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緊急事態宣言発出の背景に見えた菅VS小池

安積明子政治ジャーナリスト
会見にいどむ小池知事(写真:つのだよしお/アフロ)

東京、大阪、京都、兵庫に緊急事態宣言

 菅義偉首相は4月23日夜に記者会見を開き、4月25日から5月11日まで東京都、大阪府、京都府、兵庫県の1都2府1県に「緊急事態宣言」を発出することを宣言した。同時に愛媛県、宮城県、沖縄県に「まん延防止等重点化措置」を適用することも発表している。

 政府が「緊急事態宣言」を発出するのは、今回で3度目だ。最初は2020年4月7日から5月25日までで、2度目は今年1月8日から3月21日まで。前回の緊急事態宣言を解除する際、菅首相は3月18日に会見を開いて次のような「5つの対策」を示していた。

 【宣言解除後の5つの感染防止策】

・飲食は午後9時まで。協力店には1日4万円を支給

・変異ウイルスについては、スクリーニング検査を40%に拡大

・3月中に高齢者季節などで集中検査し、4月には1日5000件規模の繁華街などで無症状者へのモニタリング検査を実施

・ワクチン接種を着実に進め、丁寧に情報発信していく

・病床や宿泊療養施設の確保計画を5月までに見直す

2度目の解除は時期早々だったのか

 しかし解除からわずか1か月ほどで、3度目の緊急事態宣言となった。理由は何か。ひとつは変異株の危険性についての認識が甘かったためだろう。これについて23日の会見で記者から質問が出たため、菅首相は大阪府と兵庫県では変異株の割合が8割を占め、しかもステージ4の中でも高い段階にあることを認めている。また3月の解除基準を「ステージ3」とした判断も、早すぎたのかもしれない。そもそも「ステージ3」になったからといって、感染が収束しているとは限らない。

 たとえば菅首相が前回の緊急事態宣言を解除することを表明した3月18日時点で、東京都の新規感染者数は前週比で108.8%だった。しかもそれ以降もずっと100%を超えており、拡大傾向を見せていた。そして3月26日には、前週比はついに110%を超えたのだ。

にもかかわらず、菅首相は「感染者数や病床数など、専門家の意見を聞いた上で解除した。たとえば大阪では解除時の新規感染者数は72名だった。ステージ4からステージ3になれば、ひとつの目安に解除するものとしていた」と弁明。結局当初から「解除ありき」だったということだ。

迷走するコロナ対策

 政府が3度目の緊急事態宣言で重点を「飲食」から「人流」に移したのは、感染力の強い変異株の増加に注目したためだが、国民の行動を制約するものとして反発が強い。とりわけワクチン接種が遅々として進まないことに、苛立つ国民は少なくない。たとえば4月21日段階での(部分)接種率はアメリカは40.6%で、イギリスは48.8%であるのに対し、日本は1.2%にすぎず、OECDで最下位。とても先進国とは言えない状況だ。

 さらに水際対策も不十分だ。今年2月からレジデンストラック及びビジネストラックの新規入国及び再入国の件数はゼロになったが、その他の外国人の入国者数が2月に1万3824人、3月の入国者数が1万9393人とかえって増加している。変異株の割合が急増しているのは、たぶんにこれが原因だろう。

 営業自粛を広くかけすぎることも、評判は悪い。今回はデパートやSCなど大型店舗にも休業が求められ、1日20万円の補償金が支払われる。

 しかし売上高が大きなデパートなどでその金額で足りるはずもない上、また“かき入れ時”でもある連休に休業しなければならないのは大きな経済的損失だ。そもそも買い物にいったいどれだけの感染リスクがあるのか。レストランなどの飲食を停止したいのなら、ピンポイントでやればすむのではないか。

あえて東京都を危機に?

 東京都の小池百合子知事はさらに、1000以下の中小施設にも休業要請することを発表した。小池知事はまた、8時以降に街灯以外のネオンや看板の明かりを落とすことも提唱。暗くなると犯罪を招く恐れはないのだろうか。

 このような小池知事の施策に対して、「これでは東京が終わってしまう」と自民党の川松真一朗都議は怒りのツイートを投稿する。「東京都の重症者病床には余裕がある。大阪府とは違う」と川松都議は述べている。

 なるほど、4月23日の東京都の重症者数は52名で、前日の22日は48名だった。それ以前を見ると、重症者数は40名前後で収まっていた。東京都の重症病床(3月2日現在)は330床確保されているため、収容には余裕はある。

 一方で大阪府は4月22日、新型コロナウイルス感染症の重症者向けの病床使用率が100%になっている。このように、東京都と大阪府は同じような危機ではない。

狙いは7月の都議選?

 ではなぜ東京都は政府に緊急事態宣言発出を求めたのか。その理由として、5月中旬のIOCのバッハ会長の来日が挙げられている。バッハ会長に「安全で安心のオリンピック・パラリンピック」をアピールするため、感染者数を減らす必要があるというのだ。しかし川松都議はむしろ、「連休で感染者数が増加するのは明らか。小池知事はその責任を負いたくなのでは」と分析する。その2か月後の7月には東京都議選が控えている。要は「選挙対策」ということだ。

 2017年の東京都議選では、小池知事が事実上率いる都民ファーストの会が49議席を獲得し、公明党やネットと与党を組んで、127議席中79議席(推薦を含む)を制した。だがその後、都民ファーストから離党者が出て、2月16日現在では46名の勢力だ。加えて次期都議選で公明党は自民党との連携が復活。前回のような追い風は期待できなくなっている。

 そのような状況で小池知事は少しでもリスクを減らしたいところだろうが、小池知事が減らすべきは選挙のリスクではない。感染リスクを減らすことこそ、知事の本分ではあるまいか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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