【ライヴレポ】古内東子 妙なるグルーヴを生み出した、『恋の歌が品川で“groove”する』
河野伸(P/Key)、佐野康夫(D)、大神田智彦(B)、石成正人(G)、竹上良成(Sax/Flute)、そしてボーカル古内東子――音楽好きならこのバンドメンバーの名前を見ただけで、どんな音を出してくれるのか、ワクワクするはずだ。そしてそのバンドアンサンブルが、古内東子のボーカルと相まってどんなグルーヴを作り、感じさせてくれるのか、ドキドキするはずだ。
その名も『恋の歌が品川で“groove”する』と題した古内東子のバンドスタイルのライヴが、10月19日品川インターシティホールで行われたが、一音目から最後の一音まで、とにかく気持ちいい、心躍る素晴らしいライヴだった。
「今日は涙ではなく、体を揺らして汗をかいて欲しい」
オープニングナンバーは「ルール」。紗幕に古内とバンドのシルエットが映し出され、いきなりグルーヴの渦に客席を巻き込む。この曲は1996年に発売されたアルバム『Hourglass』に収録されていて、佐野がドラムを叩き、石成がギターを弾いている。長年、古内と一緒に音楽を奏でている気心が知れた、リスペクトし合うメンバーが揃っているこの日のバンドが作り出す“空気感”が、グルーヴを作り出している。バンドメンバー全員が、今や大物アーティストのレコーディング、ライヴに欠かせない存在となっているが、メンバーが古内とのライヴを楽しんでいるのが、伝わってくる。
「Don’t Pretend」(2002年)は、今年のビルボードライヴで初めて演奏されたレアな楽曲で、ギターのフレーズが印象的な作品だ。石成のギターが楽曲の輪郭をより際立たせる。「ブレーキ」は大ヒットアルバム『恋』(1997年)に収録されているナンバーで、この日はこのアルバムから「悲しいうわさ」「大丈夫」「宝物」が演奏されたように、アルバム自体がバンドグルーヴを感じさせてくれる作品だ。MCで古内が「今日は涙ではなく、体を揺らして汗をかいて欲しい」と言っていたように、ライヴタイトル通り“groove”重視のミディアム~アップテンポの楽曲オンリーで、ライヴでの定番、人気曲「誰より好きなのに」も演奏しなかったほどで、「スケ番風の衣装(笑)」(古内)のドレスの裾を揺らしながら歌い、お客さんの体を揺らせていた。<愛し合うことには 皮肉なもので ルールも順序も関係ない>という強烈なフレーズが印象的な人気曲「悲しいうわさ」では、客席から手拍子が起き、名曲「大丈夫」では、佐野のドラムがおなじみのイントロを奏で始めると、さらに客席の温度が上がる。
凄腕ミュージシャンが揃うバンドが作り出す立体的な音
どの曲も、佐野のドラムがリードし、そこにステップを踏みながら演奏する大神田の厚くファンキーなベースの音が乗ると、強力なリズムが生まれ、石成の美しく存在感のあるギターと、古内の作ったせつないメロディを、よりせつなく演出する河野のピアノとキーボード、さらに竹上のサックスとフルートが差し色になって彩りを与え、立体的な音が生まれる。そんな素晴らしいバンドアンサンブルと、古内の歌と息遣いが一体となって妙(たえ)なるグルーヴを生み出していた。
「涙」「心もつれて」はアップテンポだが、なんともいえないせつなさを届けてくれる。歌詞だ。彼女が書く歌詞は、微妙に揺れ動く女心を鮮やかに描く、というよりは、恋愛の情景を生々しくスケッチするドキュメンタリーだ。女性の嘘偽りない心情を感じることができるからこそ、例えば結婚して子供がいる女性でも、年を重ねても、独身の女性独特の気持ちやせつない思いに共感できるのだ。
The Isley Brothersの「Between the Sheets」のカバーでは、セクシーな音に乗せ、メンバー紹介。改めて素晴らしいメンバーだと実感。古内の楽曲が持つ世界観を、よりはっきりと客席に届ける、その美意識を共有できている凄腕のメンバーだからこそのグルーヴなんだということを教えてくれた。その流れから、イントロの竹上のフルートが軽やかさを演出してくれた「Enough is Enough」は、鳥肌モノだった。昨年、約6年ぶりに発売したオリジナルアルバム『After The Rain』のリードトラックで、現代の全女性に贈られた恋愛・人生賛歌だ。キャリアを重ねてきた古内の強く、優しい歌が繊細さを纏って伝わってくる。
「広いシーツにひとりきり」「Lost in the wind」でどんどん会場の空気は熱を帯び、まさにアーバングルーヴとでもいいたくなる、オシャレで心地いいサウンドの「最初から」では、再び客席が総立ちになる。石成のギターソロが炸裂する。「キライになりたい」、そしてポップなラブソング「Weak Point」は、古内のどこか優雅に舞うような声が、すれ違いとヤキモキする心情を描いた歌詞を、よりせつなく伝えてくれる。ここで本編が終了。
心も体も喜ぶ、極上のグルーヴ
佐野のドラムがリズムを刻みはじめ、アンコール一曲目の「心にしまいましょう」がスタート。素晴しいバンドアンサンブルがすぐに生まれ、そこに少し寂しさと気だるさを感じさせてくれる、古内のボーカルが乗ると抜群の肌触りになる。「映画を観よう」、そして「宝物」と、艶のある強いグルーヴが印象的な、色気が薫り立ってくるような音と歌を続けて披露し、大団円。ずっと聴いていたい、観ていたいと心から思わせてくれたライヴだった。そして心と体が喜んでいるのがわかった。こう感じる音楽こそ、グッドミュージックであり、“gloove”を感じる音楽ということなんだと思う。この日のライヴはバンドスタイルだったが、古内は様々なスタイルのライヴで、これからも“せつなさ”を伝えていく。
■11月3日(日)神奈川・MOTION BLUE YOKOHAMA
■11月7日(木)愛知・BLUE NOTE名古屋
■11月19日(火)・20(水)東京・COTTON CLUB
■11月23日(金)広島・Live Juke
■11月30日(土)香川・高松SUMUS cafe
■12月6日(金)東京・コニカミノルタプラネタリウム“天空” in東京スカイツリータウン『LIVE in the DARK』
■1月10日(金)東京・eplus LIVING ROOM CAFE&DINING
■1月19(日)大阪・ビルボードライブ大阪
■2月2日(日)東京・ビルボードライブ東京