであろうソン・フンミンのみならず、最前線のファン・ウィジョ(ボルドー)やファン・ヒチャン(ライプツィヒ)も不在だった。

単純比較はできないが、2020年11月に日本も韓国もオーストリアの地でメキシコと対戦し、どちらも中南米の強豪に敗れた。ただ日本が0-2と歯が立たなかった相手に対し、ソンとファンのいた韓国は2-3と相手を追い詰めた。それも枠内シュート4対17という劣勢のなかで2ゴールを奪った。そこから考えると、25日の日韓戦での韓国は「前線で踏ん張りが効かないから、後ろも耐えられなかった」といったところか。

25日の日韓戦後、パウロ・ベント監督、キャプテンのキム・ヨンクォンの双方から「一部選手の不在は言い訳にしない」という主旨の話が出てきたが、ソンらの不在により前線に迫力を欠いたのは確かだった。

惨敗に使われた「10年前と同じフレーズ」

0-3の結果に対し、韓国メディアは当然のごとく手厳しい。

「無気力のなか破壊された韓日戦…ベント・コリア、0-3の完敗。枠内シュート1本の恥辱」

(聯合ニュース)

国内最大の通信社がここまで強く報じたのだから、そのショックは相当なものだ。他の媒体も同様だ。

「0-3横浜惨事…ベント監督には弁明の余地があるわけがない」(スポーツ韓国)

「横浜惨事…ベント・コリア、韓日戦0-3の完敗」(マイデイリー)

”惨事”というフレーズは、10年前、2011年に札幌ドームで行われた日韓戦での結果と同一という点から来ている。香川真司の2ゴール、本田圭佑の1ゴールで韓国を圧倒した試合だ。これが韓国では「札幌大惨事」と呼ばれているのだ。

日韓戦の鉄則――相手と同じことをしては負ける

あの10年前と同じ点が2つある。

1つ目は、日本に”縦を突く槍”がいたということ。2011年の日本はビルドアップ時に両サイドバックが高い位置を取る戦い方を見せた。そこで内田篤人が躍動した。ちなみに日韓両国は同年1月にはアジアカップ準決勝でも対戦。この時は左の長友佑都も躍動し、伝統的にサイドが強い韓国のお株を奪う形になった。試合後から当時のチョ・グァンレ監督が「サイドバックがいない」と公言するようになったくらいだ。

昨日の日本も伊東純也、山根視来らが躍動していたではないか。重要なのは韓国に対して「サイドで真っ向勝負」するのではなく、「横・縦の揺さぶりが有効」ということだ。ポゼッションもいいが、ちゃんと前進する力をそこに加えること。

後半に出場も浅野拓磨もまた、”縦に行く槍”。韓国守備陣は彼を囲い込むも、ボールにアプローチできない
後半に出場も浅野拓磨もまた、”縦に行く槍”。韓国守備陣は彼を囲い込むも、ボールにアプローチできない写真:西村尚己/アフロスポーツ

もうひとつは韓国側の事情だ。「ショートパスでの攻撃を志向した」という点が10年前と同じ。当時のチョ・グァンレ監督は現役時代、ゲームメーカーとして知られた存在で、監督としても「漫画サッカー」「理想的すぎ」と言われた攻撃スタイルを掲げた。

昨日のパウロ・ベント監督も前半に関しては前轍を踏んでしまった。森保一監督は試合前に「ビルドアップもカウンターも使い分けられる印象」としたが、「ゼロトップ」を採用した前半はあまりにも策にはまり過ぎたか。韓国は16分に先制された直後、最初のプレーで最終ラインからDFが思い切って最前線にボールを当てるシーンがあった。選手は内心ではロングボールを蹴りたかったんじゃないか? そんなことを思わせるシーンだった。

10年、2011年の対戦時@札幌。2ゴールを香川真司がシュートを打つ
10年、2011年の対戦時@札幌。2ゴールを香川真司がシュートを打つ写真:アフロスポーツ

ステージは違うが、2010年にソンナムをアジアチャンピオンズリーグ優勝に導いたシン・テヨン監督(後のロシアW杯代表監督)がこんなことを言っていたのを思い出した。

「ACLで日本に勝てる理由? そりゃ韓国勢は割り切って中盤を捨てられるからですよ。少々不格好でも前に長いボールを入れられる」

昨日の韓国は、後半に長身FWを投入したが時すでに遅しだった。

3-0の快勝。昨日は日本の方が強く、韓国が弱かった。勝った時は思いっきり、はっきりと勝利宣言をしよう。ライバルだからこそ、嬉しいというものだ。次にはまたあちらも別の策を練ってくる。必ずだ。そのやりあいこそが、双方のレベルアップに繋がる…のだが、今はしばし喜ぼう。この日の対戦に感謝しつつ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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