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マウイ島に2つの熱帯低気圧が接近 その影響は

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ハワイに接近する2つの渦 (NOAA出典の16日の気象衛星画像に筆者加筆)

マウイ島の大火による死者数が100人を超え、アメリカ全土における過去105年で最悪の山火事となりました。

日々捜索が続けられていますが、炎は金属を溶かすほどの激しさだったため灰となっている遺体も多く、捜索は困難を極めているそうです。

身元が特定できているのはごくわずかで、現在も1,000人以上が行方不明と報告されています。

「グレッグ」と「フェルナンダ」

そのような中、いまハワイに2つの熱帯低気圧が近づいています。「グレッグ」と「フェルナンダ」です。エルニーニョの年はいつもよりハワイ近海にハリケーンが接近しやすくなります。

この2つの嵐は、被災地にどのような影響をもたらすでしょうか。

グレッグ -- 風

現地時間16日(水)現在、グレッグの中心気圧1004hPaで、その中心はマウイ島の南約900キロの距離にあります。ハワイに直接やってくることはありませんが、マウイ島ではやや強めの風が吹いています。

山火事を拡大された一因となったハリケーン「ドラ」は、グレッグと同じような経路で通過していきました。しかしドラに比べてグレッグは弱く、8日(火)に比べるとハワイで吹く風ははるかに弱いと予想されます。

フェルナンダ -- 大雨

ではフェルナンダはどうでしょうか。こちらは懸念材料です。

現在フェルナンダは水温の低い海上を進んでおり、まもなく温帯低気圧へと変わります。しかしその雨雲がマウイ島を通過する見込みで、現地時間20日(日)から21日(月)にかけて一時的に大雨が予想されています。

マウイ島ではまだ火が完全に消されていませんので、この雨は恵みの雨とはなりそうです。ただ、焼土に雨が降ることで遺体の捜索をさらに困難にさせる可能性があります。

なぜ燃え広がったのか 予報官の話

マウイ島の山火事がこれほど広がった背景について、アメリカ気象局の予報官に聞いたところ、次のような話をしてくれました。

「山火事が起きた時は、平年と比べて気温が高かったとか、干ばつが特にひどかったということはなかった。ただこれまで雨が多かったために草が生い茂っていたところに、乾季に入って一気に乾いたことで燃えやすいものが多く存在していた。そこに極端に乾燥した強烈な強風が吹き荒れた。」

約80hPaの気圧差に挟まれたハワイ (NWS出典の8日の地上天気図に筆者加筆)
約80hPaの気圧差に挟まれたハワイ (NWS出典の8日の地上天気図に筆者加筆)

上図は、山火事が起きた8日(火)の地上天気図です。

ハワイの南に中心気圧953hPaのドラ、北には1034hPaの高気圧があります。この81hPaの気圧差がハワイに強風を吹かせたわけです。この高気圧の中心はいつもより南に位置していて、ハワイに近かったと予報官は話しています。そのために気圧傾度が大きくなってしまったようです。

これまでのところ火災の直接原因については、送電線からの出火ではないかとの疑惑が上がっています。下の動画には、倒れた木が送電線に当たった直後に炎が広がる様子が映されています。

被災地への観光を控えて

当局は、必要不可欠な場合を除いて観光客にマウイ島からできるだけ早く離れるよう要請しています。

しかし今でも現地にとどまったり、はたまた島にやってくる観光客も少なくありません。被災地を物見遊山する人や、犠牲者が出た海で海水浴をする人もいて、住民は怒りの声を上げています。そのうえに、家を失った住民の一時的な避難所として使われるべきホテルの部屋が、なかなか空かないという問題も出ています。

いまはマウイ西部への渡航は自粛するべきです。その想いを強くします。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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