Yahoo!ニュース

リドリー・スコットの息子の監督デビューはホロ苦い結果に…。巨匠の二世、それぞれの明暗

斉藤博昭映画ジャーナリスト
お父さんのリドリーは78歳で衰え知らず! 現在の妻ジャンニオ・ファシオと(写真:REX FEATURES/アフロ)

某二世タレントの逮捕劇は日本のマスコミを騒然とさせたばかりだが、日本のみならず、海外のショービジネスでも「二世」としてデビューし、活躍している人は多い。遺伝子レベルで才能を受け継ぐ人、「親の七光り」をメリットとしてうまく使う人、親の名声が重荷になってしまう人……など、運命はさまざま。

人工知能のスリラーと、期待を高める題材

そんな気になる才能の作品が、先週末、全米で公開された。あのリドリー・スコットの息子、ルーク・スコット監督の初の長編作『Morgan(原題)』である。

タイトルの「モーガン」は科学者が発明した人口生命体の名前。そのモーガンが暴走するというストーリー。未製作だが優秀な脚本のリスト「ブラックリスト」の2014年版に選ばれた脚本だけあって期待度は十分だ。昨年、アカデミー賞も受賞(視覚効果賞)した『エクス・マキナ』も連想させるし、ここ数年、『her/世界でひとつの彼女』など人工知能が出てくる映画は、ちょっとしたブーム。それを『ブレードランナー』『エイリアン』のリドリーの息子が満を持して撮ることになったのだ。

リドリー・スコットはプロデューサーとして息子のデビュー作を後押し。自身の会社、スコット・フリーが製作を手がけている。予告編でも、父の才能を受け継いだかのようにスリリングな仕上がりを予感させていたが……。

いざフタを開ければ、全米2020スクリーンで公開されたが、オープニングのランクは、まさかの17位。週末で196万ドルという数字は、2000館以上で公開された映画としてワースト7位という不名誉な記録。製作費が800万ドルと少なめとはいえ、期待ハズレとなった感は否めない。

筆者は未見だが、映画評価サイト「Cinema Score」によると「C+」という厳しい評価。その他のレビューでも

映像はうまくデザインされているが、ストーリーは核を欠いており、成功していない。

出典:Empire

最後の一押しに決め手がないものの、SFスリラーとして知的さと鋭さはある。

出典:Hollywood Reporter

全体には低調で、なんともホロ苦いデビュー作となってしまった。リドリー・スコットといえば、娘婿のカール・リンシュが2012年に『47 RONIN』で長編監督デビュー。キアヌ・リーブスに、真田広之、柴崎コウらが共演し、忠臣蔵をモデルにした同作が「残念」な結果になったことは、あえて書くまでもないだろう。『オデッセイ』が大ヒットをとばし、「エイリアン」シリーズの最新作を製作中など自身は元気いっぱいのリドリーだが、跡継ぎたちは苦闘中である。

明暗を分ける巨匠たちの息子/孫

その他にも今年は巨匠の「二世」「三世」が、同じ監督業ではないにせよ、ハリウッドの話題になっている。クリント・イーストウッドの息子、スコット・イーストウッドが出演した『スーサイド・スクワッド』は大ヒット中。この夏、スコットは『パシフィック・リム』の続編で主役を演じるニュースも流れ、二世俳優として大躍進の予感。いっぽう、ジョン・ヒューストンの孫、ジャック・ヒューストンが、あの『ベン・ハー』のリメイク版で主演を務めたが、こちらはガッカリな成績に終わってしまった。巨匠の後継者たちも一喜一憂の運命である。

では、有名監督の子どもたちで、同じ監督になった成功例といえば、誰か?

筆頭に挙げられるのは

ソフィア・コッポラ

もはや「フランシス・フォード・コッポラの娘」という形容詞が要らないほど、映画監督として確立した地位を手に入れているソフィア。幼少期からすぐれた才能に囲まれて育った彼女は、その才能を吸収して成長。女優も経験したが、『ロスト・イン・トランスレーション』でアカデミー賞脚本賞を受賞したのが33歳。以降も「親の七光り」に無縁の活躍を続け、ポップカルチャーを牽引する存在にもなった。兄のロマン・コッポラ、姪のジア・コッポラも監督である(フランシス・フォード・コッポラは来日時、孫娘ジアの才能をベタ誉めしてました)。

ジェイソン・ライトマン

父は『ゴーストバスターズ』などのアイヴァン・ライトマン。基本、エンタメ系の父と違い、息子のジェイソンは『JUNO/ジュノ』、『マイレージ、マイライフ』で2度のアカデミー賞監督賞候補になるなど、作家性が強い。監督としては、お父さんの才能を超えているのでは?

ブランドン・クローネンバーグ

カナダを代表する鬼才、デヴィッド・クローネンバーグ監督(『ザ・フライ』『戦慄の絆』『イースタン・プロミス』)の息子、ブランドンは、『アンチヴァイラル』で、父親の作風である「怪しく、グロく、変態」を受け継ぎつつ、おしゃれで洗練された映像美の才能を発揮。「二世監督」の見本として、次回作を準備中である。

ダンカン・ジョーンズ

映画監督ではないが、デヴィッド・ボウイの息子。『月に囚われた男』、『ミッション:8ミニッツ』は独自の映像表現が感じられたが、ハリウッド超大作に進出した今年の『ウォークラフト』は賛否両論。今後の監督作に期待。

日本映画に目を向けると、深作欣二の息子、深作健太(『バトル・ロワイヤルII【鎮魂歌】』、『ケンとメリー 雨あがりの夜空に』など)や、宮崎駿の息子、宮崎吾朗(『ゲド戦記』、『コクリコ坂から』)が二世監督として知られる。

リドリー・スコットの息子、ルークも、偉大すぎる父の存在が重荷になっているかもしれないが、今後も作品を撮り続け、その重荷を克服できる日が訪れることを祈りたい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

斉藤博昭の最近の記事