【号外】相続がガラッと変わる!~改正民法が成立
相続法制を約40年ぶりに大幅に見直す改正民法が6日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立しました。
この内容は、1980年に配偶者の法定相続分を3分の1から2分の1に引き上げた以来の相続制度の抜本改正です。
今回の改正の主な目的は、「残された配偶者の老後の生活の安定化」です。
また、これに合わせて「法務局における遺言書の保管等に関する法律」も成立しました。
以下に改正案ポイントをまとめました。この改正によって相続がガラッと変わります。
「知りませんでした」では済まないケースも出てきます。円満な相続を迎えるために、ぜひ目を通してください。
●こう変わる!
1.配偶者居住権の創設~高齢化社会の急速な進展への対策
住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分割します。配偶者は居住権を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に渡っても自宅に住み続けることができます。
なお、配偶者が遺産分割の対象の建物に住んでいる場合、遺産分割が終了するまでは無償で住めるようにする「配偶者短期居住権」も設けました。
2.婚姻20年以上の夫婦の優遇策~住居の遺産分割の対象からの除外
結婚20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったとして、遺産分割の計算対象から除外します。
この場合、配偶者は住居を離れる必要がないだけではなく、他の財産の配分が増え、老後の生活の安定につなげることができます。
3.自筆証書遺言の方式緩和~パソコンでの作成を一部可能にする
自筆証書遺言は「全文を自書する」ことが成立要件とされます(民法968条)。そのため、遺言者(遺言を作成する人)が病気などのときは作成にかかる負担が決して軽くありませんでした。また、誤字等によるトラブルも起きていました。
そこで、財産の一覧を示す「財産目録」はパソコンでの作成を可能にするようにします。負担軽減による遺言の普及と誤字脱字等によるトラブル防止が期待できます。
4.相続の不公平感の是正
相続権のない6親等以内の親族(いとこの孫ら)以内の血族と、3親等(めいやおい)以内の配偶者が介護などに尽力した場合、相続人に金銭を請求できる制度です。
たとえば、義父を介護してきた「息子の妻」などが請求できるようになります。
ただし、事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人は従来通り請求できません。
5.金融機関の「仮払い制度」の創設
現状では、銀行等の金融機関は、遺産分割協議が成立するまで原則として故人の遺産の払戻や名義変更に応じません(いわゆる「口座の凍結」)。そのため、生活費の確保や葬儀費の支払いに支障を来すケースが起きています。
そこで、遺産分割協議が終わる前でも、生活費や葬儀費用の支払いなどのために故人の預貯金を金融機関から引き出しやすくする「仮払制度」を創設しました。
●「法務局における遺言書の保管等に関する法律」成立
自筆証書遺言を法務局で保管できる制度です。
自筆証書遺言は遺言書の存在が相続から何年も経過した後に発見されて遺産分割協議がやり直しになったり、発見した者が変造したり破棄してしまって遺言が執行されない危険が付き物でした。そこで法務局が自筆証書遺言を保管する制度を設けます。
また、法務局で自筆証書遺言は家庭裁判所における「検認」(民法1004条)についても見直しをします。
1.保管制度
公的機関である全国の法務局で保管できるようにして、相続人が遺言の有無を調べられる制度を導入します。
2.検認制度の不要
自筆証書遺言を法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容を確認する「検認」の手続を不要にします。これにより、速やかな遺言の執行が期待できます。
なお、この法律は公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。
●いつから変わる?
改正民法は、それぞれ次の日から施行(実施)されます。
1.公布の日から6か月を経過した日から【注】
・自筆証書遺言の方式緩和
2.公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日
・配偶者居住権
3.公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日
・婚姻20年以上の夫婦の優遇策
・仮払い制度
等の「自筆証書遺言の方式緩和」と「配偶者居住権」以外の改正。
【注】法律は、法律の成立後、後議院の議長から内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布されます。
法律の公布に当たっては、公布のための閣議決定を経た上、官報に掲載されることによって行われます。
なお、官報では、公布された法律について、一般の理解に資するため「法令のあらまし」が掲載されます。
いかがでしょうか。この民法改正によって相続の姿が今と比べてガラッと変わります。
好む好まざるに関係なく、ほとんどの人は相続から逃れることができません。
改正民法を正しく理解して「親の相続」や「自らの相続」を円満に迎えるようにしましょう。