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再起戦に懸ける前世界チャンプ

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:筆者 ミット打ちする谷口を、中大サッカー部の高橋コーチが見詰める

 谷口将隆(29)は、今年1月6日に行われたWBOミニマム級タイトル2度目の防衛戦で、王座から転落した。2ラウンドKO負けだった。

 2021年12月14日、自身2度目の世界挑戦で、プロデビュー以来ベストパフォーマンスを披露しての戴冠。初防衛戦では体重オーバーの挑戦者を圧倒してのKO勝ちと、評価を上げていた最中での敗戦だった。

 前WBOミニマム級チャンプは今、再起に向けて黙々と汗を流している。

撮影:筆者
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 谷口は語る。

 「1月のメルビン・ジェルサレム戦は、準備段階で誤算が生じました。KOされるとしても、あくまでもジェルサレムの連打であって、彼に一発でやられるとは想定していなかったんです。<パンチがあるから警戒しなければ>という気持ちが、頭の片隅にも無かった。

 だからこそ、彼に"今だ"という間を与えてしまったんですね。流れの中で、そういう局面を作ってしまったことが敗因でしょう」

撮影:筆者
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 世界王座に就いてから、谷口は解説者としてのオファーを時々受けている。彼の理路整然とした語り口は好評だ。自身のボクシングも俯瞰しながら、カムバックの日を見据える。

 そしてミニマム級での減量に限界を感じていた彼は、ライトフライ級に増量する道を選んだ。

撮影:筆者
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 「今は、クラスを上げる土台作りをメインとしています。フィジカルトレーニングも増やし、かつ、常に重心を低くすることが課題ですね。パンチを放っている時も、打ち終わりも、その後動く時も意識しています。強い自分を作るための準備です。

 そのうえで、技術もアップしなければ。攻撃の際に隙を作らない。距離を徹底して、いかにパンチを貰わないかもテーマです」

撮影:筆者
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 その谷口の練習を、中央大学非常勤講師で、同大学サッカー部のコーチを務める高橋龍之介(30)が見学に訪れた。世界王座返り咲き、そして2階級制覇を目指す谷口のトレーニングを目にした高橋は言った。

 「谷口選手は常に頭を使い、考えながらやっていますね。何かを改善しよう、克服するんだという姿、ベクトルが自分に向いている雰囲気がありました。そこに焦りが無いところが、一流の証だと感じましたね。

 "勝ちたい""勝たねば"ではなく、平常心で淡々とやるべきことを積み重ねていく様にメンタルの強さも見えました。また、下半身の安定感にも目が留まりました。足の上下運動が無い。ステップの際、お尻から下が同じラインで決してブレませんね。非常に勉強になりましたよ」

撮影:筆者
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 練習後、高橋は谷口に何点か質問した。

ーーー毎日どういう気持ちでジムに入るのでしょうか?

 「特に意識していません。敢えて言うなら、前日の練習の反省ですかね。昨日は●●がダメだったから、今日は〇〇してみようとか」

ーーーモチベーションの保ち方に工夫はありますか?

 「僕は、気持ちの上げ下げが無い方じゃないかな。ただ、乗らない時や疲れ過ぎている時に思い切って休むことはありますね」

ーーー不安の克服の仕方は?

 「緊張や恐怖感は試合が決まった時に感じます。ですが、当日に向けて、練習で仕上げていきます。仕上がらないから不安になる訳ですから、やるだけですね」

 高橋は、「谷口選手の勝利を祈っています」と話した後、「自分もボクシングのトレーニングを味わってみたい」と結び、ジムを後にした(つづく)。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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