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メジャーNo.1プロスペクトは本物か ニューヨークの新たな希望、アーメッド・ロザリオ遊撃手(メッツ)

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ニューヨークの星

 「クイーンズ、ニューヨークにプロポーズしたい。AR(イニシャル)=アーメッドは準備ができています」

 7月14日、メッツ傘下の3Aチーム、ラスベガス・51sでプレーするアーメッド・ロザリオ遊撃手がそんなユーモラスなツイートをしたことが話題を呼んだ。

 この書き込みはすぐに削除されたが(チームの怒りを買ったか?)、メッツファンが色めき立ったことは言うまでもない。チーム最大のプロスペクトが自信を示している。メジャー昇格を熱望している。“失われたシーズン”を少しでも楽しみにするために、早く上がって来て欲しいと改めて感じたファンは多かったはずだ。

 2017年はメッツとそのファンには厳しいシーズンになっている。地区首位、ワイルドカードの両方に10ゲーム以上の大差をつけられ、3年連続のポストシーズン出場は絶望的。そんな中で光明があるとすれば、ESPN.comのキース・ロウ記者が“メジャーNo.1プロスペクト”に選出した選手が出番を待っていることだ。

 ドミニカ共和国出身、21歳のロザリオは、3Aでの今季前半戦では打率.329、7本塁打、16盗塁をマーク。オールスター・フューチャーズゲーム(ルーキーオールスター)にも選出され、世界選抜チームの3番遊撃手としてスタメン出場を果たした。

 「ショートのディフェンスはプラスで、素晴らしいバットスピードを持っている。いずれパワーもついてくるだろう」

 ロウ記者はプロスペクト・ランキングの寸評でそう評していた。

 特に身体能力を生かしたリズミカルな守備はハイレベルと評される。時を同じくして、今季のメッツは守備難に悩まされてきた。そんな状況ゆえに、一部の熱心なファンからロザリオ待望論が頻繁に囁かれてきたのだった。

稀有なリズム感とバネを持つショートストップ

 ロザリオが本物なのかを見極めるため、筆者はラスベガス滞在中の6月中旬、51sの本拠地であるキャッシュマン・フィールドを訪れた。残念ながら諸事情で1対1のインタヴューは叶わなかった。それでも灼熱のベガスのスタジアムで、ニューヨーカーの期待の星のプレーを観ることができた。

 遊撃手としてのセンスは一目瞭然で、守備の良さはまずは評判通り。バネの利いたアスリートタイプだが、基本にも忠実だけに、味方投手からも好まれるだろう。今季のメッツの遊撃手を務めてきたアスドゥルーバル・カブレラ、ホゼ・レイエスより現時点で遥かに上であることは間違いない。

 一方、打撃でも左右に打ち分ける上手さとバットコントロールを持っていた。現在はいわゆるギャップヒッター(中距離打者)だが、ロウ記者の指摘通り、身体ができるにつれて長打も増えるのではないか。

 「どんな球にでも飛びついてしまい、四球を選ぶことは滅多にない」

 メッツの関係者からそう聞いていた通り、”Plate Disipline(選球眼)”に課題は残る。メジャー昇格直後はインハイの真っ直ぐと外の変化球のコンビネーションには苦しむかもしれない。ただ、少々ボール気味の球でも強引にヒットにできてしまう意外性もこの選手の魅力ではあるのだろう。

 総合的に見て、レンジャーズのエルビス・アンドルースをよりダイナミックにした選手という印象。粗削りな面も残り、メジャーの舞台でアンドルースのように成功できるかどうかはわからない。しかし、少なくとも、見ているものに何かを期待させるショートストップであることは間違いない。

昇格はトレード期限後?

 カブレラ、レイエスが今季は故障、不振を囲ってきたこともあり、上記通り、熱心なメッツファンはかなり早い時期からロザリオにラブコールを送っていた。しかし、サンディ・アルダーソンGM以下、メッツフロントはまだその時ではないと繰り返してきた。

 「現時点では(ロザリオ昇格に)適切な時期だとは思わないし、このクラブハウスに属する選手たちにプレー時間の問題を生じさせるべきではない。それぞれがチームとして、個人として、目標を持ってプレーしているんだ」

 今週中、アルダーソンはまだ契約を残したベテラン選手たちを気遣ったようなコメントを残し、ここで再びファンを落胆させている。

 チーム側の慎重な姿勢の背後には、まずはカブレラのトレード価値を引き上げたい、そしてロザリオにスーパー2(年俸調停件を2年目で得られる特例的な権利)を与えたくない、といった大人の事情があったに違いない。

 しかし、スーパー2のデッドラインはすでに過ぎ、メジャーのトレード期限ももう間近。プレーオフ進出が難しくなった現時点で、来季はチームにいないであろうベテラン内野手たちを使い続ける理由はない。

 いずれにしても、ロザリオ昇格は間近に迫っているのだろう。Xデーはトレード期限にカブレラ放出後か、あるいはレイエス解雇後か。それともロースター枠が広がる9月まで待つのか。

 2003年6月にレイエス、2004年7月にデビッド・ライトがそれぞれメジャー昇格し、当時は低迷していたメッツのファンを喜ばせたことがあった。最近ではマイケル・カンフォートが2年前のフューチャーズゲームに出場すると、直後にコールアップされ、今夏にはオールスター出場まで果たした。

 このようなフレッシュなエネルギーの注入はフランチャイズを活気づけ、ファンに未来への希望を与える。ロザリオが最新のカンフル剤になるかどうか、その時間は間もなく訪れるのか、メッツ首脳陣の判断に注目が集まる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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