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「今年の漢字」はこうやって決まる!主催者取材で分かった極秘集計のウラ側!住職も直前に知り一発書き?

コティマムフリー記者(元テレビ局芸能記者)
2024年「今年の漢字(R)」は「金」/提供:漢検/揮毫者:清水寺 森清範 貫主

 1年の世相を表す「今年の漢字(R)」が、12日に京都・清水寺で発表されました。2024年を表す漢字は「金(キン・かね)」。221,971票の応募の中から12,148票を集め、1位に選ばれました。

 パリオリンピック・パラリンピックで数多くの「金」メダル獲得に沸いたことや、大谷翔平選手が50-50達成と3回目のMVP獲得で値千「金」の活躍したこと、佐渡「金」山が日本で26件目の世界遺産に登録されたこと、20年ぶりに新紙幣が発行されたことなどが話題になりました。一方で、政治とカネ・裏「金」問題などで政局が大きく変わり、衆議院議員選挙で与党が過半数割れしたことや、全国各地で闇バイトによる「金」目当ての強盗事件が多発したこと、物価高騰が止まらず家計を圧迫していることなども、理由として挙げられています。

 ちなみに毎年「今年の漢字」が発表される12月12日は、「いいじいちじ」の語呂合わせで「漢字の日」とされています。

 普段は芸能取材を主に担当している筆者も、この時期になると芸能人に1年を振り返った「今年を表す漢字は?」と聞く機会が増え、「そういう時期が来たなぁ」と1年の終わりを感じます。(ちなみに2024年の今年はNumber_iの平野紫耀が「味」、Snow Manの目黒蓮が「海」、市川團十郎は1文字ではなく2文字で「終始」と答えています)。「今年の漢字」は、1年を締めくくる12月の風物詩になっていますね。

 さて、この「今年の漢字」を主催しているのは、「漢検」でおなじみの公益財団法人日本漢字能力検定協会(以下、日本漢字能力検定協会)です。

筆者の娘も受検している漢字検定(いちまるとはじめよう!わくわく漢検9級より)/筆者撮影
筆者の娘も受検している漢字検定(いちまるとはじめよう!わくわく漢検9級より)/筆者撮影

 毎年11月から12月上旬に全国から募集した「世相を表す漢字」を日本漢字能力検定協会が集計し、応募数が多かった漢字が「今年の漢字」に選ばれます。選ばれた漢字は清水寺で揮毫(きごう/※筆をふるって文字や絵を描く)され、みなさんもニュースなどで目にする“漢字が掲げられる場面”が発表されるのです。

2024年「今年の漢字(R)」第1位「金」主催・写真提供:公益財団法人 日本漢字能力検定協会(以下、漢検)、揮毫者:清水寺 森清範 貫主
2024年「今年の漢字(R)」第1位「金」主催・写真提供:公益財団法人 日本漢字能力検定協会(以下、漢検)、揮毫者:清水寺 森清範 貫主

 今回は、元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが日本漢字能力検定協会にインタビュー。普及企画部普及企画課の石丸達也さんと佐藤由依さんに、「今年の漢字」の変遷や、漢字がどのように選ばれるのか、また“激動の極秘集計”の裏側についてお聞きしました(取材・文=コティマム)

12月9日に締め切ってから怒涛の集計スタート「“一部の人間”しか集計できない“厳戒区域”です」

公益社団法人漢字検定協会が運営する漢検漢字博物館・図書館(漢字ミュージアム)/写真提供:(公財)日本漢字能力検定協会(以下、漢検)
公益社団法人漢字検定協会が運営する漢検漢字博物館・図書館(漢字ミュージアム)/写真提供:(公財)日本漢字能力検定協会(以下、漢検)

 日本漢字能力検定協会はもともと京都にあった学習塾が母体となり、1975年に任意団体として発足しました。現在も京都市に本部があります。その後1992年に文部省(現:文部科学省)から財団法人として認可され、2013年には内閣府から公益財団法人として認定されました。検定は1975年の任意団体時にスタートし、現在の12段階(10級~1級、準1、2級)の形になったのは1992年からです。

 そして「今年の漢字」が始まったのは、財団法人になった3年後の1995年。ちなみにこの年は阪神淡路大震災が発生した年。初開催の「今年の漢字」は「震」でした。

漢字ミュージアムの「今年の漢字展」で展示されている「震」/写真提供:漢検
漢字ミュージアムの「今年の漢字展」で展示されている「震」/写真提供:漢検

――1995年に「今年の漢字」が始まったきっかけを教えてください。

佐藤由依さん(以下、佐藤)「この年は、92年に財団法人になってすぐでしたので、当時の担当者が『協会の知名度をあげていきたい』と考えていました。

その頃は『今日の漢字』を選んで、協会が入っているビルから垂れ幕を出そうかと考えていたのですが、毎日行うのも、そもそも『今日の漢字をどうやって決めるのか』という点でも、難しかったようです。そこで考えた結果、年末には多くの人がその年を振り返るので、『“今年の漢字”という“1年間を振り返った漢字”を募集して発表するのはどうか?』と思いつきました」

――清水寺で揮毫するのもその時に思いついたのですか?

佐藤「当時の発案者が、『せっかく発表するならいい場所はないか?』と考え、『清水の舞台から飛び降りる』気持ちで清水寺にアポイントなしで飛び込み営業し、『清水寺で発表したい』と説明しました。すると当時の清水寺の方が『おもしろいですね、やりましょう!』と言ってくださり、とんとん拍子で決まったと聞いております。2024年で30回目を迎えました。ちなみに当時の発案者は、今も京都の『漢字ミュージアム』(漢検漢字博物館・図書館)に勤務しています」

――「今年の漢字」は集まった漢字の中から識者たちが選ぶのではなく、純粋に「一番多かった漢字」が選ばれるのですね。

佐藤「そうですね。“一番多かった票”を1位にしています。協会側で協議して選定しているわけではありません」

――2024年は11月1日から12月9日までが応募期間でしたが、集計も日本漢字能力検定協会さんがされるのですか?

佐藤「そうですね。急いで集計しています!」

石丸達也さん(以下、石丸)「我々が所属している普及企画部の普及企画課が担当しておりまして、『今年の漢字』事業に対して部署のメンバーの一部が参加して動いています。漢字の募集方法は清水寺や学校、塾、図書館などに設置している全国の応募箱の紙と、ウェブ投票、それから協会へ直接送っていただくハガキです。応募箱からの応募が多いです」

イオンモールKYOTOに設置されている応募箱/写真提供:漢検
イオンモールKYOTOに設置されている応募箱/写真提供:漢検

――12月9日に締め切ってから12日の発表まで、あまり時間がないですよね?

石丸「そうですね。応募箱やハガキなど紙の応募は、締め切ってからどさっと届くので大変ですね。その漢字を選んだ理由も書いてあるので、理由をパソコンでタイピングしながら3日、4日間で集計しなければいけません。そして“一部の人間”しか集計もできなければ結果も知らないという “厳戒態勢”で、当日発表を迎えます」

佐藤「選ばれた漢字は、清水寺にも発表直前にお渡ししています」

――そうですよね。当日までに情報が洩れてしまったら大変ですよね。

清水寺に設置されている応募箱//写真提供:漢検
清水寺に設置されている応募箱//写真提供:漢検

石丸「私も2023年は清水寺で当日の運営をやっていましたが、『税』という漢字が揮毫された瞬間に初めて知りました。よく、『事前に字が決まっていて、書く練習をしているのですか?』と聞かれるのですが、清水寺の方も直前に渡されて、知ったものを当日の14時に揮毫していただいています」

――清水寺の方も渡されてすぐに書くのは緊張しますね! 

漢字から見える“関心事の多様化” 1位と2位が僅差に「どちらが1位になるか集計している側もギリギリまで分からない」

過去1番応募が多かった2011年の漢字は「絆」/写真提供:漢検
過去1番応募が多かった2011年の漢字は「絆」/写真提供:漢検

――これまで集計をしてきた中でたくさんの漢字をチェックして、感じることはありますか?

石丸「最近は、選ばれる漢字の結果の差が僅差で、予想が難しくなってきている印象です。例えば、過去一番応募があったのは東日本大震災が発生した2011年で、約50万票が集まりました。この年の漢字は『絆』で、1位の『絆』と2位の『災』の票の差が圧倒的でした。1位の『絆』は6万1453票で、2位の『災』は2万8648票。3万票以上の差がありました。

2011年の漢字「絆」は2位と圧倒的な差で1位に/出典:日本漢字能力検定協会ホームページ
2011年の漢字「絆」は2位と圧倒的な差で1位に/出典:日本漢字能力検定協会ホームページ

しかし最近は、1位と2位の票の差が狭くなっている印象です。2023年は1位が5976票の『税』で、2位が5571票の『暑』で、わずか405票の差でした。これは私個人の考えですが、社会の多様性が影響していると捉えています」

2023年の漢字「税」は2位「暑」と405票差/出典:日本漢字能力検定協会ホームページ
2023年の漢字「税」は2位「暑」と405票差/出典:日本漢字能力検定協会ホームページ

――人々の生活や価値観の変化が漢字にも表れていると。

石丸「今までは“象徴的なこと”や、1つ“大きなこと”があるとそこにたくさんの票が集まりましたが、最近は各々が感じたものや地域差などもあり、差が狭まっているのではないでしょうか。世の中の“多様な価値観”が反映されるので、漢字から社会の変化を感じることができるのもおもしろさのひとつです」

2022年の1位「戦」と2位「安」はわずか108票差/出典:日本漢字能力検定協会ホームページ
2022年の1位「戦」と2位「安」はわずか108票差/出典:日本漢字能力検定協会ホームページ

佐藤「特に2022年は、1万804票で1位の『戦』と1万616票の2位の『安』の差が108票しかなく、どちらが1位になるか集計している側もギリギリまで分からない状態でした。正直に言うと、どちらが1位になっても(メディア用に)報道向け資料が出せるように2パターンで準備していました」

――確かに! 12日14時にメディア向けの発表するために、事前に報道向け資料を作成しますよね。1位と2位が僅差だと、両方用意しておかないと不安です。

石丸「応募を締め切ってから12日の当日発表まで、漢字の集計と報道向け資料の作成を同時並行で作り込みしていきます。票数に間違いがないか、世の中の方々の声や、どういった理由があるかなど、協会内で会議室を封鎖して缶詰めになって3日間話し合います」

短い期間で集計や報道資料作成に挑む/写真提供:漢検
短い期間で集計や報道資料作成に挑む/写真提供:漢検

佐藤「漢字に寄せられた背景やコメントに間違いがあってはいけないので、そこもチェックします。例えば2023年は『税』でしたので、『一体何税が話題になっているのか』『その税が上がるのか、下がるのか』『そもそも本当に議題にあがっているのか』などの背景を調べました」

石丸「いわゆる裏取りですね」

――本当に大変で地道な作用です。短期間で激動な日々ですね。

佐藤「集計が間に合わないかも……と思うような危ない年もありますが(笑)、なんとか間に合わせて当日14時に発表しています。『今年の漢字』が、年末に1年を振り返っていただくきっかけになればと思います」

2024は「金」な1年だった/主催・写真提供:漢検
2024は「金」な1年だった/主催・写真提供:漢検

 

 毎年当たり前のようにニュースで見ている「今年の漢字」。全国各地で人々が1年を振り返り、“今年を表す漢字”が京都に集結します。そして日本漢字能力検定協会による厳重な機密保持と怒涛の集計期間を経て、私たちのもとへ届けられていました。みなさんにとっての“今年の漢字”は何ですか?

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※今回の記事は、主催者に掲載の許可をいただいた上で公開しています。

フリー記者(元テレビ局芸能記者)

元テレビ局芸能記者で、現・フリーランス記者。歌舞伎や舞台、芸能イベント、企業・経営者を取材中。記者目線ならではの“言葉のお話”や、個人的に取材したおもしろ情報を発信していきます♪執筆記事1万本以上。取材は5200回以上。現在は『ENCOUNT』、小学館『DIME WELLBEING』、舞台評、企業HP制作など多岐に渡り執筆中。過去媒体にテレ朝ニュース、キャリコネニュース、音楽雑誌『bounce』など。24年11月に合同会社パラレルコネクトの設立メンバーに。メディアやインフルエンサーと企業をつなぐサポートもしています!

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