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香川、岡崎が外された「伏線」。ハリルの狙いは的中するのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ロシアW杯予選でゴールを祝う、香川真司と岡崎慎司(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「アジア相手では苦戦した。でも、強豪相手のほうがハリルJAPANの戦術は効果が出る」

 代表関係者からはロシアW杯に向け、どこか自信に満ちたような声が漏れ聞こえてくる。

 ハリルJAPANは守備のブロックを作り、プレッシングとリトリートを併用。相手のボールの出所をふたしながら、ミスを誘発する。そして奪ってからは、サイドからスピードを生かし、手数を掛けずに攻め、カウンターを"炸裂"させる。戦略的にリアクションが軸になっている。能動的でなく、受け身的。「相手を罠に掛ける」。守備ありきの戦法だ。

 それは世界中のチームが用いる戦術の一つであって、決して悪ではない。ポゼッションが正義のように語られることはあるが、それに特化してしまえば、プレーは柔軟性を失う。結局のところ、サッカーはボールを持っているとき、ボールを持っていないとき、の二つの局面しかない。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のサッカーは、その後者に軸足を置いているということだ。

 しかし、ハリルホジッチが志すサッカーで本当に世界の強豪を打ち負かせるのか?

ハリルはプレーテンポを作る選手を望んでいない

 11月のブラジル戦、ベルギー戦に向け、ハリルホジッチ監督はメンバーを発表。チャンピオンズリーグに出場する強豪、ボルシア・ドルトムントでプレーする香川真司、プレミアリーグで覇者にもなったレスター・シティの岡崎慎司の二人を外したことは、最大のサプライズだろう。戦術的な核にもなってきた二人を、メンバーにも入れなかった。

 これは、ハリルホジッチが自らのプレー理念を実現するための選択なのだろう。

「縦に速いサッカー」

 ハリルホジッチのスタイルはそう語られる。本人はそう規定されるのを嫌うし、選手は柔軟に対応するべき点はあるが、トランジッションが基本にあるのは間違いない。それも、ボールを持っていないときが出発点で、奪い返した瞬間の動きを指している。それ故、指揮官はボールスキルやコンビネーションよりも、インテンシティをとことん求める。パスコースを絞り込み、激しく奪ったら、激しく飛び出し、ゴールを奪う。その申し子と言えるプレーを体現しているのが、原口元気だろう。

 プレーテンポを作るような選手は最初から望まなかった。例えば、就任から一度も遠藤保仁を呼ばず、昨シーズンは無双感のあった中村憲剛にも信を置かず、抜擢した大島僚太はすぐに切り捨てた。ボールを持っているとき、という能動的なプレーにプライオリティを置いていない。

 それでもハリルホジッチは、「日本にはトップ下に優れた選手が多くいる。ゴールに近づいたエリアで、決定的な仕事ができる」と代表関係者に洩らし、予選ではほぼ一貫してトップ下を起用してきた。香川はその筆頭だった。また、指揮官は岡崎のコンビネーション力を認め、予選では主力として扱ってきた。

 それがロシアW杯に向け、助走に入ったところで、二人ともメンバーから外したのだ。

香川、岡崎を外した理由、4―1―4―1という布陣

 ハリルホジッチはビルドアップからボールをゴールエリアに運んでいく、という形を求めていない。今までもその傾向はあった。しかし、そのカラーをさらに強く押し出しつつある。

 最終予選終盤のオーストラリア、サウジアラビア戦、さらに10月のハイチ戦でも試したように、ハリルJAPANは4―1―4―1に近い布陣をファーストチョイスにしようという気配がある。フォア・リベロのような選手をバックラインの前に配置し、脆さを抱える守備陣を補強する。守りを整えた上で、攻撃は高さ、強さがあってポストワークに優れるFWにボールを収めさせ、サイドから走力のある選手がゴールに迫る(あるいはMFがミドルシュートする)。

 これは、トップ下の居場所がないフォーメーションだ。香川の名前は削られた。

 そして、新たな戦い方は岡崎がメンバー外になった理由にも結びつく。

 11月、ハリルホジッチは高さ、強さ、速さを持っているFWを好んで選んでいる。大迫勇也、杉本健勇、興梠慎三。いずれもフィジカル的なタフさが顕著に出て、一人でトップを張れるタイプの選手たちである。

 岡崎は1トップよりも、2トップの一角や、サイドから得点のポジションに入るプレーを得意としている。アルベルト・ザッケローニ監督時代は、「左で崩し、右で仕留める」という戦術に置けるフィニッシャーだった。際だったコンビネーション力とゴール決定力に特長がある。

香川、岡崎抜きで、W杯の勝利はあるか?

 香川、岡崎の二人はボールが敵陣に長くある方が、その能力を発揮する選手だろう。スキルで成功をつかんだ香川に、単純なフィジカルパワーや闘争心を求めるのは酷。10月のニュージーランド戦はトップ下で先発したが、完全に空回りだった。岡崎は孤立した状況では厳しい。予選最終戦のサウジ戦では先発も、存在感を出せなかった。

 そこで、W杯出場を決めたハリルホジッチは自らの色を強く打ち出しつつある。

 もっとも、新たなフォーメーションは今のところ混乱しか生んでいない。サウジ、ニュージーランド、ハイチ戦と戦術的にはなにひとつ機能していなかった。とりわけハイチ戦は守備が崩壊に近い様相を呈した。

 これは指揮官の選択で、もはや賽は振られたのだろう。どれだけマスコミやファンがポゼッションを求めても、ハリルホジッチは己のサッカー観で大会に挑む。ブラジルW杯、アルジェリアで結果を出した自負もあるのだろう。

 しかし、香川、岡崎をメンバー外にするほど、日本サッカーは余裕があるのか。戦術的意図はあるのだろうが、有力選手の力を糾合するのは、監督の仕事である。そもそも受け身に回って、日本は攻撃を跳ね返せるのだろうか。このリアクション戦術は、先制された時点で、まず苦しくなる(守ることが基本にあるだけに)。さらに精神的に90分間、受けて立つには相当な図太さが必要で、さもなければ終盤に全軍が潰乱する――。

 11月のブラジル、ベルギー戦は、強豪相手だけに一つの試金石になるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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