「地図を広げるな」。35周年を迎えた姿月あさとを歩ませる言葉
芸歴35周年を迎えた元宝塚歌劇団宙組トップスターの姿月あさとさん(52)。記念ライブも全国各地で開催していますが、これまで歌い続けてきた原動力。背中を押してきた言葉とは。
大きな節目
35年。今一度振り返ってみた時に、大きな節目となったのは2000年の宝塚歌劇団退団だと思います。
というのも、タカラヅカに入りたいと思って始まったこの道ですからね。そこを出る。これは実に大きなことでした。
そして、そこから22年が経った。なので、実は退団してからの時間の方が長いんですよね。それも、なんとも不思議な感覚ではあります(笑)。
入りたくて入った世界でしたけど、タカラヅカ時代を一言で言うと“天変地異”でした。新しい組(宙組)ができるという思いもしなかった話が出てきて、誰も歩んだことのないところでトップになる。この経験は、今でも鮮明に自分の中に息づいています。
「地図を広げるな」
タカラヅカでは毎回同じ組のメンバーと作品を作る世界で暮らしていましたけど、外に出てからは一回一回出演者もスタッフもリセットされる。
タカラヅカ時代とは全く違う環境で一期一会の思いを感じてきましたし、その都度いろいろな刺激も受けてきました。出会いもたくさんありましたし。
その中で、秋元康さんが作ってくださって2015年にリリースになった「夜明け」という曲ができた。この曲は本当に大きなものだと思っています。
秋元さんとは親交があるものの、私がタカラヅカにいた時の細かいことをお伝えしていたわけではないんです。それなのに、私の心情にすごくフィットした歌詞を書いてくださいまして。
「まわりを見るな 地図を広げるな 信じる道をただ歩き出せばいい」
今でこそたくさんOGの方がいらっしゃいますけど、昔はそこまでたくさんの方はいらっしゃらなかった。そして、コンサートを中心に全国ツアーをしたりする人は私だけだったような気もするんです。
誰かお手本がいるわけでもない。その道を進んでいく。正解がない道のりかもしれないけど、自分だけの道を歩めばいい。そのメッセージがすごく心に響いたんですよね。
このまま進んで、次の節目となると40周年。その時の目標ですか?それはですね…、ないです(笑)。
というのもこの2~3年は特にですけど、新型コロナ禍だったり、まさかのことが起こって先行きが見えない状況になっている。自分が元気で、これからも頑張ろうと思っていても、それが思いもよらぬ形で止まることもあるんだと。
実は、この思いはコロナ禍前から持っていたもので、いつまでも自分がやりたいことができるわけではないと思い続けてきました。
それが事実ではあるんだけど、でも、結局私はこのエンターテイメントの仕事しかしたことがない。なので、それがなくなったらいったい何をしているのか、自分でも分からないところはありますが、道が続く限りは一回一回の舞台を悔いのないように全力でやる。それしかないんだろうなと。
いつまでできるか分からないかこそ、いつ終わっても後悔がないようにしっかりと向き合う。これからもそれを心がけていけたらなと思っています。
(撮影・中西正男)
■姿月あさと(しづき・あさと)
1970年3月14日生まれ。大阪府出身。85年に宝塚音楽学校に入学。87年、73期生として宝塚歌劇団に入団する。同期は天海祐希、絵麻緒ゆう、匠ひびきら。雪組公演「宝塚をどり讃歌/サマルカンドの赤いばら」で初舞台。花組に配属され、93年に月組に組替えとなる。98年、新しく作られた宙組の立ち上げメンバーに選ばれ、初代トップスターに就任。2000年に「砂漠の黒薔薇/GLORIOUS!」で退団する。退団後は歌を中心に数々の舞台に出演。35周年記念ライブを各地で開催中。7月30日には兵庫・宝塚ホテルで、8月18日には神奈川・Billboard Live YOKOHAMAで行う。