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「当事者の声を聞いて」トランスジェンダー国会が初開催

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
トランスジェンダー国会の登壇者(筆者撮影)

トランスジェンダーをめぐる課題について訴え、法整備などを求める「トランスジェンダー国会」が10月12日、参議院議員会館で開催された。

浅沼智也さん(筆者撮影)
浅沼智也さん(筆者撮影)

主催した「Transgender Japan」の浅沼智也さんは、冒頭の挨拶で、WHOの国際疾病分類マニュアル「ICD-11」が2022年に施行され、「性同一性障害」という概念が廃止された点に言及。トランスジェンダー等の人々が、法律上の性別を変更する場合に適用される「性同一性障害特例法」の見直しの必要性を訴えた。

「コロナ禍での経済的な困窮に加え、昨今はトランスジェンダーに対する誤った情報に基づく差別的な言説も増え、当事者の心身は疲労しています。トランスジェンダーの人々が生きやすい社会になるよう、当事者の声を聞いてほしい」と浅沼さんは語った。

性別について「あきらめの気持ち」

「浜松TG研究会」代表で、トランスジェンダー男性の鈴木げんさんは、「子どもの頃から女の子のカテゴリーに入れられることが不思議でした。4歳の時にはすでに、自分の性別について『あきらめの気持ち』を持っていました」と語る。

学校ではセーラー服への苦痛、寮の女性風呂に入ることへの罪悪感を持った。「こんな“変な性別”なのは世界中に一人だけ、どうせ誰にもわかってもらえないと思っていた」という鈴木さん。自分自身の性のあり方と向き合えたのは40歳になってからだという。「それまで36年かかかりました」と振り返る。

性別適合手術を望まない鈴木さんは、現在、手術を受けずに法律上の性別変更を静岡家裁浜松支部に申し立てている。「卵巣があってもなくても、見た目や実感は変わらず、男性であると確信しているので手術は必要ないと思っています」と鈴木さんは語る。

「性同一性障害特例法」では、法律上の性別変更のために「生殖腺を除去すること」を要件の一つに課している。そのため、性別適合手術を受けていない鈴木さんは法律上の性別を変更することができない。

鈴木さんはさまざまな不利益を被っている。

「例えば選挙の投票時は、片道1時間かけて生活圏から離れた役所まで行かなければいけません。熱が出ても気軽に近所の病院にも行けません」今後不安なのは、「死亡届に『女性』と書かれることです」と鈴木さんは語る。

鈴木げんさん(筆者撮影)
鈴木げんさん(筆者撮影)

さらに、「若いトランスジェンダー男性のなかで、卵巣は摘出するものだという前提に立って人生設計をしていること」に対して不安を感じることがあるという。

「僕も治療をはじめた頃は、『法律で決められているのだから、いつか手術をするものだ』と思っていました。でも、男性として正しく扱われることと、僕の体を僕自身で考え決めることは、両方とも『人権』の問題であって、どちらかを諦める問題ではないと思います」と話す。

もちろん手術をしたい人が適切な手術を受けられること、そして法律上の性別を変更できることも重要だ。鈴木さんは「それと同じように、手術したくない人、できない人が安心して過ごせること、多様な性を喜んで生きられるような法改正をお願いしたいです」と語った。

土肥いつきさん(筆者撮影)
土肥いつきさん(筆者撮影)

ほんの一部の「切実な声」

「トランスジェンダー生徒交流会」を主催する土肥いつきさんは、当事者の子どもやその保護者から募った声を紹介した。

「特別な配慮をしてほしいのではなく、ただ、自分を生きる事を、安心したい」土肥さんのもとには、そうした子どもたちの切実な声が届いているという。

小学校1年生と年中さんのトランス女性は、「私たちはかわいい格好をしたい。でも保育園で先生やお友達が男の子なのにあかん!って言うから、大きくなるまでは男の子のふりをして男の子の服装でいくことに決めた」という。

「みんなが、好きなものは好き!と堂々と言えて、それを受け入れられる世の中になってほしい。保育園の先生や子どもたち、まわりの大人や子どもたちにわかってもらえるような、教育システムとか仕組み、制度を整えて欲しい」。

土肥さんは「保育園時代、トランスジェンダーであることでいじめにあい、他の自治体への引越しを余儀なくされた子どももいる」と語る。

「トランスジェンダー生徒交流会」の横断幕(筆者撮影)
「トランスジェンダー生徒交流会」の横断幕(筆者撮影)

保護者の悩みも多い。

小学2年生のトランスガールの保護者は、子どもがスイミングスクールに通いたくても「近所のスイミングスクールに3軒ほど連絡しましたが、(更衣室が)どこも男性用、女性用しかなく、通えない結果になっています。もっと施設も充実してほしいです」と綴っている。

トランスジェンダーの当事者の中には、幼少期から性別違和に直面している人が少なくない。

小学校4年生の当事者の保護者は「もうそろそろ二次性徴抑制ホルモン療法の開始を考え始める時期にきている」という。これによって第二次性徴の発達を抑えることができ(止めれば再び二次性徴がはじまると言われている)、当事者の苦痛を軽減することにつながる。

しかし、二次性徴抑制ホルモンは保険適用外のため「毎月2〜3万円の治療費を数年払い続けることを考えると生活の不安もでてきます。保険適用の対象の治療として認められれば嬉しいです」。

土肥さんは「ここにあがってきた声はほんの一部です」と指摘する。

「国会議員のみなさんには、何をすべきか一緒に考えてほしいと思います。もし何をすればよいかわからなければ、聞いてほしいです。交流会だけでなく、どんな場所でも当事者が笑顔で生きられる社会にしたいと思っています」と土肥さんは語った。

頼さん(筆者撮影)
頼さん(筆者撮影)

ただ自分の望む性で生きたい

トランスジェンダーへの人権侵害に抗議する「ありえないデモ」を主催する頼さんも、「トランスジェンダー国会」のために寄せられた当事者などの声を紹介した。

「トランスジェンダー女性です。A型就労支援施設を利用していますが、多目的トイレがなく、歩いて15分ほど離れたショッピングモールに行くよう指導されています。多目的トイレは少ないので他での就労も不可能です」

「ノンバイナリーを社会から排除しないでください。ノンバイナリーを運動から排除しないでください。金のない、安全なシェルターへアクセスできない、障害や病気を経験するノンバイナリーを、どうかいないことにしないでください。わたしたちはここにいます。私たちがいないフリをする社会を、もう終わりにしてください」

「トランスジェンダーの性別変更の要件の見直しを強く求めます。性別を変更するために生殖機能を失くす手術をしなくてはならないことは、人権侵害だと考える国もあります。日本はどうでしょうか。再度考えていただきたいです。ただ自分の望む性で、自分で選択した生き方で生きたいだけなのです」

頼さんによると、特に「性同一性障害特例法」が定める法律上の性別変更に課される5つの要件(18歳以上であること、未成年の子がいないこと、結婚していないこと、生殖腺を除去する手術を受けること、望む性別の身体的外観が似た状態であること)の撤廃を求める声が多かったという。

また、「差別禁止法」を制定してほしいという声も上がっていた、と頼さんは指摘する。

近年では企業の性的マイノリティに関する取り組みなども増えてきたが、一方で「理解のある企業が増えたから、『そうしたところに就職すればいいのでは?』と言われることもありますが、それができない人が多くいます」と語る頼さん。

「差別禁止法をつくり、どんな人でも差別を受けないようにしてほしい」と話した。

五十嵐ゆりさん(筆者撮影)
五十嵐ゆりさん(筆者撮影)

迅速な法整備を

「LGBT法連合会」理事の五十嵐ゆりさんは、国連に関係する12の国際機関が2015年に「LGBTIの人々に対する暴力と差別の根絶」を呼びかける共同声明を発出した件を取り上げ、「トランスジェンダーの性自認が法的に認められることを確保するなど、国家が国際的な人権水準を支持すべきだ」と指摘されている点を紹介。

さらに国内でも、日本学術会議が2020年9月にトランスジェンダーに焦点を当てた提言を発表したことに触れ、そこでは「国際人権基準に照らし、性同一性障害特例法にかわる法的性別変更の手続を定める新法の成立が必須である。立法府による迅速な法制定を求めたい」と明記されていることに言及した。

LGBT法連合会としても、性同一性障害特例法の改正に関する基本方針を取りまとめ、「要件については人権侵害の懸念がきわめて高い『手術要件』を中心に撤廃すべき」だと示しているという。

中塚幹也さん(筆者撮影)
中塚幹也さん(筆者撮影)

イベントには、「GID(性同一性障害)学会」理事長で、岡山大学教授の中塚幹也さんも登壇した。

WHOの疾病分類「ICD-11」では、「性同一性障害」が削除され、精神疾患ではなくなった。一方で、新たに「性と健康に関する状態」というカテゴリが設けられ「性別不合」という枠組みがつくられた。この点について中塚さんは「今後は日本精神神経学会等と共同で診断に関するガイドラインを作っていくことになるだろう」と語った。

日本では、2018年に性別適合手術に対する保険適用がされることになったが、ホルモン治療をしている場合「混合診療」となってしまい、保険が適用されない。手術を受けるトランスジェンダーの多くが、それより前からホルモン治療を受けており、実質的にほとんどのケースが保険適用外となってしまっている。

この点について、中塚さんは「ホルモン療法にも保険適用を認めるか、または例外で『混合診療』を許容するかといった対応が必要」とし、厚労省とも調整していると語った。

笹沼弘志さん(筆者撮影)
笹沼弘志さん(筆者撮影)

社会的障壁の除去を

憲法学者で静岡大学教授の笹沼弘志さんは、「性同一性障害特例法」の定める要件をめぐってこれまで起きた訴訟の判例に触れつつ、「憲法」の視点から問題を指摘した。

憲法13条は「個人の尊重」、憲法14条は「法の下の平等」を定めている。

笹沼さんは、「個人を尊重」するということについて、「そもそもすべての個人が『性』にかかわる存在であって、個人の尊重とは、『多様な性の人たち、その個人をまるごと尊重すること』を指します」と語る。

さらに、「法の下の平等」が示すように、「特定の性」について「特権的に扱ったり、または差別的に扱ってはならない」と指摘。

シスジェンダーの人々が「自分たちに固有の属性に適したルール」を、みんなの総意、つまり「法律」として制定していること自体が、まさに「特権的」な状態であると指摘し、それにより「トランスジェンダーは権利を奪われ、社会的障壁を作られている」と語った。

トランスジェンダーの人たちが求めているのは、特権ではなく「本来持ってるはずが奪われていた社会的障壁を取り除くこと」だと笹沼さんは話す。

「さらに、性同一性障害特例法は、そんなトランスジェンダーの人たちのなかでも、『ある特定の人たち』のみを性別変更ができるようにしました。つまり、その特定の人たち以外の人が排除されている状態です」と語る笹沼さん。

「そうした意味で、トランスジェンダーの人々は二重の社会的障壁の除去を求めている状態」だと指摘した。

東優子さん(筆者撮影)
東優子さん(筆者撮影)

国際的なコンセンサスから逸脱

大阪公立大学教授の東優子さんは、自身も所属する国際学会である「WPATH(世界トランスジェンダー健康専門家協会)」について紹介。

世界中から2200名以上の会員が参加しているWPATHは、「SOC(Standard of care)」という、「トランスジェンダーや多様なジェンダーの人々の健康のためのケア基準」を策定している。今年9月にこの第8版が公開された。

WPATHは2019年に日本政府(法務大臣と厚生労働大臣)に対して書簡を提出している。

そこでは、性同一性障害特例法の5つの要件すべてについて「ただちに改正が必要」とし、特に強制不妊などの要件は人権侵害である点や、「性同一性障害」の診断を必要とする要件について「非科学的」だという指摘もされている。

書簡では「性同一性障害特例法」が「国際的なコンセンサスから逸脱している」とされ、WHOの国際疾病分類「ICD」やアメリカ精神医学会の精神疾患に関する診断・統計マニュアル「DSM」などの基準にそった診断条件の見直しが勧告されている、と東さんは説明する。

畑野とまとさん(筆者撮影)
畑野とまとさん(筆者撮影)

「性同一性障害特例法」が定める要件の問題について言及する際、「ハードルが高いから緩和しよう」とか「厳しいから緩めよう」といった言い方がされることがあるが、「こうした考え方は問題だ」と東さんは指摘する。

「例えば、女性差別が問題なのは、女性がかわいそうで弱いからではなく、そもそも性別を理由に差別をしてはならないからですよね。トランスジェンダーに関する問題に取り組むのは、性自認や性表現を理由に差別されてはいけないことだからです。『緩和』や『ハードルを下げる』という考え方ではない方向で、議論を進めていただきたいと思います」と語った。

最後に、会を主催した「Transgender Japan」の畑野とまとさんは「いま、トランスジェンダーの置かれている現状は決して良くありません。就労や就学が難しかったり、差別をされてしまったりします。そんななか、今回多くのみなさんの協力をいただき、はじめて『トランスジェンダー国会』の開催にこぎつけられたことを嬉しく思います」と語った。

「ぜひこの問題について、冷静に、科学的な見地で捉えていただきたいです。旧優生保護法など、過去に日本は性をめぐり"失敗"をしています。これを繰り返さないよう、いまWHOがどのように言っているか、世界がどう動いているかを見て、日本も諸外国にまけない人権国家を目指してほしいと思います」と締め括った。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、HuffPostや現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)、『子どもを育てられるなんて思わなかった - LGBTQと「伝統的な家族」のこれから』(山川出版社)など

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