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あっという間に、ビットコインで3500万円を超える被害に。もう止まらない!投資系国際ロマンス詐欺。

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:IngramPublishing/イメージマート)

40代女性は、マッチングアプリで出会った外国人の異性から恋愛感情を抱かせられたうえで、投資できるというサイトを紹介されて、お金を出してしまい3500万円以上を失いました。国際ロマンス詐欺による被害です。

「今、7000万円以上のお金がサイトにあるのですが」

そう言って、彼女はスマートフォンの画面を見せてきます。

確かに、サイト上には70万ドル以上が表示されています。

   (実際の投資したサイトの金額画面 被害者からの情報提供)
   (実際の投資したサイトの金額画面 被害者からの情報提供)

「お金は引き出せないのですか?」

そう尋ねると、彼女は手慣れた感じで出金の手続きをします。すると、このサイトのカスタマーセンターから、出金の手続き方法が書かれたメッセージが送られてきます。

それを見せてもらい、私は「なるほど」と、ため息をもらしました。

確かに、これでは出金を諦めざるをえないからです。

彼女は被害に気づいたその足で警察にも行きましたが、被害届はすぐには受理されず、担当の警察官からは「君で4件目だ。前の人は4000万円ほどだったよ」と言われています。どれほど、この国際ロマンス詐欺の被害が広がっているのでしょうか。

ことの発端は、新型コロナウイルス蔓延の影響から

彼女は飲食店経営者です。コロナ禍もあり、売り上げも減り、人と出会う機会も減ってきたため、11月中旬に初めてマッチングアプリに登録しました。

「結婚相手というよりも、話し相手をもとめて登録しました」と、彼女は話します。

そこで知り合ったのは、30代の中華系のマレーシア人の男性。彼はウェブデザイナーや投資をしているといいます。

「彼は片言の日本語しかできず、返事も翻訳されたような、つたない文章でしたが、いつも誠意をもって、返答してくれました。私のつらい事情を話しても『一緒に乗り越えようよ』と言ってくれました」

彼女はネットの出会いが初めてということもあり、相手のことを怪しみましたが、こちらが日頃の不満を口にしても、真剣に耳を傾けて、アドバイスをくれる彼の心遣いに、しだいに心惹かれていきます。

彼女の心が変わったという、4日間のメッセージを見せてもらいましたが、1日、100通以上はやりとりしており、すごい数です。

ザイアンスの法則ともいいますが、接触回数を多くすることで、男は彼女からの愛情と信頼を勝ちとったのです。

相手に「好意」を持つようになれば、お金を出すのにも、自然と抵抗がなくなります。

一週間ほどして、彼は「仮想通貨の投資をしている」ことを話し出します。そして「日本であなたと一緒に住みたい」「たくさん儲けて、日本に家を買おうよ」と夢を語りだし「君にも、投資の知識を教えるので、一緒にやらないか」と誘ってきたのです。

当時、お店も新型コロナウイルスの影響で、売り上げは減り、その事情を十分に分かったうえでの投資の提案でしょう。彼女も資産を増やすのも良いかと思わせられてしまいます。

ここで紹介されたのは、カーレースのサイトでした。カジノサイトなのですが、ギャンブルに詳しくない彼女は、彼の言葉を信じて投資でお金を増やせるところだと思いました。

           (カーレースサイト 被害者からの情報提供)
           (カーレースサイト 被害者からの情報提供)

すぐには投資させない、巧妙な手口。

男はすぐに彼女にお金を出させようとはしませんでした。この辺りも巧みです。

「まず、僕のID、パスワードを使って試しにやってみてほしい」

彼女がログインすると、そこには、5万4千ドル(約540万円)がありました。

多額のお金を持っている状況をみせるのも手です。

彼は、サイトをキャプチャーした画面を送り、「このボタンを押せば、投資できる」と、色ペンで矢印を書き、手取り足取り、お金のかけ方を教えます。

彼の指示に従ってお金をかけると、初めの2回は負けましたが、3回目に勝ちます。すると、その日は6万5千ドル(約650万円)にお金が増えました。

こうして儲かる状況をみせられたうえで、彼女は仮想通貨の口座を開設させられます。

11月末に、100万円分を約15イーサリアムに換金してサイトへ入金して、レースを行うと日本円で10万円以上増えました。

すると彼からは、「出金してもよい」と言われます。

最近の手口はかなり巧妙になってきていて、いったんお金を本人の手に戻させて信用させてきます。彼の指示に従って出金の手続きをすると口座にお金が戻り、114万円になったそうです。

男は「将来のためにもっと稼ごうよ。5万ドル(約500万円)入れてくれれば、7千ドル稼げる」

しかし、それだけの金額を入れるのに抵抗があった彼女は正直に「リスクがゼロではないし」と躊躇します。すると、男はごり押しをせず、彼女の気持ちに寄り添います。

「そうだよね。では、儲けた10万円で始めれば?」

「それなら。リスクはないね」

彼女は10万円分(約1.5イーサリアム)をサイトに入金します。すると、またお金が増えて、銀行へ戻すと11万5千円になりました。

こうして、いつでも出金できるサイトだと、彼女は信じ込んでしまったのです。

数日後、300万円をイーサリアムで入金すると、その日は、一気に50万円ほど増えます。5日後にも400万円を入金して、ここでも約16万円が増えます。

順調にお金が増えていくなかで、彼は「ビットコインにして、もっと大きく稼ごう」と提案をします。この頃、ビットコインの価格は上がっていました。この事情もうまく利用してのことでしょう。

イーサリアムからビットコインへ誘導の罠

もうこうなると、ノンストップ!です。

翌日には、1000万円分をビットコインでサイトに入金。その5日後にも、同額を入れます。さらに一週間後には700万円、300万円と繰り返してお金を入れてしまい、ついに合計3500万円を超えてしまいました。

イーサリアムから、ビットコインに入金方法を変えて、だましとる金額を釣り上げてきたのです。

後にも述べますが、ここには新型コロナを利用した巧みな心理誘導がありました。

なぜ、彼女はだまされたことに気が付いたのでしょうか。

トータル金額が7000万円以上になったので、彼女はお金を出そうと思います。そこで、サイトに出金依頼をしました。

すると、サイトのカスタマーセンターから連絡がきました。

「日本のユーザーの方は、利益が1万ドル以上の場合、法律に基づいて投資利益の30%の投資税を払う必要があります」

彼女が「私は、幾らでしょうか?」と尋ねると「あなたは、利益が35万ドルですので、その30%、10万ドルを仮想通貨で支払う必要があります」

つまり、1000万円ほどを追加で払わなければならないのです。

すでに彼女は貯金を使い果たしており、お金を工面するために、元カレに連絡を取りました。

「500万円貸してほしい」

そこでお金が必要な理由を尋ねられて、このサイトのことを話すと「それは詐欺だ」と指摘されて、彼女は我に返ったそうです。

目の前にお金があることを見せながら、繰り返し手数料名目で金を無心する。これは典型的なギャンブル系詐欺の手口です。

もし相手の指示通りに、1000万円を払っても、お金は受け取れません。もっと「税金が足りない」と言われて請求され続けるだけです。

詐欺師は外国からの入国制限を利用してきた!

これだけのお金を彼女が払ってしまった理由には、コロナ禍を利用されたこともありました。

12月初め、彼は「日本に到着したよ。すぐにあなたに会いたい!」というメッセージを送ってきています。

しかし「新型コロナの影響で、外国からの入国制限があって、会えない。先ほどPCR検査を受けて、2週間のホテルでの待機を余儀なくさせられている」と言うのです。

この期間も頻繁にメッセージは届きます。

「ホテルに隔離されている」

「(マレーシアと違って)日本の寒さを肌で感じています」

「ああ、早くあなたに会いたいのに」

近くにいながら会えないといった文面を送り続けて、彼女の心を揺さぶってきました。

この入国制限期間を口実にされて、彼女は2週間で、3500万円以上のお金を出させられてしまったのです。

新型コロナウイルスの蔓延が続く限り、外国からの入国禁止や制限は続くでしょうから、詐欺師の外国人が「君に会いたいけど、会えない」と嘘をついて、お金を取り続けることでしょう。

バーチャルだったものが、もう少しで現実になる、あと少しで手に届くかもしれない。

「まもなく、彼に会える」「もうちょっとで、お金が手に入る」

そう思わせながら、詐欺師はお金を取り続けます。これが最近の投資系国際ロマンス詐欺の手口なのです。

今日、誰かとネットで出会ったあなた、「その人は本物ですか?」

もう一度、考え直してみてください。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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