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日本でお花見がしたい中国人の「爆増」で、中国の旅行会社は「お花見特需」

中島恵ジャーナリスト
お花見は中国のSNSでもいちばん人気(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 今年もまた桜の季節が巡ってきた。

 桜といえば日本人。日本人といえば桜――。桜は日本を象徴する代表的な存在だけに、この時期に「日本でお花見がしたい」と熱望する中国人は非常に多い。

「爆買い」ブームが去ったあと、中国人は買い物よりもグルメ、グルメだけでなく体験も、と旅行の内容はどんどん変化してきているが、お花見に関しても同様だ。

 東京でいえば、上野公園よりも目黒川沿い、目黒川沿いよりも六本木のさくら坂、というふうに、日本人とほぼ同じような情報収集力で、日本で自分なりのお花見スポットを見つけ出し、そこで写真を撮るほどに“深化”している。

 そんな中国人の「お花見熱」に注目し、中国国内の旅行会社では軒並み「お花見ツアー」を実施中だ。中国の主要な旅行サイトで「賞花」(お花見)について検索してみると、さまざまなツアーがズラリと並ぶ。

 たとえば大手旅行会社のサイトを見ると、3月末~4月上旬の上海発大阪行きのお花見ツアーは5日間で約3200元(約5万1000円)。同じく上海発で、大阪、京都、箱根などを巡る6日間のお花見ツアーは6999元(約11万2000円)。「お花見シーズン」に顧客が殺到するため、通常よりも1000元(約1万6000円)以上、価格が高騰するようになってきており、中には日本円で12~15万円ほどするツアーもある。

 その中には「大阪城の夜桜を見物」や、「京都の清水寺でお花見」のような説明もある。すでに時期は過ぎたが、静岡県の河津桜も「早めにお花見ができる」と中国人の間で知名度がアップしている。

 上海在住で旅行会社に勤務する筆者の知人も「日本でお花見をしたいという中国人はとにかく多いんです。とくに初めての人は1月頃から日本の天気予報を頻繁に見て、桜の開花予想と自分のスケジュールを調整していました。中国では4月上旬(4月5~7日)に連休があるため、そこと桜の開花がマッチすればいちばんいいと思っていたようです。日程のうちの半分は団体行動で、残りの半分は個人行動という、多少の自由時間が含まれるツアーが人気。桜の木の下で十分撮影する時間が欲しいからでしょうね」といって苦笑する。

 しかし、今年の東京の開花予想日は3月21日だ。ここ数日のポカポカ陽気で、開花は早まるとも予想されており、もし4月上旬のツアーならば、最大の目的であるお花見に間に合わない可能性が大きい。それでも、この時期を目指し「お花見特需」でツアー代金が高騰するというのだから、すごいことだ。

中国人のお花見熱は世界中に

 筆者が知るかぎり、少なくとも、「爆買い」が騒がれた3年前には、このような現象はなかった。日本でのお花見自体はもっと以前から人気があったものの「お花見ツアー」というパッケージがここまで定番商品となり、人気を博するまでではなかった。それだけ、中国人の「モノ消費」や旅行の成熟度は、“爆速”で進んでいるといっていいだろう。

 ところで、中国人の「お花見熱」は日本だけにとどまらない。同じ旅行会社の知人によると、この1~2年はオランダのチューリップ、フランスのラベンダー、アメリカ・ワシントンの桜並木などにまで足を伸ばしているというから驚きだ。日本に住む在日中国人の人口は70万人を超え、彼らを通して中国国内の友人や親戚にSNSで生の「桜前線」情報がもたらされるが、欧米など諸外国に住む中国人からもたらされる情報も「お花見熱」に拍車をかけている。

 さらに、中国国内でも「お花見」は立派な旅の目的となっている。2月~3月は菜の花や桜、ほかに桃や杏、梅なども人気だという。コンクリートだらけの都会に住む中国人にとってはお花見が「癒し」にもなっているようだ。

 中国にも桜の名所は何か所かあり、旅行会社のサイトを見ると上海発着で「北京の玉淵潭公園でお花見」という国内ツアーもある。中国各地の公園などで桜の植樹活動も活発になっており、いつか、スケールだけを見れば、中国でのお花見のほうが日本よりも盛んになる日がくる可能性もある。

 だが、やはり、日本人としては「日本で見る桜は格別に美しい」と、いつまでも彼らに思ってほしい。そう思いつつ、今年も桜の季節を迎えている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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