「今年の漢字」を主催する日本漢字能力検定協会ってどんなところ?漢検の着想はそろばんの昇級制度だった
2024年の「今年の漢字(R)」は5回目となる「金(キン・かね)」でした。12日に京都・清水寺で発表されました。オリンピック・パラリンピックの「金」メダルや、大谷翔平選手の活躍などによる“光の金(キン)”と、政治家の裏金問題や金目当ての闇バイト事件など、”影の金(かね)”という、2つの意味を持つ「金」が選ばれました。
※「今年の漢字」に関する記事はこちら:「今年の漢字」はこうやって決まる!主催者取材で分かった極秘集計のウラ側!住職も直前に知り一発書き?
この「今年の漢字」を主催しているのが、京都市に本部を置く公益財団法人日本漢字能力検定協会(以下、日本漢字能力検定協会)です。ちなみに「今年の漢字」が発表された12月12日は「漢字の日」。この記念日も、日本漢字能力検定協会が「いいじいちじ」の語呂合わせから制定しました。
日本漢字能力検定協会といえば、その名の通り「漢検」でおなじみ。これまでに受検したことがある人もいるのではないでしょうか。今回は、元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、「漢検」や「今年の漢字」を主催する日本漢字能力検定協会にインタビュー。普及企画部普及企画課の石丸達也さんと佐藤由依さんに、協会の変遷や漢検の問題作りについてお聞きしました(取材・文=コティマム)
協会の母体は塾が始まり 漢検は15級から5段まで20段階だった時期も
「漢検」こと日本漢字能力検定は、「漢字の意味を理解し、文章の中で正しく使う能力をさまざまな視点で測る検定」として1975年から実施されています。現在では年間約140万人が受検している、国内最大規模の検定のひとつです。漢字の読み書き問題に加え、熟語の構成・誤字訂正・部首・筆順など幅広く出題します。
――協会や漢検の変遷について教えてください。
佐藤由依さん(以下、佐藤)「日本漢字能力検定協会は、普及啓発・支援活動、調査・研究活動、日本語能力育成活動の、3つの柱で行っている公益財団法人です。
『今年の漢字』は普及啓発活動の代表的なものになりますが、その他にも漢字に興味を持ってもらえるイベントや、『漢字ミュージアム(漢検漢字博物館・図書館)』の運営、書籍の発行なども行っています。
皆さんに知っていただいている漢検は、日本語能力育成活動の領域として実施しています。3歳~103歳まで、累積5000万人以上の方に受検していただいています。
日本漢字能力検定協会はもともと学習塾の一環から始まりました。当時の塾の創立者が日本語や漢字を大事に思っていたことから、段や級としてレベルが上がっていくと子どものヤル気が出るということで、昇級制度を使った学習の基礎となる漢字検定を作って実施したのが始まりです」
――もともとは塾だったのですね。
石丸達也さん(以下、石丸)「京都で運営していた塾が母体で、1975年に任意団体という形でスタートしました。1992年に当時の文部省(文部科学省)より財団法人として認可され、2013年に公益財団法人となりました。検定は任意団体となった1975年から始まりました。
その頃は出生数が200万人前後の時代で、有名校への受験が熱かった時期でした。当時、同じ塾のビル内にそろばん塾がありました。そろばんは『初級クラスから少し上達すれば上のクラスに上がっていく』という仕組みで行われています。塾の創立者は、『塾生の学力ベースを上げるためには国語が大事になってくる。その基礎は漢字になってくる』と考えておりました。
そこで、そろばん塾から着想を得て、今の漢字検定のベースができました。そろばん教室の昇級システムが元となって、漢検が生まれたのです」
――漢検がそろばん教室から影響を受けていたとは!
石丸「みなさんに知っていただいている現在の漢検と同じレベルになったのは1992年です。学習漢字(小学校で習う漢字)1,026字を対象とした10~5級から、常用漢字2,136字すべてを対象とした2級、常用漢字表外の漢字を含んだ約6,000字を対象とした1級まで、12段階の級を設定しています。
現在の形になる前は、15級から5段までの20段階でした。1975年の初年度は、学習漢字を対象とした15級~4級で開始しています。より多くの年齢層の方々に挑戦いただけるよう、常用漢字を対象とした3級~初段までを少しずつ追加し、1989年に最上位である5段を設置しました。受検する級に年齢制限はなく、いつでも、誰でも、どの級からでも挑戦できます」
16種類×級ごとの問題を作る編集委員チームは“厳戒領域” 合格率や難易度も同じ水準にする
――漢検の問題は、どんな人が作っているのですか。
佐藤「漢検の問題を作る部署があります」
石丸「協会の職員と、漢字を専門的に学んできた方などが『編集委員』としてチームとなって作っています」
――10級から1級まで、全ての問題を毎回作るのは大変ですよね……。
佐藤「2024年度では、協会側が会場を用意する公開会場での受検が年に3回あり、小・中学校や高校、塾などが登録している準会場での検定が16回あります。
全16日程で、そのうち3回は公開会場で受けられる仕組みです。ただし1級と準1級は公開会場のみの受検になりますので年に3回しか受検できません。
つまり計16種類×10級~2級までの問題と、準1級と1級の問題が3種類必要になります」
――1年でそれだけあると、毎年作っていく中で似たような出題になりそうです。
石丸「過去の正答率などを分析し、合格率が同じ水準になるように、難易度を調整しています。いつ受検したかによって有利、不利が出てしまうと公的な資格として問題がありますので、高い質を保ちつつ、難易度が均一になるように徹底しています」
――同じ難しさ、同じ合格率で問題を作るのですね!
佐藤「級の幅はありますが、級ごとにメイン担当者がおり、それぞれチームで展開していきます。1級は約6,000字の範囲になりますのでかなり人手が必要なのではないかと思いますが、チーム編成など詳しいことはオープンにできません」
石丸「問題を作成する部署は、協会の中でも“厳戒領域”になっております。協会職員から検定問題が漏れてしまうリスクもあるため、細かなところをお伝えできないのです。
協会のオフィスは1フロアに各部署が並んでいますが、テレビの取材などが入った際も、『ここから先は入らないでください』と決められています。我々でも一線を越えられません(笑)」
――確かに、厳重に機密保持しなければいけないですよね。ちなみに協会で働く方々は入社時に漢検を取得しておかなければいけないのですか?
石丸「いえ、どちらでも大丈夫です」
佐藤「内定が出た人には、『入職前に受検してください』と呼びかけることはあります」
石丸「内定後に漢検2級や文章検を受検し、協会が提供している商品やサービス自体がどういうものかを知る目的です。
また実際に検定会場に行くので、どういった方々が受けてくださるのか、実際に知ることができます。我々も年に3回の公開会場の現場に行っています。また協会の入職試験として特徴的なのは、『自分を表す漢字1字』をエントリーシートに書きます」
――漢検らしいテーマですね。ちなみに石丸さんは何と書かれたのですか?
石丸「私は挑戦の『挑』を書きました。面接では、なぜその文字を選んだのかの理由もきちんとプレゼンします」
――最後に、協会として目指すことを教えてください。
石丸「我々は、『日本語と漢字を学ぶ楽しさを提供し、豊かな社会の実現に貢献する』という理念を持っています。漢検などの日本語能力育成事業が、検定や学習機会を提供する事業になっています。
我々は『楽しさ』を提供することを中心に動いている部署です。楽しさをきっかけとして、最終的に『学びたい』と検定に挑戦いただき、『学んでよかった』と感じてもらえるとうれしいです」
知られざる日本漢字能力検定協会の“裏側”。漢検の着想がそろばんの昇級システムから浮かんだことや、検定問題が常に一定レベルの正答率や難易度を保って制作されている点など、初めて知ることばかりでした!
日々言葉を扱う記者として、漢検の勉強をしながら言葉の知識をさらに身に着けていきたいと思ったのでした!
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※今回の記事は、主催者に掲載の許可をいただいた上で公開しています。