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ガンバ大阪のポヤトス、FC東京のアルベルはなぜ勝ち切れないのか?監督の肖像

小宮良之スポーツライター・小説家
FC東京戦で采配を振るポヤトス(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「悪い監督ではないし、悪い指導でもないのに…」

 そうした枕詞がつく監督がいる。話は論理的で、指導は筋が通っているのだが、結果は出ない。そんなところだろうか。

 では、もう少し待ったら良い結果は出るのか。

 一概に言えるものではない。しかし勝てない状態が半年も続いていたら、強く疑うべきだろう。勝てないだけの理由は必ずある。

 例えば育成年代の指導者だったら、勝てないことは致命的ではない。指導を受けた選手が技量を身に付け、才能の殻を破る。結果以上に大事なものがあるだろう。

 しかしながら、プロの世界では勝負を捨てることはできない。

ポヤトスやアルベルのハンデ

 昨今はJリーグでも、アルベル・プッチ(FC東京)、ダニエル・ポヤトス(ガンバ大阪)、ベニャト・ラバイン(徳島ヴォルティス)など、母国でユース年代しか監督経験のない外国人指導者がトップチームの指揮を任されている。これは、ちょっとした驚きである。彼らはたしかに知見を持っているし、とても論理的で、選手との対話もできる。会見ではそれっぽい解説ができるし、戦術トレーニングの精度だって低くはない。

 ただ、彼らは致命的なハンデを背負っている。

 まず、言葉の壁がある。コミュニケーションに最低4倍以上の労力がかかるし、本質がしばしば抜け落ちる。基本的なモラルも違い、簡単に伝わることが伝わらないジレンマも抱える。次に情報の圧倒的な不足がある。例えば日本人が東南アジアのクラブを率いても同じことが起こるもので、味方の一人一人を把握し、背景を理解し、さらに敵を知るのは簡単ではない。

 そこに、プロの世界で成年選手を率いたことがないハンデが、猛烈に追い打ちをかけて来るのだ。

外国人監督に経験を積ませる意味はあるのか?

 プロと育成年代とは、重圧がまるで違う。タイトルを失う、というのもそうだが、もし降格した場合、あるいは昇格できなかった場合、多くの選手が解雇されたり、スタッフの給料が大幅に減らされたり、あるいはスポンサーの撤退によってクラブレベルで深刻な打撃をこうむることになる。

「悪いサッカーではない。時間が必要だ」

 負けが込んだ彼らは、そう言い始める。それは一つ道理だろう。論理的なアプローチだけにうまくはまって数試合、好調が続くかもしれない。ただ、シーズンの中でどうしても波が出る。プロ監督として経験が浅く、腰が据わらないところが透けて見え、力の入れ方に無駄が出るのだ。

 そこで言う「時間」は自身が抱える問題でもある。異国の地で、プロ監督経験のなさに晒される。彼らに成長の余地はあり、どこかでチームが好転するかもしれないが…。

 ポヤトスは今シーズンからガンバを率いるも、横浜FCと”最下位を争う”。そもそも母国でプロの実績がなく、徳島をJ2に降格させ、J1に上げられなかった外国人監督が、なぜビッグクラブで指揮できることになったのか。整合性を欠いている。

 アルベルはFC東京2年目だが、サッカーの内容は変わらず凡庸である。有力選手の走力やパワーに頼った戦い方で、中位が定位置。掲げるプレースタイルと符合しない補強も目立ち、ちぐはぐだ。

 ラバインは、直近4試合2勝2分けで上昇気配がある。おそらく、中位までは上がるだろう。しかし他との戦力比を考えれば驚きではない。そこから上位2チームに入る監督になるには、試練が必要で…。

 はたして、プロを率いたことがない外国人監督にJリーグで経験を積む場を与え、成長させる必要があるのか?

 これは問いかけである。

リージョやロティーナの監督としての厚み

 そもそもの話、悪い監督ではないのだが…という状況を作っているのは、誰なのか?

 それは、彼らを選んだ人間である。監督がどういう人物で、どういう道を辿ってきたか。もっと精査の必要があるだろう。エージェントが持ち込んだ監督の力量を、その言葉通りに信じて契約していないか?

 母国で負け続けてきた監督に大任を負わせたら、その行き先は確定的だ。サガン鳥栖のルイス・カレーラスなど最たる例だった。

 もちろん、結果がすべてを表すものではない。結果が出ていなくても、選手を急成長させ、監督界隈で高い評価を受ける人物もいる。その点で長期プランがあるなら別だろう(プロでは長期プランは虚構だが)。

 例えば、かつてヴィッセル神戸を率いたファンマ・リージョは、指揮したクラブの成績は必ずしも華々しいものではない。しかしどこのチームでも信望が厚く、選手に慕われた。あのジョゼップ・グアルディオラが心酔し、師と仰ぐほどの人物である。言うまでもないが、スペイン国内で勝ち負けを繰り返し、一人のプロ監督としてやってきた。

 同じ結果が出ない状況でも、ポヤトスやアルベルとはまるで違う。

 ちなみにミゲル・アンヘル・ロティーナも、プロ監督として生き抜いて国を出た。たしかに最後は3チーム連続で降格させたが、その後は中東で1部に引き上げ、Jリーグでも東京ヴェルディにプレーオフを戦わせ、セレッソ大阪にACL出場をもたらした。守備的な戦いが揶揄されることはあっても、プロ監督としての矜持を感じさせた。

監督選びの重要性

 ポヤトスやアルベルは、はっきりと言ってしまえばトップリーグの監督として厚みが足りない。

 では、早期に解任すべきか?

「選手を入れ替えるわけにいかず、監督を代えるしかない!」

 その意見も今のサッカーでは暴論ではない。しかし、暫定的な監督交代はカンフル剤に過ぎず、2,3試合で効果はなくなる。その後は、変化による消耗でチーム力はダウンする。シーズン途中で「名監督の就任」を望むのは難しく、現状の「悪くないサッカー」を良い方向に転換するのが正攻法だが…。

 指揮官が修羅場をくぐり抜けていない場合、組織は負けるたびに浮つく。敗軍の将の言葉は次第に説得力を失う。やがて、あらゆる疑心暗鬼がはびこるのだ。

 監督という一歩目を間違えてしまうと、戦略は大きく狂う。半ば、取り返しがつかない。監督選びは重要だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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