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バンダナにかけた九州の女子ラガーの夢とは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
プレート決勝で勝ったアルカス熊谷の野田夢乃(中央)

キラキラの才能がみどりの芝生で躍動する。5日の東京・秩父宮ラグビー場。7人制ラグビーの太陽生命女子セブンズシリーズの東京大会が開かれ、将来有望な若手選手たちも活躍した。アルカス熊谷のピカピカの新人、18歳の野田夢乃(立正大1年)もそのひとりである。

アルカス熊谷はプレートトーナメント(5~8位に相当)にまわり、決勝で北海道バーバリアンズに快勝した。野田は開始直後に先制トライをマーク、その後も的確な状況判断とパスでチームを勢いにのせた。野田は試合後、「でも、悔しい思いはあります」と口元をゆがめた。額から大粒の汗がおちる。

「だって、ほんとうはカップ(1~4位相当)の決勝でプレーしたかったんです。チームはリーグ優勝(総合優勝)を狙っているので、カップで優勝して終わりたかったんです」

負けん気のつよさが目の端ににじむ。九州は福岡生まれの18歳。この春、ラグビーの名門、福岡高校から立正大に入学した。15人制ラグビーではSHを任されるとあって、視野のひろさには定評がある。

「自分のプレースタイルは、チームの人を生かすプレーです。自分で勝負をすることも大切ですけど、それ以外にちゃんとスペースを見つけて、仲間を生かすプレーをずっと意識しています」

なるほど。この日のプレート決勝、SHの鈴木陽子とのコンビは抜群で、ふたりで相手ディフェンスをかく乱させた。野田も鈴木もよく走りまわり、野田が1トライ、鈴木も2トライをマークした。ふたりの動きは見ていて痛快だった。

野田は小学校4年のとき、幼なじみでアルカス熊谷のチームメイトの古田真菜に誘われて、地元の「かしいヤングラガーズ」で楕円球を追いかけ始めた。すぐ夢中になった。

「最初はトライをとるのがうれしかった。鬼ごっこ感覚でできるのが魅力でした。小6でハーフ(SH)になって、パスで周りを動かしたり、タックルで相手を倒したりするのがすごく楽しくて…。はまりました」

福岡高校時代は男子部員と同じ練習をこなしたが、公式戦には出場できなかった。昨年の太陽生命セブンズでは合同チームで試合をし、日本代表候補のメンバーにもなった。身長が162センチ。体力、フィジカルアップが課題だが、充実した環境のアルカス熊谷にはいって、少しパワーもアップしてきた。

「毎日、ウエイトトレーニングをやっています。体重は入学して1カ月で2キロ増えて60キロになりました」

ラグビー漬けの日々である。授業の合間にグラウンドで自主練習するほどで、「1日、3部練とか、フツーです」とわらう。モットーが「チャレンジ精神」。

「何も恐れずにやっています。コワいものはありません。いや、ネコがこわい。動物って苦手なんです」

好きな食べ物は? と聞けば、野田は即答した。

「イクラ!」

花の大学1年生の好物がイクラとは。シブいというか、なんというか。イクラ丼、寿司のイクラ…。

「ははは。プチプチするのが好きなんです。数の子もOKです」

アルカス熊谷の中西貴則ヘッドコーチに聞けば、野田は「しっかりしていそうで、ちょっと抜けている。愛らしくて、みんなにかわいがられるキャラクター」だという。

夢はズバリ、オリンピックの金メダルである。実は九州出身の女子ラグビーの仲良し6人組で「一緒に五輪出場」を約束し、腕にまくバンダナをみんな持っている。

バンダナの色はそれぞれ違う。野田のそれはオレンジ色。

「中学生のころから、“6人一緒でオリンピックに出られたらいいね”って。ターゲットは、東京オリンピックです」

やはり仲間はありがたい。バンダナに託した九州の「仲良し6人組」の素敵な夢物語。その夢に向かって、若い女子ラガーたちはただ走るのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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