村田諒太、ゴロフキンの次戦の動きは?2021年ミドル級戦線の情勢と展望
2トップから群雄割拠の様相に
ボクシングで多くの名王者たちを生み出したミドル級。絢爛豪華なクラスはサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)の2トップ時代を経て、群雄割拠の様相を呈している。村田諒太(帝拳)がWBAレギュラー王者からスーパー王者に昇格。WBC王者が双子のチャーロ兄弟の兄ジャモール・チャーロ(米)、IBF王者がゴロフキン、WBO王者がデメトゥリアス・アンドラーデ(米)が主要4団体の王者に君臨。ちなみに村田の昇格でWBA暫定王者クリス・ユーバンクJr(英)がレギュラー王者にシフトすると推測される。
しばらく主役を務めると思われたカネロが今月初めWBAスーパー王座を返上、本格的にスーパーミドル級でキャリアを進める方針を固めた。これはカネロのエディ・レイノソ・マネジャー兼トレーナーが「168ポンド(スーパーミドル級)が今、一番カネロにフィットし強さを発揮できるウエートだ」と明言したようにフィジカル的な理由によるもの。2019年11月、セルゲイ・コバレフ(ロシア)を倒してライトヘビー級を制したこともパワーに自信を植えつけた。おそらくカネロは同年5月に行ったダニエル・ジェイコブス(米)戦がミドル級最後の試合になるもようだ。
一方ゴロフキンは2018年9月のカネロとの第2戦で惜敗。初黒星を喫し統一王座を失った。翌年10月、セルゲイ・デレフヤンチェンコ(ウクライナ)との王座決定戦でIBF王者に返り咲き、コロナパンデミックによる空白を経て昨年12月、2度目の王座の初防衛を果たした。相変わらずカネロとの第3戦はファンの大きな関心事だが、「ゴロフキンとの第3戦は彼が168ポンドクラスに上がることが条件」とカネロは語っており、ゴロフキンがどんな反応を示すかが実現へのカギとなる。
チャーロ兄最強説
ゴロフキンとジェイコブスに大善戦したデレフヤンチェンコに昨年9月、判定勝利ながら快勝したチャーロは、以前から「カネロ(ミドル級に留まればの話だが)やゴロフキンより強いのではないか」という声が一部で上がっている。そのため「2人とも対戦を避けている」と指摘される。これはプロモーションや中継するテレビの違いで交渉が進展しないことも関係する。そして報酬の問題が最大のネックになっているとみる。だが元スーパーライト級&ウェルター級王者で現在ESPNで解説を担当するティモシー・ブラッドリーは「カネロはベストな男たちと対戦したがらない。ジャモール・チャーロに勝たないと本当のナンバーワンとは呼べない」とコメントしている。
もう一人チャーロと対戦を避けていると噂されるのがアンドラーデ。だがアンドラーデ自身は「私はチャーロから逃げていない。クレージーだ」と反論する。そんな彼にとり好ましくない噂が立つのは数年前、WBO・S・ウェルター級王者時代に現同級3冠(WBAスーパー・WBC・IBF)王者でジャモールの弟ジャメール・チャーロ(米)との統一戦が流れたことが影響している。その後エディ・ハーン・プロモーターのマッチルーム・ボクシングとストリーミング配信DAZNと契約したアンドラーデは今、チャーロ戦を大いに歓迎する姿勢。ハーン氏はチャーロ側に700万ドル(約7億2000万円)のオファーを送り返事待ちの状態だという。
敬遠されるアンドラーデ
チャーロ、ゴロフキンそして村田との対戦を希望するのが先に触れたユーバンクJrだ。最後に登場したのが2019年12月のWBA暫定王座決定戦だから、コロナ禍でブランクに見舞われリングに上がりたくてウズウズしているのだろう。「今ミドル級にはゴロフキン、村田、チャーロそしてアンドラーデというチャンピオンがいる。彼には絶好のチャンスだといえる」と英国紙ザ・ミラーで、マネジャーの元世界フェザー級王者バリー・マクギガン氏が発言。続けて「38歳のGGG(ゴロフキン)はいまだにキングだけど彼はもう向上は望めない。村田にもチャーロにもグッドファイトの末、勝てるだろう」と大そうな自信で愛弟子をバックアップする。
それでも「ただし……」とマクギガン氏。「ただしサウスポーのスムーズボクサー、アンドラーデだけは警戒しなければならない。いいジャブを持っているし、クリスに苦戦を強いるだろう」と明かす。攻撃力がある村田やチャーロよりもスキルで勝負するアンドラーデを苦手と見ている。
ミドル級でWBSS実現?
ユーバンクJrは村田と同じWBAのベルトを保持する。村田はスーパー王者になり、指名試合の期限が延びたが、同じ団体内の統一戦としての相手に挙がるのではないだろうか。同マネジャーによると最近ユーバンクJrはチーム・ザワーランドとプロモーション契約を結んだ。ザワーランドと言えば、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のメイン・プロモーター、カレ・ザワーランド氏が運営する会社。ミドル級でもWBSSが実現する――と期待したくなる。
5月にゴロフキンvsムンギア?
他方でゴロフキンには5月、前WBO・S・ウェルター級王者ハイメ・ムンギア(メキシコ)との対戦が取りざたされている。ミドル級で2階級制覇を狙うムンギアは米国のゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)がカネロに続くタレントとして売り出す24歳。カネロがGBPを去り、存在感が増している。GBPは次戦でゴロフキンに当て、一気に勝負をかける雰囲気が感じられる。
ムンギアをデビュー当時からサポートするメキシコの共同プロモーター、サンフェル・プロモーションズのフェルナンド・ベルトラン社長に聞くと「今はトークの段階。交渉が進展しているとは敢えて言わないことにしている」という返事。「結論はあと数日で出るだろう。プランはたくさんあるけど、期日と場所が大事。5月上旬はカネロの試合が組まれるだろうから重ならないようにしなければならない」(ベルトラン氏)
同時期、カネロはWBOスーパーミドル級王者ビリー・ジョー・サンダース(英)との統一戦が有力な状況。ゴロフキンvsムンギアもある程度の大きさを持つアリーナで観客入りで開催すればムンギアを応援するメキシコ人ファンが集まるはずだが、それまでにパンデミックが収束する保証はない。カネロの試合スケジュールとコロナの情勢が実現のカギになりそうだ。
マルティネスの遠吠え
カネロの決断で村田の最大のターゲットはゴロフキンになった。次戦で防衛戦をクリアし、その次でミドル級の帝王と畏怖されるカザフスタン人と雌雄を決することになろうか。コロナという予期しない中断が入ったものの、日本のファンのお楽しみは残されている。いやが上にも村田の次戦の相手とパフォーマンスが注目される。
もう一人、村田との対決を熱望しているのが元WBC王者セルヒオ・マルティネス(アルゼンチン)。昨年、6年ぶりに復帰し居住するスペインで2勝している。しかし46歳近くなった老雄の遠吠えを本気で捉える向きは少ない。WBAはマルティネスの過去の実績を評価してすでに5位にランクしているが、現状を反映しているとは言えない。まずは現役ランカーに勝つことが何より肝心だ。
それでもマルティネスは「ムラタ、ムラタ!」とスペイン・メディアを通じて連呼する。最新ニュースでは4月にリングに上がり夏場にもう1試合行い、今年3戦目で村田にアタックする計画だという。過去には一世を風靡したWBCスーパーウェルター級王者テリー・ノリス(米)がビッグネームのシュガー・レイ・レナードやドン・カリー(ともに米)を下してキャリアに箔をつけたケースがある。“マラビーリャ”(素晴らしい、驚嘆すべき)と呼ばれるマルティネスと戦うことはけっして寄り道ではないと思う。