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大ヒットの「アラジン」を「トイ・ストーリー」新作が超え、さらに? ディズニー「夏の3強」が記録に挑む

斉藤博昭映画ジャーナリスト
全米でも予想どおり大ヒットスタートとなった『トイ・ストーリー4』のプレミアより(写真:REX/アフロ)

日本国内の動員ランキングで『アラジン』が5週連続のトップを飾り、興行収入は86億円を記録。100億円という数字が現実となり、年間トップさえも射程に入れている。

『アラジン』全国公開中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
『アラジン』全国公開中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

今年はディズニーアニメーションの、実写化を含めた「再生」がラッシュで、一大ブームになることが予感されつつ、前半戦の『メリー・ポピンズ リターンズ』や『ダンボ』が思った数字まで伸びず、『アラジン』に期待が託された。しかし、まさかここまでの大ヒットになるとは予想されていなかった。やはり2017年の『美女と野獣』と同様に、オリジナルアニメの人気と、その後、舞台ミュージカル化されての人気の拡大、そして何より、音楽のパワーが大きい。『メリー・ポピンズ〜』もミュージカルだったが、ほぼ新たな曲でなじみが薄かったのが『アラジン』との違い。『ダンボ』もそうだが、オリジナル作品がはるか昔だったのに比べ、『アラジン』はアニメーション版が1992年なので、当時、「ホール・ニュー・ワールド」のメロディの虜になった若い世代が、大人になってその感動を追体験するうえで、絶好のタイミングにもなった。

ほぼ完璧な、おもちゃたちの新たな運命

それにしても近年の日本の映画興行では、こうして一度火が点くと「一人勝ち」状態になってしまう傾向が強くなっている。では、この勢いで『アラジン』の独走が続くのか? さらに上回るポテンシャルを秘めた作品が現れる。7月12日公開の『トイ・ストーリー4』だ。ディズニー/ピクサー作品では、最高の人気を誇るこのシリーズ。9年前の2010年の『トイ・ストーリー3』は興行収入108億円を記録しており、要するに今回の「4」もその数字が十分に想定される。しかもこの『トイ・ストーリー4』、めちゃくちゃ評価が高いのである。

『トイ・ストーリー4』7月12日(金)全国ロードショー 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
『トイ・ストーリー4』7月12日(金)全国ロードショー 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

おもちゃたちの運命を「3」でうまくまとめた感があったが、新たな持ち主である少女ボニーの元で展開する、ウッディらの運命と冒険に没入しない人はいないだろう。それくらい計算され、あざとくなく、心の琴線にふれるストーリーになっているのだ。適度なバラエティ感で揃った新キャラクターへのユーモアと感動の配分。懐かしのキャラクターの再登場に、シリーズ開始から25年の間の世の中の価値観も盛り込み、しかも、おもちゃの不気味さを味付けにする余裕もある。そして何より、「絵」の信じがたい美しさ……。欠点を見つけるのは不可能なほどで、観た後、これだけ幸せになれる作品は、実写を含めても年に何本もあるわけではない。おそらく日本でも口コミが広がり、『アラジン』の勢いを追い抜く可能性もある。

舞台でも記録を作った名作が、超実写版に

さらに、この夏のディズニー作品には、もう一本、100億円を狙える作品が待機している。8月9日公開の『ライオン・キング』だ。1994年の同名作の、基本的には「実写化」。しかしその映像はオールCGなので、厳密には「実写風の再映画化」である。とはいえ、観ている側からすると実写としか思えない(賞レースでは、アニメーション枠に入るのか論議も呼びそう)。

前述した『アラジン』と同じく、大ヒットしたアニメーション版の後、舞台ミュージカル化され、さらに人気を拡大した。しかも日本では、劇団四季の公演が20年以上のロングランを続け、公演数、動員数とも国内最高記録を誇る。『アラジン』以上の「定着度」なのだ。つまりポテンシャルは、異常に高い。

新たな『ライオン・キング』も基本のストーリーはオリジナルと同じなので、驚きはない。しかし、『美女と野獣』『アラジン』の大ヒットを考えると、とくに日本では「長年愛された、おなじみの物語」が観客を集める傾向が強いのも事実。物語を「確かめて」、感動を「甦らせる」には、今回の『ライオン・キング』は最適だ。しかも「愛を感じて」「サークル・オブ・ライフ」という名曲が、近年のミュージカル映画ヒットの法則をかなえる。唯一の不安要素は、実写(風)にもかかわらず、キャラクターが動物のみなので、観る側の感情移入度だろう。ディズニー名作アニメの実写化『ジャングル・ブック』(これもほぼCGだったが)は、世界興収に比べ、日本での成績が思わしくなかった。

『ライオン・キング』8月9日(金)全国公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
『ライオン・キング』8月9日(金)全国公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

また、やや影響を与えそうなのが、7月19日に公開される新海誠監督の新作『天気の子』の仕上がりではないか。『君の名は。』と同様に爆発的なブームを起こした場合、もちろん観客層は違うとはいえ、その後に公開される映画が影響を受けるのは必至。もし『天気の子』の評判がそれほどでもなかったら、その分、『ライオン・キング』に流れる観客が激増することは十分に考えられる。

もし『ライオン・キング』が日本でも観客の熱狂的な支持を受け、『トイ・ストーリー4』も予想どおりに数字を伸ばせば、この夏、ディズニー作品が3本一気に100億円を超える……というのも夢ではない。100億円超えは出ても、せいぜい年に1〜3本。しかも到達がゼロという年も多い。それが、夏だけで3本、しかも同じ会社ということになれば、歴史的ケースとなるわけだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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