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PS5の構想とコンセプトは 5年後を見抜く眼力 そしてその先は…… 二人のキーマンに聞く

河村鳴紘サブカル専門ライター
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの伊藤雅康副社長(左)と西野秀明SVP

 予約殺到の新型ゲーム機「プレイステーション5」が12日にいよいよ発売されます。企画経緯、そしてコンセプトは……。PS5の開発を担当したソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の伊藤雅康副社長と、西野秀明シニア・バイス・プレジデント(SVP)の二人のキーマンに話を聞きました。

--PS5の構想はいつから?

伊藤副社長  (PS5のリードアーキテクト)マーク・サーニーも含めて、2015年ごろから話を始めました。PS4 Proの発売前年で、開発が佳境に入った時期もあり、PS4 Proと次世代機(PS5)を「どうやっていこうか」と話した記憶があります。

西野SVP  もう少しさかのぼると、PS4を出した後にPS4 Proの話を始めました。PS5が「こうだろう」から、PS4 Proは「こうしよう」と。要するにPS4 Proが生まれるときに次の話(PS5)をしましょう……となるわけです。PS4が最初の3年でうまく行きましたから、PS4の延長線上に新しい体験(PS5)を作っていくことになると思っていました。

--PS5で最初に描いていたこととは?

西野SVP  テレビとコントローラーがあるのは変わらない……ということです。そして399ドルで出したPS4より高くなるだろうという気持ちはありました。ところが伊藤の絶え間ない努力で値段が下がっていったのです。そしてPS5が出たときに価格が「高い」と思われないよう、PS4 Proという布石を打った上で、その流れの中でPS5があることをイメージしていました。

--PS5のコンセプトは。

伊藤副社長  技術から入るのではなく、PS5は「没入感を高めるものにしよう」ということがまず先にあります。そのためにどういう技術が合うか……というアプローチですね。

西野SVP  ハードディスクを使っている機器はどんどん減っているのが現状です。(没入感を高めるためロードの)スピードの速さの話は最初にあったことは記憶しています。「それならSSD(ソリッド・ステート・ドライブ、読み書き速度の速い記憶装置)も使えるよね」となり、やる以上は、ロード時間が「10秒」ではなく一瞬で読み込める、極端に早いものにしたいとなりました。

--任天堂やマイクロソフトのゲーム機は意識しましたか。

伊藤副社長  ライバルのことは意識していません。「没入感を高める」という最初のコンセプトがあり、そのために「スピードを速くしましょう」「触感を高めましょう」「3Dオーディオで臨場感を高めましょう」という形で取り組みました。ですから、作りたいのはそちらの方向です。もちろん、「プレイステーション」というブランドである以上、性能やイノベーティブ(革新的)なところはないといけません。グラフィックの質は高めてはいますが、そこだけ突き抜けようとしているわけではありません。トータルの体験を重視して開発しています。

--開発時の最大の難関は。

伊藤副社長  冷却機構の部分ですね。高性能になると、消費電力が増えるわけで、今までと同じアプローチでやると音の大きな機器になってしまう。そこで音の静かなゲーム機を作りたかったのです。大きさと音、コスト。いろいろな要素が入っていて、そのバランスを取ることに苦労しました。

--PS4ソフトの互換性をもたせようとした理由は。

伊藤副社長  ゲーム機を20年触っていますが、PSのアイデンティティーは互換性と思っていますから、PS3からPS4のときに互換性が途切れたのは個人的に残念でした。だから今回、PS4用ソフトとの互換性は、私の中ではあって当然でした。

--開発時のエピソードはありますか?

西野SVP  実は音の力がすごいと思っています。(PS5のコントローラーの)「デュアルセンス」のスピーカーの質が高く、「ハプティクス(振動や動きの技術)」は音がないと弱く感じる部分もあります。プロトタイプの開発中にそのスピーカーが壊れたことがありまして、「ハプティクスが弱い」と話したら、伊藤から「それは音がないから」と指摘されたことがあります。触感と音の組み合わせがあってこそです。だから今回はユニークだと思っています。

--PS5のコントローラーは触らないと魅力が伝わりづらい面があります。

西野SVP  各社にPS5の説明をするとき、資料だけでなくデモ機もあり、コントローラーとSSDもありました。実際に触っていただかないと説明しづらいところはありました。

--PS5に採用するCPUやメモリー、どういう基準で決めたのでしょうか。

伊藤副社長  自分たちのやりたいところもあるし、半導体業界のロードマップを見ながら……。当然コストの面もありますよね。どれを一番優先するのでなくバランスを取りながら決めています。ただし、SSDとコントローラー、3Dオーディオは核としてやりたかったことです。その三つは「あるもの」で、他のコストをどう落としていくか……でしょうか。

西野SVP  とは言え……。SSDのスピードと価格と容量はバランスなのです。実はそれらの表がありまして、それを見て5年後のことを決めるわけです。マーク(サーニーさん)は「ここでやりたい」となって「じゃあ、どうしよう」となるわけで、簡単な判断ではないのです。伊藤の長年のカンと経験で「いけるよ」というのがあったりします。もちろんそれがだいご味なんですよね、仕事としては。

伊藤副社長  誰も触れてくれないので言ってしまうのですが、5年前に「11ax(イレブン・エーエックス、無線LAN規格Wi-Fi6)」の採用を決めたのは、良かったと思っています。ですが仕様を決めるときに(対応する)ルーターはないわけです。でも「5年先は出るだろう」と思っていました。今年ルーターが出て、PS5が対応していると聞いた人は「11axか。ふーん」という感じだと思いますが、5年前は結構な判断だったのですよ(笑い)。

西野SVP  PCIe(高速データ通信の拡張インターフェース規格)を何レーンでいくのか、メモリーがどういうスピードになるのかというのは、思い切りだと思っていますし、それがPSのクオリティー(品質)だと考えています。我々はハイエンド(高級志向)なことをしているわけではなくて、「価格」と「お客様の体験」と「技術の進化」のバランスなんです。今はうまいところにダーツが撃てていると思っています。

--未来を見据えると言えば、「数年後にPS5の上位機種が出る!」という気の早い予想もあります。

西野SVP  プラットフォームの刷新サイクルは他社を見ても短くなっているので……。一辺倒な答えになりますが、いいものが出せるようを準備して、着実に良いものをお届けしたいと。次の仕事はPS5をちゃんと仕上げていくことと、次をどう考えるということです。

--無茶な質問に答えていただき、ありがとうございます。

西野SVP  PS4 ProのときにPS5をイメージしたのと同じ通り、PS5を考えるときに次を考えないとデザインできないのはあります。次、次の次を考えながら……。何年も先の話なので分かりませんが、先を考えながらやっているのは事実ですね。

◇プロフィール

伊藤雅康(いとう・まさやす)=1986年ソニーに入社。2000年からソニー・コンピュータエンタテインメント(現SIE)でPS3やPS4などの開発にかかわっています。PS5の設計統括責任者で、ソニーの執行役員も兼任しています。

西野秀明(にしの・ひであき)=2000年ソニー入社。モバイルFeliCa事業開発や、PS3の「Folding@home」などを担当。現在は、SIEのシニア・バイス・プレジデントとして、PS5の商品企画責任者で、ユーザーインターフェースを含めて統括しています。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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