アルガルベカップ総括
【チームは進化しているのか】
3月5日から3月12日にかけて、ポルトガルでアルガルベカップ2014が開催され、今大会がなでしこジャパンの2014年初陣となった。
この大会は、世界中から招待された12の強豪国が集い、女子サッカーにおいてはワールドカップ・オリンピックに次ぐ規模の大会と言われており、70を超える国と地域で放映されるなど注目度も抜群。日本にとっても強化に欠かせない大会の一つだ。
日本は2011年に初出場して3位、W杯優勝後の2012年は準優勝と結果を残したが、前回2013年大会では若手中心のメンバーで臨み、大会を通じて2勝2敗の5位という結果に終わっていた。結果的に、若い選手に経験を積ませることと新戦力の見極めに終わってしまい、”強いなでしこジャパン”を見ることはできなかった。やはり、日本代表は常にその時の最強メンバーで勝ちに行ってほしいと痛感した。若い選手の育成や発掘のために経験を積ませることも重要だが、常々選手達が「代表に指定席はない」と言うように、代表の舞台に立つ競争とは生易しいものではないはずだ。
ロンドンオリンピック後の2013年から佐々木監督は若手を積極的に招集し、チームの新陳代謝、世代交代の可能性を探ってきた。ロンドン五輪時の主力を脅かす存在が次々と出て来ている理想的な状況とは言えないかもしれないが、2011年W杯優勝当時のメンバーはそれぞれに進化を続けている。大儀見優季(チェルシー)、岩渕真奈(ホッフェンハイム)、熊谷紗希(リヨン)らは海外挑戦によって対人の強さやフィジカルの強化、舞台度胸など精神面でも大きく成長した。2014年シーズンは川澄奈穂美(神戸⇒シアトル/半年間のレンタル移籍)、近賀ゆかり(アーセナル)、大野忍(アーセナル)のベテラン3人もさらに質の高いプレーを目指して海外で挑戦することになっている。
5月に行われるW杯予選(女子アジアカップ 5月14日~5月25日@ベトナム)と来年に控えたW杯本番を見据え、国際大会や親善試合は必然的にそのメンバー選考の場となる。今大会で招集されたのは、ドイツW杯優勝時の中心メンバーを軸とした23人だった。
以下、今大会の4試合を簡潔に振り返ってみたい。なでしこジャパン(FIFA女子ランキング3位)はアメリカ(同1位)、スウェーデン(同6位)、デンマーク(同13位)と同じグループに入った。
【GL第1戦】対アメリカ戦 △1−1(宮間)
アメリカ戦は、女王アメリカに押し込まれる時間帯も多かったが、日本が主導権を握る時間帯もあり、交代した選手が持ち味を見せるなど、お互いに持ち味を出し合う緊張感溢れる展開に。そんな中、ミスからまさかの失点を喫したが、終盤に宮間の芸術的なFKで同点に追いつき、なでしこらしい「粘り」を見せた。
【GL第2戦】対デンマーク戦 ◯1−0(岩渕)
デンマーク戦では、アメリカ戦から8人を入れ替えて臨んだ。テンポの良いパス回しを意識して何度か形を作ったが、ピンチも少なくはなかった。岩渕がペナルティエリア外から仕掛けて個人技で豪快に決めたゴールが決勝点となった。
【GL第3戦】対スウェーデン戦 ◯2−1(大儀見、宮間)
アメリカを1−0で下すジャイアントキリングでグループ1位となったスウェーデンとの一戦は、決勝進出を決める大一番に。
ベストメンバーで臨んだ日本が主導権を握って試合を優勢にすすめる中、セットプレーから先制されたものの、後半に相手のミスを見逃さず大儀見が決めて試合を振り出しに。終盤にはPKを獲得し、宮間が落ち着いて決めて見事な逆転勝利。
【決勝戦】対ドイツ戦 0−3
完敗だった。ベストメンバーで臨んだ前半は日本が主導権を握る時間もあり、先制かと思われる場面もあったが判定はノーゴール。ドイツ相手に上々の戦いぶりを見せて後半に期待をもたせたが、しかし…。後半、メンバーを2人交代し(澤→岩渕/有吉→近賀)全体のポジションを入れ替えるなど手を加えて臨んだところ、後半1分、4分、17分と立て続けに失点を喫し万事休す。相手のカウンターの防御壁であり、攻撃時には中盤の中継役にもなれる澤のポジションがぽっかりと空いたところが狙われてしまった印象だった。
【総括】
4試合を通じて、ポジティブな面では、良い流れを引き寄せている時間帯の日本のリズム・連携は格上のドイツにも十分通じることを実感できた。ただ、ドイツは4年前から進めてきた世代交代が形になってきており、さらなる進化を遂げそうだ。ドイツやスウェーデンにフィジカルで劣る日本にとっては、生命線とも言える連携の質にさらにこだわっていかなければならない。
気になった点としては、主導権を握る時間帯も多かった中、流れからのゴールが第2戦の岩渕の個人技による1点だけしかなかったのは課題といえるだろう。また、昨年から一つのテーマとしている「縦への速い攻撃」は今大会でも随所に見られたが、攻め急ぎすぎてパスミスになり、逆にカウンターを受けるシーンも目立った。ベースであるテンポの良いパス回しがあってこそ、縦への攻撃も生きてくるはずだ。
また、交代によって流れを引き寄せるはずが、逆に流れを失ってしまうことが多かったのも残念だ。象徴的だったのはドイツ戦。前半、ドイツの攻撃をいなして良い流れを作ったが、後半、交代した選手が入り、各自のポジションを入れ替えてしっくりきていない間にあれよあれよと3失点してしまった。サッカーには「勝利しているチームはいじるな(変えるな)」という格言があるが、良い流れを変える必要もなかったのではないだろうか。交代の意図には疑問も残る。ドイツ戦は特に、チームとして個人の武器を生かしきれていないもどかしさを感じた。
個人についての印象では、宇津木瑠美のフィジカルや左足のフィードやスルーパスは今後更なる武器となる可能性を感じさせてくれた。岩渕真奈はその小柄な体格をハンデとせず、低い重心を利用して相手の寄せにも動じることのないドリブルの迫力にはドイツでの成長の跡が見られた。
また、今大会で重要な試合を任されたGK山根恵里奈は、結果的にドイツ戦では3失点を喫したが、いくつかのミスを補ってあまりある可能性も感じた。どんなクロスにも対応できる高さ、ハーフラインをゆうに越えるキックなど、抜群の身体能力にさらなる武器が加われば頼もしいことこの上ない。福元美穂・海堀あゆみという2人の経験豊かな先輩に学び、今後の成長に期待したい。
ベテラン勢についてもぜひ触れておきたい。サイドで幾度となくチャンスを演出した川澄は、全ての試合を通じて相手にとって脅威だった。今年は半年間のレンタルでアメリカのシアトルを新天地に選んだが、各国代表のキープレイヤーが揃うサイドで勝負することとなる。その進化から目が離せない。
代表192試合目となった澤穂希は、このチームに必要な存在であることを改めて証明した。ロンドン五輪以降は守備的ボランチの役割を担うことが多かったが、今大会では積極的にゴールを狙いに行く姿勢が見えた。それもしっかりとリスクマネジメントをした上で、だ。また、守備においては常に危険なところをカバーしていた。ピッチに立っているだけでチームが引き締まるという意味でも、その存在感は絶大だった。
チームに健全な競争をもたらす新戦力の台頭はもちろん望ましいが、現状、世代交代を急ぐ必要はないと考える。焦ってメンバーチェンジを図るよりも、若いなでしこ達は、より高い場所を目指しているベテランと同じピッチに立つことで学ぶことのほうがはるかに多いのではないだろうか。
今大会で得た課題を見直し、5月に向けて完成度を高めていってほしいと思う。5月のW杯予選は、進化したチームが見られることを期待したい。