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黒いB-1B爆撃機を「死の白鳥」と何年経っても呼び続けるメディアの病理

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ空軍公式サイトよりB-1B爆撃機

 アメリカ軍のB-1B爆撃機を「死の白鳥」と呼ぶ誤解が広まって5年以上も経ちました。初出は7年前です。そして未だに多くのメディアでは碌に訂正されないままこの奇怪なネーミングが使われ続けています。

 ・・・B-1Bの塗装色は黒色なんですけれど? 一体どこが白鳥なのだろう・・・

 韓国のナムWiki(木のWiki)ではB-1B爆撃機を「死の白鳥」と呼ぶ発端となった誤解の経緯が詳しく調べられて掲載されています。

【韓国語を日本語訳】

最近、韓国メディアからB-1が『死の白鳥』(swan of death)という正体不明のニックネームと呼ばれている。おそらく月間軍事世界のイ・セファン記者が国防広報院ブログに2015年2月11日に寄稿した内容が始発点であると見られる。おそらくロシア軍の戦略爆撃機であるTu-160が「白鳥」と呼ばれることを混同したと推測される。

以後、SBSが2016年8月1日8時のニュースでB-1を死の白鳥と呼び、他のマスコミも倣い今はまるで公認されたニックネームのように記事で使われている。正確に検証もせず、一箇所から先行報道が出ればそれに従って書く拙速な国内メディアの力量不足が如実に明らかになった事件である。参考にインターネットでB-1爆撃機と「死の白鳥」(swan of death)を一緒に入れて検索すれば海外ソースでは全く検索されず、ただ国内のメディアの英文翻訳記事だけで言及される。

何よりもB-1の所有者である米国側で、どんな文書でもB-1を「死の白鳥」と呼ぶことはない。日本メディアであるNHKで死の白鳥という名称で報道に言及されるが、おそらく韓国メディアを引用する過程で伝播されたと推定される。ナ・ヒョンチョル中央日報論説委員が語源を調べるために韓米連合軍司令部に直接問い合わせたりもしたが「全く聞いたことがない」という回答だけを受けた。

出典:B-1 : 명칭에 대한 이야기들 : 나무위키

 どこか一つの有名メディアがそう報じたら全て右に倣え。それは海を越えて日本にまで伝播してしまいました。韓国メディアも日本メディアも同じ間違いを繰り返し続けて、数年経っても未だに間違った呼称「死の白鳥」が使われ続けています。

過去記事:黒く塗装されたB-1B爆撃機を「死の白鳥」と呼ぶメディアのチェック機能の無さ(2017年11月15日)

 B-1B爆撃機を「死の白鳥」と呼ぶ間違った呼称が韓国で広まって6年、日本で広まって5年が経ちましたが、NHKなどでも未だに訂正しておりません。

【韓国語を日本語訳】

「死の白鳥(swan of death)」と皆が呼ぶが、米国や米軍の公式用語ではない。 グーグル検索してみると死んでいく白鳥の写真だけがたくさん出てくる。 海外メディアでも書かれていない出所不明の用語だ。韓米連合軍司令部に尋ねても「全く聞いたことがない」という。

出典:‘죽음의 백조’는 없다 : 중앙일보 : 2017.09.26 : (「死の白鳥」は無い | 中央日報)

 韓国では幾つかのメディアで疑問の声は指摘されてはいるのですが、しかし未だに使い続けるメディアも多く、それを見た日本メディアも倣ってしまっています。

 北朝鮮が最近ミサイル発射を大量に繰り返し威嚇してきたことに対し、アメリカ軍は対抗として米韓合同演習「ヴィジラント・ストーム」を1日延長し、当初の予定に無かったB-1B爆撃機をグアムのアンダーセン基地から韓国へ向かわせました。そして日韓の報道は相変わらず「死の白鳥」という間違った呼称を連呼してしまったのです。

 黒いカラスを白いと言い続けるのと全く同じ行為が何年にも渡って続けられる異常事態は、ちょっと理解することができません。B-1B爆撃機の写真を見ずに記事を書いているのでしょうか? 校正で気付きそうなものですが・・・

 もしも非公式のニックネームが一般の兵士の間で広まって名付けられたなら、多少おかしなネーミングでも受け入れられたことでしょう。しかし発端が勘違いの誤用で、そして大手メディアがこぞって連呼したせいで定着するのは、受け入れ難い思いがあります。

 黒い飛行機を白いと言い続ければ真実になる。嘘を100万回言えば真実になる、メディアにそんなことをさせるのを許してしまったら、幾らでも捏造報道が蔓延し放題となってしまいます。今回の件は爆撃機の呼ばれ方という広まってもあまり害の無いものでしたが、他の案件で似たようなことが起きたらと思うと、危険な動きのように思えてなりません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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