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ALI バンドの危機を乗り越え掴んだ希望――『ゴールデンカムイ』OPテーマに昇華させた、その生き様

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

活動休止~店頭からもサブスクからも自分達の音楽が消えた日

2020年、アニメ『呪術廻戦』(TBS系)第1期のエンディングテーマになった「LOST IN PARADISE feat. AKLO」のヒットで一躍シーンの注目の的になった多国籍音楽集団ALI。これから快進撃が始まると思った矢先、メンバーが逮捕・起訴されるという事件が起きた。メンバーは脱退し、ALIは昨年5月から無期限の活動休止状態に。店頭からもサブスクからも彼らの音楽が消えた。そんな状況の中でも残されたメンバーは音楽を鳴らすことを止めなかった。

メンバー3人で再スタート

(C)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会
(C)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会

そして半年後の11月に活動再開を発表したが、紆余曲折ありメンバーはLEO(Vo)、LUTH(B)、CÉSAR (G)の3人でのリスタートとなった。今年2月23日にデジタルシングル「INGLOURIOUS EASTERN COWBOY」をリリースし、7月にリリースした「SHOW TIME feat.AKLO」は、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手の咋季入場曲としても話題を集めた。そして11月16日には人気テレビアニメ『ゴールデンカムイ』第四期オープニングテーマ「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」を発売。“いかにして死ぬか”をテーマに作り上げた獰猛かつ繊細なこの作品について、そして活動休止から再開に至るまでの思いを3人にインタビューした。

「マスコミからの攻撃を避けるために、事件を起こしたメンバーの家族を連れて伊豆の方に2週間位行きました。そしてしばらくしたらCDショップだけではなくサブスクからも俺達の音楽が消えて、そのショックとストレスからか突発性難聴になってしまいました」(LEO)。

「何のために音楽をやるのか、そこから考え直した」

ライヴPhoto/Saiga-nagi
ライヴPhoto/Saiga-nagi

フロントマンのLEOは、自分達の音楽が世の中から消えてしまったことにショックを受けながら、でも改めて音楽への向き合い方を問う、見つめ直す時間にしようと思ったという。

「何のために音楽をやるか、そこから考え直しました。これで終わりってなった時に、自分自身は表現者としてやりたい音楽をどれくらい表現できているのか、そう考えた時まだ90%くらいはやれていなくて、まだ全然始まってもいないと思いました。やりたい音楽をやることもそうですが、CDやアナログを作る時も、何があってもいいようにとにかく丁寧に心を込めて作って残そうと思いました。まずそこに向き合いました。それから程なくしてメンバーとスタジオに入っていました。バンドがどうなるかわからないけど、まずはカバーからやってみようって、毎週2回はスタジオに入って、やりたい曲とか30曲くらいを詰め込んだ架空のミックステープを作りました。その曲達の一部は、今制作しているアルバムに入る予定です。これまで以上に努力していかないといけないし、そんな中で、バンドのメンバーの中で徐々に意見やテンションが違ってきて、結局3人での再出発になりました」(LEO)。

「活動休止中は、スタジオで音を鳴らしている時が唯一の救いになった」

「ALIがこれから上にあがっていくというタイミングの事件で、僕も他の仕事を辞めてALIの一員として音楽で食べていく決意をしたばかりだったので、途方に暮れました。そんな中でスタジオで音を出している時が、唯一現実から逃げられるというか…」(LUTHFI)

「その時はとにかく間違いであってくれって思いました。でも時間が経っていくうちに曲もネット上から下ろされて、今までやってきた成果が全部なくなって、今までの自分が否定されたように感じて怒りが込み上げてきました。そこからは何かしてないとおかしくなりそうだったので、スタジオでみんなで音を鳴らしている時間が救いになりました。そこからはメンバー内でも、インディーズでもいいから頑張ろうよってポジティブな気持ちに切り替えられる人がパワーを持ってできたし、それがこの3人だったということだと思います」(CÉSAR)。

「色々な人がALIが復帰できるように力を貸してくれたおかげで、戻ってくることができた」

「SNSもできないし、バイブスが日本で一番いいところに行こうっていって、よく3人で皇居の周りを散歩して、たわいもない話をして、でもそれがいい時間になりました(笑)。バンドが上り調子になって、逆にメンバーの統率もとれなくなっていたり、ライヴも満足いくものができていなかったり、これで本当にいいのか、みたいな時期でもありました。だからそれを見つめ直す期間にもなりました。今思えばいい時期を過ごせたともいえるけど、ファンを悲しませたことは間違いないので、本当に申し訳なかったです。事務所の社長をやってくれている妻の(藤井)萩花や、ソニーミュージックのスタッフが俺が絶望している時もいつも横にいてくれて『もう1回一からやり直そう』って言って支えてくれました。本当に色々な人がALIが復帰できるように力を貸してくれたおかげで、戻って来ることができました」(LEO)。

アニメ『ゴールデンカムイ』第四期OPテーマ「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」のテーマは“人はいかにして死ぬか”

「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」(初回限定盤/11月16日発売) (C)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会
「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」(初回限定盤/11月16日発売) (C)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会

LEO本人も大好きだいうアニメ『ゴールデンカムイ』第四期オープニングテーマ「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」は、リスペクトするラッパー・Mummy-D(RHYMESTER)をフィーチャリングした“人はいかにして死ぬか”をテーマに作り上げた獰猛かつ繊細な作品だ。アニメの世界観と、道を切り拓き前に進むALIというバンドの生き様がリンクした、軽快さの中にある残酷な歌詞が印象的だ。

Mummy-D、LEO
Mummy-D、LEO

「一度仕上げたものが、制作サイドが考えるテンションと少し違ったようで、先方から『今回は“いかにして死ぬか”をテーマにして書いて欲しい』というリクエストが、レコーディング前日に来て。これはまずいと思いながら共同コンポーザーの宮田“レフティ”リョウとスタジオに入って、でもなかなかできなくて、終わったな、と思った時にできたのがこの曲です。なかなかスリリングな展開でしたが、俺も双子の親になり、いかに音楽家、表現者として生きて死んでいくか、ということを突き詰めて、辿りつきました。いつかMummy-Dさんと一緒にやることが夢でした。“いかにして死ぬか”というテーマをDさんに伝えて、自由にリリックを書いていただきました。初めてのテンポに近いバラードっぽい感じなので、ALIのスローガンが“LOVE, MUSIC&DANCE”なのでDANCEの部分をテンポ関係なく、どうグルーヴを感じさせられるかを考えました。最高傑作ができたと思います』(LEO)。

Mummy-Dとの鬼気迫るセッションが話題のMV

壮大かつラテンフレーバーも感じさせてくれるサウンドはエネルギーがたぎってくるような感覚になる。「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」のMUSIC VIDEOも話題だ。モノクロのトーンの中、海の上で眼光鋭い、鬼気迫るオーラを放つLEOと、同じく圧倒的な存在感のMammy-Dの二人がまるで“果し合い”のように言葉をぶつけ合い“セッション”している。

「山田健人監督に今回のテーマを伝えて、監督にとって生と死が混在しているのは海だってなって。当日までどう撮るか決めてなくて、それで柵もない、死ぬかもしれないというところで撮りたいというので、鬼気迫るというより怖かったという方が合っているかも(笑)。あれ実はテストテイクが採用になったものなんです。この映像には曲のタイトルもクレジットも一切入っていません。テーマがテーマなのでフィクションぽくならないように、どこまでピュアになれるかのかを突き詰めた結果、“無”です。“無”で始まって“無”で終わるという。よく考えると、あんなに何も文字関係が入っていないMVってすごいなと思います」(LEO)。

「フィクションであるアニメの世界を、その音楽ではリアルなものを描きたい」

「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」(通常盤)
「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」(通常盤)

「Wild Side」「LOST IN PARADISE feat. AKLO」、そして今回の「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」と、アニメとの親和性の高さがALIの強さのひとつでもある。

「アニメの主題歌やオープニングテーマを書く時って、アニメに寄せた言葉を選ぶことはあまりしないです。フィクションであるアニメの世界を、その音楽ではリアルなものを描きたい。そういう仕事だと思っていて。だからなるべく実体験の中から得た、感じたこと、映画を観たり、好きな漫画を観ている時に感じたことをストックしておいて、こういう話が来た時に、普段使っている言葉や感情を歌にして、それがリンクしていれば最高だと思います。最後のひと言だけ作品に対するオマージュを入れるとか、そういうことでつながりをもたせることもあります。LUTHFIと一緒に作っていて、彼もアニメ大好きなので、遊び心を入れながら書いています」(LEO)。

制作中のメジャー1stアルバムに込めた思い

このインタビューの前半部分でも出てきたが、ALIは現在メジャー1stアルバムを制作中だ。活動休止中に作った曲も入る予定というこのアルバム、どんな作品になりそうなんだろうか。

「今回の曲も、デビュー当時に比べるとハイブリッドな音になっていると思うし、毎回色々な音楽に挑戦をしています。アルバムにはこれまでリリースしたシングルも入る予定なので、その進化の過程も感じてもらえると思うし、でも単にシングルの寄せ集めのようなアルバムにはしたくなくて。1stアルバムなのに遺書みたいなアルバムにしたい。俺はいつもステージに死に場所を探してる感覚でライヴに臨んでいますが、いつ終わってもいいように“完成している”もの、本当に作りたいものを作ります。このアルバムが完成したらALIとしての次の景色が見えてくると思っています」(LEO)。

ALI オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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