海外に住む日本人、現地で悪質勧誘の被害に遭った時には「188」には相談できません。どうすれば?
悪質商法などの被害に遭った時に、国内に住む人ならば「188(消費者ホットライン)」に相談ができます。しかし、海外に住む日本人が、現地で消費者トラブルに遭った時には、この相談窓口では受け付けてもらえません。どうすればよいのでしょうか?
SNS上の広告からのトラブルが多発
「手に職をつけたい」「副業で稼ぎたい」との思いから、SNS上の広告を見て応募して、金銭的トラブルに巻き込まれるケースが後を絶ちません。国民生活センターには、今年に入り次のような相談が寄せられています。
20代女性は「仕事を紹介する」との広告を見て、業者と連絡を取りました。「文字打ち」の仕事を紹介するにあたって、登録料が必要といわれます。女性は「仕事がしたい」との思いから、30万円を払います。しかしながら業者からは一向に仕事を紹介してもらえません。
若い人の場合、高額なお金がすぐに用意できないため、借金してから仕事を始める傾向がありますが、この女性も「お金がない」ことを業者に相談すると、貸金業者からお金を借りるように勧められて、借金して登録料を工面しています。自分からお金を持ち出さなければならない時には、業者の身元を確認するなどして、慎重に検討する必要があります。
こうした「仕事がある」といって、登録料をだまし取るような手口は昔からありますが、この女性のように日本に住んでいれば「188」に電話をかけて、居住地の消費者センターに相談できます。しかし、海外に住む日本人が、ネット上で国内の業者からの誘いを受けて契約してトラブルに発展するケースもあります。
海外に住む日本人がSNS上の広告から被害に遭うケース
台湾に住む山田さん(仮名・50代女性)は、日本語を現地の人たちに教えたいと思っていました。1年半ほど前、現地の人向けのプラットフォームに「自らの動画紹介を載せて、生徒を募ろう」と考えるなかで、SNSを見ていると「動画編集を10日間、無料で学べる」という広告を目にしました。山田さんはこうした編集は未経験だったため、スキルを身につけたいと思い広告をクリックします。そしてLINEで、動画編集を教えるA社とつながります。するとすぐに、5分ほどの講座の動画が送られてきました。
「講座自体は、面白くできていて、わかりやすくためになるものでした。10日間、毎日送られてきました。この時、無料コースの後には、有料コースがあるという説明はありましたが、値段は知らされていませんでした」(山田さん)
オンライン説明会には世界各地に住む日本人が参加していた
10日間の無料視聴が終わった後に「オンラインでの説明会がありますから、参加してみませんか」とA社のスクールに誘われます。そこで話を聞いてみることにしました。
「説明会には、アメリカや韓国、ヨーロッパなど世界各地に住む何十人もの日本人が参加していて、講師やスクールの運営者が理念や『自分たちがいかに成功してきたか』の話をしていました。そして『(有料コースを)卒業した人たちが、在校中や卒業後に、動画編集の仕事を始めて数ケ月で数十万円を稼いだ方もいる』」ともいっていました」(山田さん)
ただし紹介された有料コースの受講料は100万円と高額でしたので、山田さんは悩みます。
「スクールの人は『3日以内に申し込む人に限り、値引きをします』と80万円を超える額を提示してきました」(山田さん)
100万円が本当の価格なのかはわかりませんが、一気に10万円以上の値引きをする形でお得感を煽り、有料コースに誘おうとする手口の可能性もあります。山田さんは、無料動画の内容が面白かったことや、説明会で「子供たちの未来のためにも、大人がパソコン知識を身に着けることが必要」や「家族も一緒に、動画の講義を受講できる」との話もあり、共に学べて将来の役にたつものなら多少高くても良いと考えて、ウェブ上で申し込みを行います。
無料講座と違って、有料講座の内容はひどかった
週に1回、3時間ほどの講義や勉強会が、ウェブ上で半年間ほど行われます。しかし山田さんは「無料講座と違って、有料講座の内容はひどかった」と話します。
「話していることが難し過ぎて、私のような初心者にはさっぱり理解できませんでした。説明会の時には『未経験でも理解できる内容』といっていましたが、実際には動画編集の経験のある人しかわからないもので、説明時の内容とは大きく食い違っていました」
「普通、未経験者向けに講義を行うなら、動画には未経験者に向けてわかりやすい形で、テロップなどでの説明文を載せますよね。しかしこのスクールの動画にはそれがないので、話がわかりにくい。ただ講義内容を流しているだけでした。動画編集を教えるスクールなのに、ほとんど動画編集がされていないなんて、おかしな話です」と山田さんは指摘します。
「卒業生には、希望者に100%仕事を紹介できている」との説明だったが…
「説明会では『講義を学んだ後、スクールの卒業生には、希望者に100%仕事を紹介できている』『卒業後もながく縁が続きます』ともいっていました。受講生のなかには、こうした言葉を信じて契約を決めたという人もいます」(山田さん)
しかし実際の状況は違っていました。
「卒業した今、わかるのは、私だけでなく周りの人たちもそうですが、ほとんどの方が仕事を紹介されていません。それどころか、あまりに難しい内容で、しかも編集には役にたたないものも多く、スキルが身につかず、途中で受講をやめる人もいました」(山田さん)
山田さんもA社の勉強では得られるものはほとんどなかったといいます。
その後、山田さんは、日本に一時帰国した時に、地元の動画編集スクールの学校に2日間通います。
「費用は15万円でしたが、教え方は本当に良く、とても理解できました。しかも、受講終了後も添削などのアフターフォローもあり、すごく満足のいくものでした。最初からこちらで勉強すればよかった」と後悔します。
説明会の内容と、受講後の実情が大きく乖離していることや、大幅な値引きを行い、必ず仕事があると思わせて、高額な受講契約をさせていたとすれば、かなり問題のある勧誘手法だといえます。
対象外、被害者はどこに相談をすればよいのか?
越境国民生活センター(CCJ)の担当者に話を聞きました。CCJでは海外の事業者とのトラブルに遭った時に、日本の消費者からの相談をメールなどで受け付けています。担当者によると「国内に住む日本人の方が海外事業者とトラブルになった場合の相談を受けつけているので、今回のようなケースの相談は対象外になる」といいます。
では、山田さんのような海外に住む日本人が消費者トラブルに遭った場合、どこに相談すればよいのでしょうか。
「基本的には、お住まいの国の消費生活相談を行っている機関にご相談いただくのが良いかと思います」(CCJ担当者)
現地でトラブルに遭った場合、その国にある、日本における消費者センターのような場所を探して相談をする必要があるようです。しかし現地の言葉をしっかりと話せる人は良いですが、そうでない方の場合は、被害状況を伝えること自体が極めて難しいという課題も残ります。
国内の業者が、海外の日本人を狙うケースは今後、増える恐れも
何より今回のケースでは、国内にあるA社は、海外に住む日本人をターゲットにして、勧誘をしています。
筆者の見解ですが、国内の日本人に対して悪質な勧誘を行えば、その被害状況が消費者センターなどを通じて国に把握されて、行政処分などが出されます。しかし今回のような事例だと、海外の日本人が日本国内で相談できるところがないために、国の側も悪質な勧誘実態が把握できず、業者に対して何らの注意喚起もなされないままに被害が広がる恐れがあります。海外の日本人を狙うケースが今後、増えてくる可能性を危惧しています。
海外の日本人が被害情報を寄せられるような仕組み作りが急務
SNSを通じた広告は、海外に住む日本人にも表示されます。詐欺の手口も今や、国境をまたいで行われていますが、悪質商法も同じです。今後、被害情報を集約して国が把握する仕組みを通じて、悪質な勧誘行為をさせない対策を打つ必要があります。
山田さんは国内の弁護士にも相談しています。こうした対応も必要です。しかし個別の対応だけでは、国の側に悪質業者の実態についての情報があがらず、被害は増え続けることにもなりかねません。
「かなりの数の海外に住む日本人が説明会に参加しています。受講料も高額でしたので、相当な被害額になっているかもしれません」と山田さんは懸念を口にします。
消費者問題はSNSでの広告を通じて、国境を越えた新たなステージに入ってきています。