【パリ五輪】韓国は「日本のメダル獲得数3位」をどう見ている? ”スゴい”と意外と評価されているのは…
先日閉幕した2024年パリオリンピック。
日本は自国開催以外では過去最高という成績を収めた。メダル獲得数の国別ランキングは3位で、金メダル20個、銀メダル12個、銅メダル13個の計45個。
一方の韓国は、金メダル13個の8位。これは08年北京五輪、12年ロンドン五輪と並ぶ歴代最多タイなのだという。ただし総合のメダル獲得ランキングは最盛期のロンドン五輪時は5位で、11位だった日本を上回っていた。
また、今回の韓国は、サッカー、バスケットボール、バレーボールなど球技種目でのアジア予選での敗退が相次ぎ、参加選手団は日本の410人に対し、144人という結果だった。
「日本圧倒的優位」。この結果を、韓国はどう観ているのか。
近年、「国別ランキングはナンセンス」という向きもあるが、結果を巡って真剣に遊ぶのがスポーツ。こういったデータも活用しつつ論じてみよう。
韓国で意外に評価される「予想的中」
地上波「SBS」は13日、「目標を正確に達成した日本…私たちにも科学的なメダル予測が必要」で日本の躍進をこう報じた。
「パリで日本は柔道の金メダルが3個にとどまりましたが、レスリングだけで8個を制覇し、体操でも3個を追加して、アメリカ、中国に次いで2大会連続で総合順位3位で大会を締めくくりました」
日本については、金メダルが予想される種目ではやや予想外な結果となったが、その他の種目で躍進した結果だ、と見ている。じつのところ、「すごく悔しがったり」というわけでもない。もう少し違った反応もある。
元韓国スポーツ紙デスクのチェ・ミンギュ氏が「金メダル数に限って言うと」として、こう論じる。
「日本が近年の五輪で金メダル数で韓国を上回り始めたのは、2016年リオ大会からです。1988年ソウルオリンピックから2012年ロンドンオリンピックまでは、韓国の方が多かった。唯一の例外は2004年アテネオリンピックの一度だけでした」
しかし、ここ数大会では日本が優勢となっている。
「日本は、2016年リオオリンピックから3大会連続で韓国を上回っています」
韓国ではもはや「日本のほうが金メダル数で優勢」の状況が浸透して久しい。実際に今回の反応も「日本の活躍、悔し」というより、「日本を引き合いに出し、自国を批判」という声が大きかった。
13日の「毎日経済」の記事「日本は金メダル20個を正確に予測したのに…大きく外れた韓国、一体なぜこんなことが?」では、こういったコメントに多く読者リアクション数が寄せられている。
「韓国の協会はいつもいい加減にやるんだ。最初に(目標数を)10個設定しておいて、取れなかったら文句を言われるから少なく設定しておいて、より多く獲得したらそれがむしろ良いとする考えだろうね」
意外と多かったのが、日本JOC(日本オリンピック委員会)が大会前に「目標金メダル数20個」と打ち出し、これをピッタリ当てた、という点を評価することだった。韓国は「8個」と打ち出し「13個」の結果だった。実際に、2番めにリアクションが多いのもこれと同じ主旨の話だ。
「大韓体育会やバドミントン協会などは恥を全く知らないな。予測がこの程度で外れるなら、まず恥じるべきじゃないか。既得権益の古い考えでは、全く発展が期待できない。情けない連中の集まりだ…」
大会前から韓国内ではサッカー協会の代表監督選任に関する批判や、大会中にはバドミントンの自国金メダリストが協会を痛烈に批判する出来事が起きていた。日本の躍進をこれに「当てつけ」、批判する向きも目立った。
いっぽうで「日本は綿密な競技分析、対戦相手分析を行った(「京郷スポーツ」)といった声もある。コメント欄にもこの点を指摘する意見が寄せられている。
「(韓国は)すべての分野がアーチェリー協会のようにやれば、日本をはるかに上回るだろう」
いっぽうでシンプルに日本の躍進を嘆く声も。
「レスリングは日本の独壇場か、陸上やマラソン…まだまだ大韓民国は遠いな…口数だけ多くて、実際には何もなく、協会は選手にパワハラするだけか」
日本と韓国 スポーツの背景の違い 「日本は良いルーツがよい方向に」
では、専門家の視点はどういったものだろうか。前述のチェ・ミンギュ氏が続ける。「日本の2016年以降の変化は、スポーツ政策によるものではないか」と。
「2020年東京オリンピック誘致を準備する過程で、日本政府レベルでエリートスポーツの向上が必要だという問題意識があったのではないでしょうか。これが2011年のスポーツ基本法制定と2015年のスポーツ庁設立として現れたと観ています」
ここ近年、日本の球技スポーツ全般のレベルアップに注目しているというチェ氏。「結局、日本のスポーツは学校体育と生活体育(エンジョイスポーツ)という強固な根を持っているのが最大の強みで、これに政府の支援がある程度触媒として作用しながらオリンピックでの好結果につながった」と見ている。
韓国との比較からも、それが分かるものだという。
話の始まりは、1960年代まで遡る。韓国も1962年に日本のスポーツ振興法を模範して「国民体育振興法」を制定した。両国ともにドイツのスポーツ振興法を基にしたものだ。
しかし、その目的に日本と韓国の違いが現れているのではないか。チェ氏はこう指摘する。
「両国ともに、内容はほぼ同じですが、韓国の体育振興法第1条には『体育を通じて国威宣揚に寄与することを目的とする』と規定し、国家主義的性格を表しています。韓国は2020年に第1条を修正し、『国威宣揚』関連の内容を削除しました」
韓国のスポーツは、いま転換期にあって揺れている。上記の通り、球技種目でのパリ五輪アジア予選敗退が相次いだ。チェ氏はこういった歴史的背景があるのではないか、と指摘する。
「大まかに金大中政権(1998年-2003年)の頃から生活体育(エンジョイスポーツ)を強調し、エリートスポーツとのバランスを取ろうとする政策方向を持ってきましたが、考えが変わってきたのです。さらに、2021年に制定されたスポーツ基本法(日本の法律と同じ名称)では『スポーツに関する国民の権利と、すべての国民が健康で幸福な生活を営む』ことを強調しているのです」
「国家のためのスポーツ」を、ここ20年来転換しようとしている韓国。いっぽう日本は「スポーツの国」になろうとしている、とチェ氏はいう。そこには微妙なニュアンスの違いがある。
「日本のスポーツ基本法もスポーツ権を強調していますが、前文に「スポーツ立国」という用語を使用しています。日本政府が2020東京オリンピックを1964年大会のように日本復興の契機にしたいという意志があったと聞いていますが、「(国家主義的なものではない)スポーツ立国」という用語を入れた点が韓国と比べて特徴的なものです」
日本は、元来あった「学校体育と生活体育(エンジョイスポーツ)」の二つのルーツを「スポーツ立国」という考えでよい方向に導けている。これがチェ氏の見立てだ。
強化予算は韓国の方が多い…
ただし、ここ日本で暮らす限りにおいては、「スポーツの強化に政策が何か影響を及ぼすものかな?」などという疑問も頭に浮かぶ。スポーツが強くなる背景たるもの、もっと自然発生的なもの。グラスルーツでのありようが必要で、まずは盛んに遊べる環境を作っていくことが大切なのではないか? そんなことも思う。
しかし、チェ氏はデータからこういった面も指摘する。
「韓国は日本よりもエリートスポーツ強化に予算を割いている。でも結果は日本のほうがよいのです。韓国の国民体育振興基金から支出される専門体育支援金が4000億ウォン(400億円)。しかし日本のスポーツ庁の予算は約350億円程度。このうち、エリートスポーツ関連予算の割合は40%程度、代表チームの成績に関連する「競争力強化事業」予算は100億円規模に過ぎません」
日本は韓国よりもエリートスポーツの強化費が低い。しかし結果が出ている。これは学校体育とエンジョイスポーツ、2つのルーツがしっかりしている証ではないか。チェ氏はそう説く。
この話だけで「日本のパリ五輪での成績面での躍進」を言い切ることは出来ない。日本の全体3位という結果についてチェ氏は「まあ、ロシアがドーピングの問題で国家として出場しないという影響もあるでしょうね」という。とはいえ、こういった韓国からの視点もパリ五輪での日本の躍進に関する見方の一つか。