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「捨てる」を「活かす」 おからケーキ

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
2017年4月1日、川口元郷氷川神社で販売されるおからのケーキ「Ocalan」

4月12日はパンの記念日。埼玉県川口市栄町でパン教室を営む坂巻達也さんが3年がかりで開発した「おから」ケーキを紹介したい。坂巻さんは、おからケーキの販売に向けて、今月4月1日に株式会社 Ocalan(オカラン)を立ち上げた。もともとは、パンの原材料として使っていた豆乳の会社から、原材料としておからを紹介されたのが、開発のきっかけだそうだ。

40年以上、パン店「ボングー」を営み、4月1日に(株)Ocalanを立ち上げた坂巻達也さん(右)
40年以上、パン店「ボングー」を営み、4月1日に(株)Ocalanを立ち上げた坂巻達也さん(右)

「おから」といえば、にんじんや油揚げなど、他の食材と煎り煮した「炒りおから」。個人商店の豆腐屋さんでは、豆腐と一緒におからが売られていた。全豆連(全国豆腐連合会)の豆腐製造事業者数の推移によれば、昭和18年(西暦1943年)に47,941あった豆腐製造事業者は、昭和35年に51,596と最多となった後、どんどん減ってきて、平成元年に22,740、平成22年には9,881、平成26年には8,017となっている。個人商店が減ってきた今では、おからを食べる機会も減ってきているのかもしれない。

おからを炒り煮した料理は「卯の花」とも呼ばれる
おからを炒り煮した料理は「卯の花」とも呼ばれる

横山勉氏の「おからは食品か産廃か」によれば、利用形態として、飼料用65%、肥料用25%、その他10%(うち産廃が50〜90%)、食用はわずか1%だそうだ。

おからの利用形態(横山勉氏の記事を元に宗高美恵子氏がグラフ制作し、筆者が改編)
おからの利用形態(横山勉氏の記事を元に宗高美恵子氏がグラフ制作し、筆者が改編)

食品業界では食品リサイクル法に基づき、廃棄をできる限り発生抑制している。環境配慮のキーワードである「3R」のうち、最も優先順位の高いのが「Reduce(廃棄物の発生抑制)」である。その次が「Reuse(再利用)」、最後が「Recycle(リサイクル)」である。おからを飼料や肥料として利用するのは「リサイクル」としての活用である。森永乳業は製造工程で発生するおからを牛の飼料に加工し、森永酪農販売(株)を通して酪農家に販売しているとのこと。

農林水産省は、食品関連産業に対し、発生抑制の数値目標を設定している。各業界の中でも豆腐・油揚製造業は年間2,560kg/売上高100万円あたり と設定されている。他業種と比較しても高い値であり、おからの発生を考慮してのことと推察される。

農林水産省による食品産業に対しての発生抑制目標数値(左下に豆腐・油揚製造業)
農林水産省による食品産業に対しての発生抑制目標数値(左下に豆腐・油揚製造業)

わずか1%しか食用とされていないおからだが、食物繊維が10%近く含まれ、食物繊維源として有効である。また、エネルギーは100gあたり86kcalと比較的低く、カルシウムや大豆イソフラボンが含まれ、栄養的に価値の高い食材である。水分が多いために劣化が早く、最近では水分を除去した「おからパウダー」なども市販されている。

ただ、多くの人が「おから」と聞くと想像するのは、あの独特の もそもそした感ではないだろうか。これをどのように食用として美味しく加工できるかがキモである。

坂巻さんは、父親が始めたパン屋「ボングー」で40年近く、パンを作ってきた。数年前に、個人向けのパン屋さんを辞め、現在は、レストランや子ども・お年寄り向けの施設など、法人向けにパンを製造している。また、2015年からは、パン教室を開催しており、告知を出すとすぐに予約が埋まってしまうほどの人気である。

このパン教室の人気に一役買っているのが、かつて発酵食品関連企業に勤めていた、宗高美恵子さんである。

(株)Ocalan設立日の4月1日、Ocalan(おからん)を販売する宗高美恵子さん(写真奥、著者撮影)
(株)Ocalan設立日の4月1日、Ocalan(おからん)を販売する宗高美恵子さん(写真奥、著者撮影)

宗高さんは、坂巻さんと一緒に、これまでおからのケーキ開発に携わってきた。紆余曲折しながら、最終的には、おからと豆乳を使用し、無添加で身体にやさしいグルテンフリーのおからケーキ「Ocalan(オカラン)」を完成させた。

Ocalan(プレーン・チーズ・チョコ・クランベリー・ブルーベリー、各200円、ブルーベリーのみ220円)と、より糖質量を下げたH.(ヘルシー)Ocalan(プレーン・チーズ・酒粕・ゴマ・ラズベリー、各180円、いずれも糖質1g以下)。

ヘルシーオカラン(プレーン)
ヘルシーオカラン(プレーン)

主食の中でも、パンは、食品ロスを生み出しやすい。著者が食品企業勤務を辞めてから3年間関わっていたフードバンクでは、毎日、定期的にスーパーマーケットから寄付される常温保存のパンがトラックで運ばれてきた。全国で、多くのパン屋さんが、それぞれの方法で、食品ロスを最小限に食い止めようとしている。

広島市のブーランジェリードリアンは、以前営んでいたパン屋のスタイルを変え、アイテムを絞って製造することにした。おととし2015年の夏以降、一度もパンは捨てていないという。埼玉県上尾市に本社を持つアクアベーカリー(ブーランジェベーグ)は、逆に多品種が売りだ。100種類のパンを100円で販売し、1つの種類については少量生産し、ロスを出さないようにしている。島根県安来(やすぎ)市の瀬尻パン店の瀬尻正人さんは、農林水産省 平成27年度 食品ロス削減等総合対策事業のフードバンク事業推進検討委員会の委員となり、安来市内で、食べ物を必要とする組織や個人へと食品を繋ぐ取り組みに携わった。栃木県那須高原のパン・アキモトは、賞味期限3年間のパンの缶詰を、賞味期限残り1年となった時点で回収し、食料に困っている国に届ける救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクトを2009年から継続している。やり方はそれぞれ違うが、せっかく作ったパンを無駄にしたくない思いは皆同じである。

坂巻さんは、パンを作るとき、「小麦粉1kg」など、原材料から揃えるのではなく、製造個数を考えて、そこから原材料を1グラム単位で割り出す方法をとっています。これにより、原材料を余らせることなく使い切ることができるそうだ。

かつて、おからを豆腐屋から引き取り処理していた業者が、行政側から「おからは食料ではなく産業廃棄物なので、無許可で集めて処理した」として告発され、裁判で争った結果、有罪判決が下され、この業者は罰金40万円を課せられたという(最高裁判所 第二小法廷 平成11年3月10日)。

あずきを使ったつぶあんをテーマにした映画『あん』では、樹木希林さん演じる徳江さんが、こんなセリフを言う場面がある。

『いつも、あずきの言葉に耳をすましていました。』

『あずきが見てきた雨の日や、晴れの日を想像することです。』

『旅の話を聴いてあげること。そう、聴くんです。』

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『この世にあるものはすべて言葉を持っていると、私は信じています。』

大豆も、大豆から生まれたおからも、言葉を持っているのかもしれない。

捨てられる運命にある「おから」を活かしたおからケーキの「Ocalan(オカラン)」、2017年5月13日(土)からインターネットショップBASEで本格的に販売が始まるとのこと。3年かけて生まれたOcalanの成長を、これから見ていきたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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