4年で60万個売れた『つよいこグラス』はガラス業界初の子ども向けグラス 名前にこめた“強い子”を体現
レトロポップな柄が人気となりSNSでも話題の食器シリーズ『アデリアレトロ』。1970年代に実際に製造していた鮮やかな花柄や動物柄などを2018年に復刻させ、“昭和風”ではなく“リアルな昭和柄”を再現し、ブームとなりました。
『アデリアレトロ』を製造しているのが、愛知県岩倉市に本社を構える石塚硝子株式会社。
そして石塚硝子のブランド『ADERIA(アデリア)』は、子ども用のガラスコップ『つよいこグラス』も開発しています。子ども用のガラスコップを製造したのはアデリアが業界初といわれています。シンプルでかわいいフォルムは、本物のガラスなのに子どもでも使いやすい設計がされています。この時期、クリスマスプレゼントにもぴったりかもしれません。
今回は、元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムがアデリアをインタビュー。『つよいこグラス』の開発やネーミングについてお聞きしました(取材・文=コティマム)
食育基本法の制定をきっかけに開発スタート「“本物”に小さな頃から触れさせる事が大切」
アデリアの親会社である石塚硝子は、江戸時代の文政2年(1819年)創業という歴史ある会社です。ガラスびんやガラス食器、紙容器、プラスチック容器、セラミックス製品などの製造販売を行っています。その子会社でガラス食器部門の企画販売を受け持っているのがアデリアです。
石塚硝子が製造している製品は主にBtoB(※Business to Business:企業)向けで、飲料メーカーなどのガラス瓶やペットボトル、紙容器などがメイン。一方のアデリアはBtoC(※Business to Consumer:一般消費者)向けの商品で、私たちも店舗やECサイトなどで購入することができます。
野ばなや花まわし、アリスなど昭和レトロな花柄が趣きのある『アデリアレトロ』で有名なアデリアですが、子ども向け商品の『つよいこグラス』もSNSで話題になっています。シンプルな透明のグラスだけでなく、ゾウやウサギの絵柄が描かれた『つよいこグラス かくれんぼ』や、目と口が描かれたフェイス柄の『つよいこグラス nico』、その他、クリエイティブユニットtupera tuperaとコラボした『パンダ銭湯』や『しろくまのパンツ』のキャラクターが描かれたグラスなど、多岐にわたって展開しています。
この『つよいこグラス』を開発することになったキッカケは、2005年の『食育基本法』の制定でした。
――『つよいこグラス』を作ろうと思った理由を教えてください。
企画担当デザイナー・伊藤裕之さん(以下、伊藤)「ガラスメーカーなので、『ガラス食器をどのターゲットに販売するか』は昔から検討していますが、キャラクターなどがプリントされた子ども用グラスは昔からよく見かけていました。ただ、キャラクターは版権がありますので、自社で子ども用のオリジナルの柄を考えてプリントすることはもともとしていました。
ちょうど2005年に『食育基本法』が制定され、世間の食育への関心が高まるようになりました。その頃、個人的にも子どもが生まれまして、自分が父親として『子どもに何かいいものを造れないかな』と思うようになりました。『食育で何かできないか。子ども用のグラスはどうだろう』と考えたのがきっかけとなり、業界初の子ども用ガラス食器の開発を試行錯誤しながらスタートしました。実際に食育指導士の資格を持つ保育士の方にアドバイスいただき、開発を進めました」
――ひょうたん型のようなシンプルなフォルムがかわいいです。なぜこのフォルムにしたのですか?
伊藤「“子どもが使う”となった時に、『何が必要なのか?』を考えました。まずは、小さくて軽くなければいけない。そして、どうやって持つのか。子ども用のコップでは木製品や陶器などがありますが、ガラス製品はそれまであまりなかったのです。なぜなら、(割れるのが)怖いから。私自身も『子どもにガラスコップを持たせるか』というと、腰が引けちゃう部分がありました。『腰を引かせない何かはないのか』といろいろ考えて、ガラスを肉厚にし、強化加工をするなど、工夫しました。
粘土や石膏で形を作って考え、当時一緒に仕事をしていた女性デザイナーの方が私の意図を組んでデザインしてくれました。いろんなパターンのデザインがある中で絞り込んで、ひょうたん形にしていこうと決め、実際に自分たちで持ったり、子どもたちに持たせたりしながら、バランスを変えながら作りました」
――『つよいこグラス』は割れにくいのですか?
伊藤「もちろんガラスなので、(高い所から)落としたら割れますが、割れにくいです。それは『化学強化』という、ガラスの内面の分子の状態を最適化して強度を増す方法を採用しているからです。特に破損しやすいのは口部(口を当てる部分)なので、そこの強化を高めています。強化加工により割れ・欠けに強く、グラスの中程にくびれがあり、小さな手でも持ちやすい形状にしています。8分目まで飲み物を注ぐと100-150mlほど入るので、小さなお子さまにもちょうど良い容量です。
また食育という観点からも、『ガラスは割れる』という理由で子どもから遠ざけるのではなく、物を丁寧に扱う経験や、天然素材であるガラスという“本物”に小さな頃から触れさせる事が大切だと考えています」
――製作にはどれくらいかかりましたか。
伊藤「半年から1年くらいはかかりましたね。外部の人に話を聞いたり、私も食育指導士の資格を持つ保育士さんに意見を聞きながら開発しました」
SNSきっかけで一般消費者が“指名買い” 企業も『子ども用』と認知するように
――開発にあたり難しかった点はありますか。
伊藤「開発する難しさよりも、『つよいこグラス』を『どうやって大人の方に認知してもらうか』が難しかったです。どうしても小さい子向けのコップは樹脂や陶器など、“落としても大丈夫なもの”を買いがちです。
食育指導士さんの食育の考え方や意見の中に、『小さい時に本物に触れさせることが、その子にとって糧になる』というベースがあります。感覚も大人より敏感だからこそ、怖いけれどガラスを通して伝わるものがある。冷たいものを飲む時に、樹脂や陶器では分からない“冷たさ”を感じることができる。この考えや感覚をお客さまにどう説明していくかが最初は課題でした」
――周知や宣伝の方が大変だったのですね。
伊藤「食育関係にアンテナを張っている保護者さんはもともと関心があります。時代というか、そういう感覚を持つ人たちの『時代が来た』というか。『安い食器を買って使えばいい』というのではなく、『自分で選んでこだわって、食べ物も安ければいいのではなくて、“少々高くてもいいものを使いたい”』という人も増えていきました。そういう人たちは、『ちょっと高いけど、いい食器を買おうよ』と思い、SNSでも情報を交換しあっています。アデリアレトロもそうですが、こういうところから『つよいこグラス』の話題が出てくるようになり、『こんなのいいね』と響き合う人たちが増えています」
――SNSでのバズりから今につながるのですね。
営業本部マーケティング部・川島健太郎さん(以下、川島)「『つよいこグラス』は、問屋さんなどの中間流通さまというよりも、一般のお客さまから“指名買い”をしていただけるようになったのが転換期です。SNSの広まりと共に、口コミやママ同士の会話の中で広まっていったのが、弊社の他の商品とは違うところです」
――実際にどれくらいの売り上げなのでしょうか。
川島「例えば2020年から2024年の過去4年間に60万個売れています。当社のシリーズの中で、『4年で60万個』はなかなかないです。年間で5万個売れると“そこそこヒットした”という感覚ですが、4年で60万個というのはかなり広まっている印象です」
伊藤「子ども用のコップではあるのですが、場合によってはレストランや業務用として料理やアミューズを入れて使用するケースもあります。実はスープ専門店『Soup Stock Tokyo』の子ども用メニューでも使用していただいています。それまでは大人向けに『レストランでサラダスティックを入れる』という使い方だったのが、『子ども用のジュースグラスとして使いたい』と変化するようになり、企業さんも『子ども用』として使ってくれるようになったのです」
川島「もともと“お子さま用”に焦点を当てた商品ではありますが、結果的には家庭の中で大人から子どもまで使ってくださっています」
ネーミングに込められた思い「強い身体、強い心を育む」「心も身体も強くなる子」
――『つよいこグラス』というネーミングはどうやって決めたのですか?
伊藤「私自身が考えたのですが、お子さんや保護者さんが分かりやすい名前がいいなと思いました。『子ども用にも使えます』という説明だけだと弱いし、分かりづらい。食育の観点からも、『その子にとって心も身体も強くするもの。食べること・使う食器によって育まれるものがある』という意味をこめて、『強い身体、強い心を育む』『心も身体も強くなる子』ということで、『つよいこグラス』にしました」
――ブランドやネーミングというのは、商品を開発した人が考えるのですか?
伊藤「それはいろいろですね。その時その時で、担当デザイナーや担当企画者が『これでいきたい』というものがありますし、会議をして会社が許可するかどうかです。とはいえ“開発者の思い”が最初にないと、何をやっているか分からなくなるので、“開発者のやりたいこと”は軸になっています」
――“やりたいこと”の思いから他に名づけた商品はありますか?
伊藤「名前のない容器に名前をつけたものもあります。この赤いキャップの果実酒などの保存用の容器(※写真)は、昭和30年代に使っていた頃は中身の量を『号』で測って『1号』『2号』と言っていました。その号から『5号瓶』や『8号瓶』と容器を名づけていたのです。
でも平成に入り『何か新しいものを出そう』と考えて、家庭で収納しやすくするために、高さを半分にして低くした容器を作りました。その時に容量が半分になるから『0.5号』になりそうなところを、『何か変わった名前をつけちゃった方がいいのでは』と思い、容器が丸い豆みたいだから『まめ丸くん』と名づけました。他にも小分け用に使えるものは『小分けちゃん』、もっと背の高い容器は『ノッポさん』など名前を考えました。もちろん流行りすたりはありますが、かわいさやイメージから“伝わりやすいもの”を考案しました」
――デザインや用途が商品名にも表れるのですね。
子どもたちに“本物のガラスを使ってほしい”、“強い身体、強い心を育んでほしい”という思いから開発された『つよいこグラス』。大切な人やクリスマスプレゼントに、その“意味”も込めてプレゼントしてみるのいいかもしれません。
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※今回の記事は、主催者に掲載の許可をいただいた上で公開しています。