信じられない地裁高裁の判決 テイクを重ねたような旧統一教会が提出した不起訴合意の念書のビデオに驚く
6月14日、立憲民主党による旧統一教会問題のヒアリングが行われました。
中野容子さん(仮名・60代女性)のお母さんが信者時代に1億円以上の献金をしていたことが2015年に発覚して、2017年に提訴しました。しかし母親が教団側に「返還請求や損害賠償請求などを一切行わない」との念書を書かされていたために、それが有効とされて地裁、高裁で敗訴となっています。しかし中野さんはこれを不服として最高裁に上告して、6月10日に弁論が開かれました。教団の勝訴判決は見直される可能性が出てきています。
立憲民主党の西村智奈美議員は冒頭で、昨年末に成立した特定不法行為等被害者特例法に触れて「旧統一教会が指定宗教法人に指定をされて、四半期ごとの財産書類などの提出が義務付けられていいます。6月7日に提出をされているということです。私どもとしては、特別指定宗教法人に今すぐ指定できるのではないかと考えておりますが、まずは財産書類が出てきたことで、今後この分析を待ちたい」と話します。
最高裁には、これまでの判決を破棄して、念書無効の判断をしてほしい
中野容子さんは、今回の弁論について「最高裁の弁論に至るまでの背景を考えると(旧統一教会問題を)メディアに報じてもらい、社会がこの問題について共有できたこと。政治が素早く対応してこの問題に取り組み、それが解散命令請求という形になったと考えています。悪質で組織的で、長く続いてきた継続性があるという統一教会問題のなかで、母の事件の焦点である念書の問題が位置づけられたのだと思います」「最高裁にはこれまでの判決を破棄して、念書無効の判断をしてほしい」と訴えます。
「本当に信じられない判決だった」と真情を吐露
木村壮弁護士は、これまでの地裁、高裁の判断について「本当に信じられない判決だった」といいます。
「地裁も高裁も統一教会の問題についての知識がなく、問題を非常に軽視していました。私たちは数多くの(教団の)問題が起きている証拠を出して、被害を語れる証人の申請もしましたが、採用されることはありませんでした。今までどういう被害があったかに目を向けることなく『被害者のお母さんが話できないからよくわからない。じゃあ、請求棄却です』というような判決を出したとしか思えません」
「念書は不当な目的、つまり損害賠償請求を免れようという目的で作らせている。しかも判断能力が衰えた86歳の高齢の女性に対して作らせていることからすれば、どう考えても公序良俗違反で、有効なものとは考えられないわけです。しかし(裁判所は)不当な目的があったとまでは認定できない。本人の十分な判断能力のもとで、念書に署名しているから問題ないと。先ほどのビデオについても「特段、不自然な点はない」といっているんです。本当に信じられないんです」と話して「何のために念書を取っているかといえば、不法行為に基づく損害賠償請求を受けたくないからです」そういう点に目を向けてこなかった判決を、最高裁が改めてくれることに木村弁護士は期待しています。
不自然さを覚えるやりとりのビデオ
中野さんのお母さんが念書を書かされた際に撮られた短いビデオがヒアリングで流されました。
教団の婦人部長が「何歳になられましたか」と中野さんのお母さんに問いかけて「86歳です」と答えます。
さらに「今日、公証人役場で念書の認証と陳述書についての確定日付の手続きをしてもらえたということですね」と尋ねられると間髪入れずに「はい」と答えます。
実に、不自然さを覚えるやりとりです。
もし私が相手からこのような質問をされれば、聞きなれない「認証」の言葉もあり、頭のなかでそれが何を意味しているのかを考えて質問に答えるところです。しかし86歳である高齢女性は間髪入れずに「はい」と答えています。このやりとりを見て、自分の頭で考えて、納得した頷きとはとても思えません。
テイクを重ねたような「質問」と「はい」の頷き
さらに次のやりとりを見てその確信を深めました。
「この2つの書類はどちらもご自身の認識に一致するということで手続きしてもらえたのですか」と問われて、相手の質問が完全に終わらないうちに、中野さんのお母さんは「はい」という言葉をかぶせています。早くこのようなやりとりは終わらせたいという思いすら伝わってきます。
このビデオを見て思うことは、何度かテイクを重ねて、良いシーンを採ったのではないかという疑念です。お母さんは婦人部長の目も見ずにただ「はい」とだけ答えており、自分の頭でしっかりと質問を咀嚼して、答えていないことはよくわかります。教団に頷かされている感じがありありと出ている映像で、台本通りに撮影が進み、頷かされているようにしか思えてならないのです。こうした念書のビデオにも驚かされましたが、これを見た裁判所が、「不自然なところがない」として、念書を有効とした判決を出したことにも驚くばかりです。
「献金が信仰に基づき任意になされたことを示す契約書を残す」の内部資料
阿部克臣弁護士は「7月11日の最高裁判決は、念書について一定の判断を示すことが期待されます。念書が無効となれば今後の被害者救済に大きな道を開いてくれると思います。合意書や念書、誓約書などを統一教会から作らせられた方は、知っている限りでも数十件はあると思います。これは各教会や信者個人レベルで作らせているものではなく、明らかに裁判をされたくないという目的のもとで、組織的に行われているものです」と指摘します。
それを示すものとして、2012年に地区のトップの責任者を呼んで行った会議(JK会議)における、教団の内部資料をあげます。
「ここには『JK会議で確認された事項でありますから、これを踏まえて、法務部長各位も取り組んでいただけますようにお願いします』とあり、『今後の歩みでコンプライアンス、クレイム対策(原文のまま)で特に重点とすべきこととして以下のことを確認した』のAには『功労者、高齢者食口に対して、信仰の証となるような文書を残す。献金が信仰に基づき任意になされたことを示す契約書を残す。その徹底化を』とあります」
功労者とは、高額献金をした人で、高齢者食口というのは高齢の信者のことです。
「その下のEには『地方担当制度強化。それにより事前のクレイム解決、裁判を防ぐ』と書いてあります。明らかに裁判を起こされないために、組織としてやってきたことがはっきりしてますから、弁護士に相談に行くことを諦めている方や(念書があり)難しいと言われた人たちに対して、最高裁の判決で念書無効の判断を示すことによって救済の道を開いてもらえれば良いと考えています」(阿部弁護士)
中野さんのお母さんの地域は、過劣な献金集め、高額献金がされていたのか
この資料を入手した、ジャーナリストの鈴木エイト氏からも補足、説明がありました。
「阿部先生の方で出して頂いたものは、2012年に統一教会の教団関係者から入手したものです。コンプライアンスクレイム対策で行われた地区長会議でのものになります。別の資料で2011年11月に全国責任者会議が行われて、当時の会長が、ある中部地方の地区を出して『悔しかったらその地区を超えろ』という発破をかけています。全国での献金の実績を競わせている文書なんですけれども、そこがまさに中野さんのお母さんが被害にあった地区なんです。献金実績の高いところに(韓鶴子)総裁を呼ぶということをやっていまして。まさにその時期が、ちょうど中野さんのお母さんが高額な献金被害にあっていた時期なので、かなりの過劣な献金集め、高額献金がなされていたことがうかがえます」
同党の山井和則議員から、今後の最高裁の判決の見通しについての質問がありました。
木村弁護士はあくまでも予想のレベルとしながらも、次のように話します。
「見通しは難しいですが、一審二審を破棄して差し戻すのではないかと思っています。一方で最高裁が、これまでの組織的活動をきちんと見た上で、念書を作ること自体が不当な目的であるとか、献金の違法性を推認させるというところについて踏み込んだ判断を示した場合には、念書を作らせたということが不当な目的や違法性を推認させることになりますので、事実上教団の悪質性について認定したような判断になる可能性もあります」
刻々と判決の時は近づく
法律の知識をもたず、しかも認知症の症状により判断能力が衰えている高齢女性に損害賠償請求権を放棄させる行為など、絶対にあってはならないことです。最高裁において「念書が無効」との判断となれば、内部資料や広く念書がとられていた実態を踏まえれば、法令遵守とは真逆の教団側の行為が明らかになる結果をもたらすことになるのではないかと思います。
被害者家族の橋田達夫さんも「中野さんの勝訴を願っております。そして解散命令を早く一日も早く出してほしいと本当に毎日願っています」と話します。最高裁の判決が、現在の解散命令請求裁判に与える影響は極めて大きいと考えています。7月11日まであと3週間ほど。刻々と判決の時は近づいています。