「カッとなって 体罰」なぜ、起こる。どう防ぐ。
30年前、スポーツの場で暴力的な指導は当たり前のように起こっていた。当時はまだ、体罰はよいのか、悪いのかという議論もなされていた。
「悪だけど必要」という意見も少なくなかったと記憶している。だから、いまの大人たちのなかには、子どもとしてスポーツをしているときに、指導者から叩かれた経験がある。
今、スポーツの指導と称して、選手である子どもに暴力をふるってはいけないことは多くの人が同意し、理解している。けれども、スポーツ指導の場から虐待的な指導をなくすことには成功していない。
2019年1月27日の朝日新聞電子版に「体罰はダメ、ではどうすれば? 悩み闘う指導者たち」という見出しの記事がある。
朝日新聞はこの記事に添える形で「なぜ、スポーツ活動で体罰が起きる、なくならないと思いますか?」という質問でアンケート調査をした結果も掲載。答えは3つまで回答できるようになっている。 回答はスポーツ指導者に限ったものではなく、オンラインを通じて一般の人から集めたものだ。
回答の多い順に以下に記す。
1,指導者がカッとなるから
2,指導者自身も体罰を受けてきたから
3,指導者としての力を示したいから
4,昔からやっているから
5,指導者がストレスを抱えているから
6,子どもがうまくなるから、勝てるから
7,子どもの成長に役立つと思うから
8,子どもは言葉で言っても分からないから
この記事では、2018年8月、体操の日本女子代表候補だった宮川紗江選手への暴力をふるった速見佑斗コーチにも取材している。
速見コーチは取材当時、宮川選手の指導を続けながら、メンタルトレーニングや心理学を勉強し、怒りの正体が何か、どうすれば感情のコントロールができるようになるのかなどを学んでいるとし、自分自身で分析をして、どういう時に感情が乱れているのかなどを深めているところだ、と話している。
朝日新聞のアンケート結果のように「指導者がカッとなるから」暴力をふるってしまうのであれば、なぜ、カッとなるのか、カッとしたときに暴力をふるわないようにするためにはどうしたらいいのかを知ることが必要だ。頭に血がのぼらないようにできれば一番よいのかもしれないが、カッとなることは誰にであるだろう。それでも、選手である子どもへの暴力につなげないためにはどうすればよいか。
前述したように、速見コーチは、メンタルトレーニングや心理学を勉強し、怒りの正体を探り、感情のコントロールを学んでいるという。
私は、速見コーチが受けているメンタルトレーニングや心理学の勉強を、多くの指導者が学べるように普及させてほしいと願っている。選手に暴力をふるったコーチだから「罰」として、メンタルトレーニングや心理学の勉強をさせられているのだ、という見方は決してしたくない。
子どものスポーツで問題が起きると、指導者や保護者が変わらなければいけない、と言われる。朝日新聞の見出しは「悩み闘う指導者たち」となっている。どうしたら変われるのか、根本的に抱えている問題は何か。暴力的な行為をされた子どもだけでなく、変化や改善を目指す指導者も助けを必要としている。
指導者たちは、世間や競技団体、保護者の期待に応えなければならず、重圧と多くの役割を背負っている。子どものスポーツに関わる保護者も同じだ。良い親であろうとしているつもりが、指導者側からモンスターペアレント扱いされて、戸惑うこともある。
心理学を含む科学的な研究を、現場でコーチをする指導者や保護者に還元して欲しいと願う。悩みにより添い、困ったときに思い出すことができ、いざというときに参照できる大まかなガイドのようなものがあればいいのに、と思う。
研究結果を単純化するのは危ないことと承知しているが、別の仕事をしながらコーチをしたり、学校教員をしながらコーチもしている指導者たちの忙しさを考慮して、唸りながら相当に時間をかけないと理解できない、といったものは避けてもらえればありがたい。
これまでスポーツの研究といえば「する人」のパフォーマンスが向上することを目的としたものが多かった。しかし、これからはスポーツを「見る人」や「関わる人」のあり方を研究し、どのようにすればスポーツ環境が改善されるかを考えることも必要だろう。「スポーツを見る人」についてのリサーチが、観客動員を狙うスポーツビジネスだけに還元されているのはもったいない。
「なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか」(生活書院)でも、「見る人」から、子どものスポーツ環境をよりよいものにできるかにアプローチした。参考にしていうただけるとうれしい。