全体では1.657…アメリカ合衆国の人種別出生率実情
人口問題や少子化対策などが話題に上る際、海外の参考にすべき事例としてアメリカ合衆国が挙げられる。多様な民族によって構成されており、移民政策に関してはオープンな部類に区分される国で、先進諸国の中では珍しく人口が増加する傾向にあるとして注目されている。一方そのアメリカ合衆国でも昨今、これまでの状況・傾向がくつがえされそうな動きが統計から確認できる。そこでいくつかの公的データを基に、同国の出生率(合計特殊出生率(※))を、主要人種別に確認していく。
アメリカ合衆国の合計特殊出生率につき、同国の疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)の公開値を基に作成したのが次以降のグラフ。
緩やかな動きを示していた合計特殊出生率だが、2007年から2008年を境に、どの人種においても明らかに漸減しているのが確認できる。他方直近年の2022年ではアジアとヒスパニックで前年比プラスの値が出ているが、これは統計上のぶれか、あるいは2021年から続く形で、新型コロナウイルスの流行で生じた在宅時間の増加に伴うものとの推測ができる(他の人種では同様の動きは起きず、2022年では前年比で減っているが)。
2007年から2008年以降の減少理由については諸説があり、そしてそのいずれもが単独で断定できるだけの理由とは成りえない。しかし2012年に公開されたブルームバーグのコラム記事「米国での出生率低下、その脅威とジレンマ」では、その主要因として十分納得のいくだけの説得力を持つ内容を記している。
そのコラムでは具体的にアメリカ合衆国の合計特殊出生率の低下理由として、「女性は自分たちの妊娠出産について、歴史上かつて無いほどの力を手に入れている」「かつて子育て支援の役割を担っていた家族や地域社会の強い絆は、産業化や都市化によって断ち切られている」「女性を取り囲む経済状況は大きく変わっている」とした上で(日本の実情とも多分に似ている部分もある)、「多くの女性にとって、子供は最も喜ばしく、最も贅沢な消費財というのが真実(中略)彼らは時間的にも金銭的にも高くつくため、中高所得社会では少なからぬ寂しさとともに、欲しいだけの子供を持つ余裕が無いとあきらめる女性が増えている」と説明し、金銭的余裕の欠乏から、子供を持つことをあきらめる、見方を変えれば「経済的な理由による少子化が進んでいる」と説明している。
つまりアメリカ合衆国の合計特殊出生率低下の原因は、いわゆる「先進諸国病」の症状の一つであるとの説明である。具体的には、経済的・文化的レベルが上がると、養育費は累乗的に増加し、世帯への子供一人あたりの負担も相応に増えるが、世帯所得の増加はそれに追いつかず、経済上まかなえる子供の数は減るとするものだ。
またこの解説に加え、「医学、科学技術、公衆衛生技術の進歩や経済の発達に伴い、乳幼児の死亡率が減少する」のも一因と考えられる。体力的な問題もあるが、出産した女性が新たに子をもうけるためには、それなりの多様なリソースが必要となる。しかし、乳幼児の育児の際にはそのリソースの確保が難しい。一方で乳幼児の段階でその子供が亡くなってしまった場合、次の出産へのリソース確保の機会はより早く得られるようになる。つまり少子化は「多死多産」から「少死少産」へのシフトの結果であるとするものだ。合計特殊出生率には出産後の子供の動向は反映されない。
なおアメリカ合衆国でも日本同様に、高齢出産化が進んでいることも確認できる。
興味深い話には違いない。他方、直近2022年における出生率の増加が、25歳以上で生じていることも確認できる。しかしそれだけでは、出生率増加の原因を見出すことは難しい次第ではある。
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※合計特殊出生率
一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均値。この値が2.0なら、単純計算で夫婦2人から子供が2人生まれるので、その世代の人口は維持される。値を算出する際には各年齢の女性の出生率を合計することになる。ただし実際には多様なアクシデントによる減少が生じるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07から2.08といわれている。
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